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「一緒にここから抜け出そう!」
そう、自分に言い聞かせ、奮い立たせれば、先ほどの不安はまた一気に何処かに吹き飛んでしまった。言葉の力って偉大だなあ何て思いつつ、私はリースの手をギュッと握って引っ張り上げようとした。だが、結果はと言うと――――
(重い! そりゃそうよね、鍛錬とかして筋肉のついた男性なんだもん!)
ゲーム内で見たリースの上半身。滅茶苦茶鍛えられていてたくましくて、何度鼻血を出したことか……そんな男性を私の、それもエトワールは思った以上に小さいしか弱いしで、持ち上げられるわけがなかった。見栄をはったわけじゃないし、助けたいって云う思いが増さって今現在こうなっているわけだが、このままではやはり二人とも落ちてしまうと思った。
片手だけで糸を握っているため、バランスが取れずに身体が傾いてしまっている。
「エトワールいい、離せ。このままでは二人とも落ちてしまうぞ」
「分かってる、分かってるから、話しかけないで!」
「……」
「一緒にここからでるって言った。有言実行する! 私、良い子!」
と、駄々をこねた子供のように、幼稚な言葉ばかりが口から出てくる。自分で言っていて恥ずかしくなるけど、私はいつもそうだったから。
有言実行する子、それが良い子だって思ってるから。自分に言い聞かせることで、自分を強く保とうとしていた。そんな弱い子だったから。
私は、汗ばむ手で離してなるもんかとリースの手をしっかりと握る。
リースが今どんな表情をしているか分からないけど、反応を見るところ嫌がっているわけではないようだ。まあ、嫌がられても目の前で推しをなくす……中身は元彼だけど、人が死ぬ所なんて見たくないから。
(けど、重い! ほんとコレ落ちちゃう!)
正直言うと腕は限界に来ていた。本当は離したいし楽になりたいけど、そんなことで切るわけなかったから。
でも、引き上げたとしてあの手が伸びてくる限り逃げ場はないのではないかと。
「エトワール」
「何!? 話しかけないでって言ったじゃん! 落とされたいの!?」
ぽろりと零れたそれは、自分でも何を言っているんだと思うレベルに酷かった。
その言葉を聞いてリースはクスリと笑った。
「落とされたくはないな」
「でしょ!? だったら――――」
「ああ、落とされたくもおちたくもないな」
と、リースは余裕のある笑みを浮べ、少し揺れるぞと言うともう片方の手で握っていた剣をあの闇色の手に突き刺した。
すると、闇色の手はシュルシュルと底へと戻って行く。
一体何が起こったのかとリースを見れば、額に汗を浮べながら私の方を見上げていた。何となくそれで、私は彼が魔法を使ったのだろうと理解した。
「い、今引き上げるから!」
「ああ、そうしてくれ」
リースはそう言いつつ、目を伏せた。そのせいもあってずしっとした重みが身体を伝ったが、私は彼と同じように自身の手に教科魔法をかけてリースを何とか持ち上げた。
リースが落ちてきた亀裂くぐり抜けて私達はやっとの思いで地上……ではないが、上の方まで戻ってきた。
「はあ……はあ……」
身体は水に濡れたように重く、全身が震えていた。生理的な震えであったから、まあいずれは収まるだろうと私は考えてリースを見た。リースは息を切らしながら、足を床につき、苦しんでいるようだった。
「リース……」
「大丈夫だ。心配ない」
「魔法使ったんだよね。光魔法、何かはよく分からないけど」
「ああ、そうだな。使った。だが、問題ない」
問題ないと彼は言うが私には全然問題あるようにしか見えなかった。
リースはあの手を振り払うために何やかの魔法を使った。それも、魔力消費量の多い奴だと思う。災厄が引き起こした負の感情の塊であるこれらに攻撃を与えるには、ただの魔法じゃいけないのだ。
光魔法は大きな組み分けであり魔道士や魔力を持つ者であれば使えるもので(闇魔法か光魔魔法かのいずれかである為)勿論リースや、アルベド以外の攻略キャラは使えるようになっている。しかし、光魔法は光魔法の魔法師であれば誰でも使えるが故に魔力の消費量が火や水といった魔法よりも消費してしまうのだ。
魔力の枯渇は身体に大きな影響を及ぼすため、あまり頻繁には使えない。それこそ、聖女でなければだ。
「大丈夫じゃないでしょ。無理して」
「はは……そうかもな。だが、あのままでは本当に二人落ちてしまっただろう? それとも、一緒に落ちたかったか?」
「冗談を……」
洒落にならないと私は吐き捨てて、リースに近寄った。
やはり消耗しているようで、肩で息をしており、とてもじゃないが立ち上がれそうになかった。
「リースはここで待ってて、私がその核? を潰してくるから」
と、私は、彼にそう告げこの場をはなれようとしたが、待てとリースに腕を捕まれてしまう。
「俺も一緒に行く」
「でも」
私は、ここにいてともっと強く言わなければと思ったが、リースの真剣な表情を見るとダメだと強く言えなかった。それに、思えばここを離れてまたリースと再会できる保証はない。
「また、お前が呑み込まれたりでもしたら大変だからな」
「……けど」
「安心しろ。お前の前では死なない」
リースはそう言いながら、剣を突き刺しおぼつかない身体を支えながら立ち上がった。それでも、前のめりになれば今にも倒れそうだったため、私は彼の身体を支えた。彼の身体に触れると、驚くぐらいに、リースの身体は冷たかったのだ。まるで、死人のように。
「リース、でも矢っ張り休まなきゃ」
「お前を一人に出来ない」
「そんなに私が頼りないって言いたいの!?」
思わず私は叫んでしまった。
それは本心だったし、心配されるのが嫌だったからではない。でも、もう少しだけ信頼して欲しいと思ったからだ。
私はしまったと口を塞ぐが、完全に言葉が出てしまった後だったので遅く、リースは申し訳なさそうなかおをしていた。だが、やはり彼は私を一人に出来ないというような、小さな子供を見るような目で私を見つめていた。
(別に、私は自分が強いとか思っているわけじゃないけど……)
「分かった、でも無理しないでね」
今の私に言えることはそれだけだった。
リースは善処しようと微笑んで、私の肩を仮ながら引きずるように歩き始めた。ああ、無亜ちゃするなあと思いつつ、一緒にいてくれる安心かは勿論あるわけで、冷たいながらもそこに体温があるのが嬉しく思えた。
(身体は冷たいくせに滅茶苦茶心臓脈打ってるし……その、リースも好きなのかな……)
この期に及んで何を考えているんだと私は首を横に振った。自惚れを掻き消すように私は頭をクリアにして兎に角心臓探しをすることに下。一刻も早くここをでなければと思ったからだ。
先ほどから、痛々しい悲鳴のようなものが聞え、それらは徐々に近づいてきているような気がしたから。やはり、負の感情が集まって出来てしまった怪物故に私達のことも取り込もうとしているのだと。
(でも、今はリースがいる)
それだけで心強いと言い聞かせ、少し歩くとドクンドクンと私達ではない何かが脈打つ音が聞え、私とリースは耳を澄ませた。
「あ、あれ!」
音はだんだんと近付いてき、ぼんやりとその音の正体が見えてくる。
それは、先ほど見た黒い棘に囲まれた心臓だった。
「あれを壊せば……」
ゴクリと私は固唾を飲んでそれに一歩近付いた。気味が悪いほどに、本物の心臓のように黒い棘の中心で脈打つそれが直視出来なかった。
生々しい……まだ、生きているとでも言うように主張してくるそれに、また寒さを感じ始めた。近付けば近付くほど、またあの恐怖が不安が蘇ってくる。確かに、核と言うだけあって、あれがこの怪物の一番重要なものなのだと。
リースは私の後ろで周りを警戒してくれている。
「エトワール、気をつけろよ」
「うん、分かってる」
私は、振向かずにリースにそう伝え、もう一歩と足を前に踏み出すと、動物が音を察知したごとく四方八方に広がっていた棘が一斉に私の方を向いた。
「エトワールッ!」
リースが叫び声を上げるのが先か後だったか、その黒い棘は先をとがらせ私の方へ一直線に飛んできた。
その早さは目で追えないほどだった。
「……ッ!」