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「エトワールッ!」
「……ッ!」
黒い棘は、身体に突き刺さる前に停止した。いや、未だに私の身体をつき刺さんとばかりに伸びてきているのだが、私は間一髪の所でそれを防いだ。
(危ない……光の盾を発動してなかったら今頃串刺しね)
咄嗟に発動させた光の盾で私は何とか棘の攻撃を防ぐことが出来た。だが、光の盾も、底まで強度がなかったのか、ぴきぴきと音を立ててひび割れ始めた。私は、さらに光の盾を展開させ、後ろへ飛んだ。
「どうやら、一筋縄ではいかないようだな」
「……うん、まあと思ったけど」
リースは、フッと口角を上げると剣を構えた。どこからかふいてきた風に彼の赤いマントが揺れる。こんな暗闇でも、絶えず光り続けるその黄金の髪に私は目を奪われながらも、棘の行動を監視していた。
こちらが、あの核に近付かない限りあれは攻撃してこないようだった。
だが、こちらも近付かなければあの核を壊す事は出来ないため、どうにしても近付かなければならなかったのだ。
ならば、遠距離攻撃は如何だろうか。
と、私は手で弓を引くポーズを取り、光の弓矢を発動させ射るが、予想通りに黒い棘に弾かれてしまった。やはり、一筋縄ではいかない。
「次はどうする?」
「光の弓矢も、ダメなんじゃ……えっと、えっと」
焦るな。とリースに言われたが、こういう状況にはめっぽう弱いために私の頭は破裂しそうだった。今のところ、近付くのもダメ、遠距離攻撃もダメとなると次に打つ手はどうか私は頭を捻りまくった。
リースも魔力が枯渇に近いため、あまり難度な指示は出せないだろう。
(これは、ゲームじゃなくて現実なのよ。ちょっと楽しんじゃって!)
実を言うと少しだけドキドキしていた。やったことのないゲームをプレイするような感覚と言ったら良いだろうか。オタクだからか、こういう絶対にクリアできないであろう局面にぶつかると、魂が燃えてしまうのだ。オタクとはそういう生き物なのだ。
とまあ、魂が震えているのは置いておいて、本当に困ってしまった。
特攻すればどうにか回路を開けるだろうがここで死んでしまったら戻れないだろうし、二人とも無事でここを抜け出したい。とすると、やはり魔力が残っているわたしが魔法をうって、その隙にリースが核を潰してくれるのが得策だろうか。
「いい案でも思いついたか?」
「いや、どっちにしても、リスクが大きいと思う……二人無事にここから脱出したいから」
「……少しぐらい攻撃を喰らっても大丈夫だろ」
「大丈夫じゃないの! リースの顔に傷がついたら!」
「顔だけか」
「顔だけじゃないけど!」
推しの顔に消えない傷が残ったらどうしようとヒヤヒヤしてしまう。だって、推しの顔、滅茶苦茶良い!
心の中で叫びつつも、勿論リースの身体が傷つくだけじゃない、中身の遥輝のことだって心配しているし、そっちの方が心配だ。幾ら、私より丈夫とは言え(ゲーム内で滅茶苦茶攻撃喰らっていたけどそれでも立っていたし)、痛みは感じるのだ。不感症というわけじゃないだろうし。
私は取り敢えず気休め程度に光の弓矢を握り、何重にも絡まった黒い棘を見た。
あれが植物だったら火が聞くだろうか。いいや、あれが植物だとは限らない。それに、こっちまで燃え広がったら大変だし、私はそもそもに火の魔法を上手く扱えない。もっと練習していれば良かったと思ったが今更だ。
私が考え込んでいると、リースが何かをひらめいたように私の頭を撫でた。
「何よ!」
「そう怒るな。災厄が作り出した怪物であるなら、光魔法が有効だろう。他の魔法をうつことは考えない方が良い。魔力の温存のためにも」
「分かってるのよ! でもでも」
「その弓矢を剣の形にしてみたらどうだ? 闇魔法の弱点は光魔法だからな、反発すれど、あの棘の再生能力も落ちるだろう」
「確かに」
リースは、フッと笑ってもう一度私の頭を撫でた。格好いいな……と惚けつつリースの言ったとおり、別に遠距離攻撃だけをしなくても良いのだ。そりゃ、特攻が必要になってくるが、思えばそっちの方があの棘に近付くことは出来る。
闇魔法と光魔法が反発する性質を利用して、彼の言ったとおり棘の再生能力を遅らせれればいいのだ。
「やってみる」
「ああ、頼んだぞ」
リースは剣の柄を握って前を向き、私はその間にイメージを凝り固まらせて魔法で光の剣を作った。想像以上に上手くできたと思いつつ、やはり聖女の力なのか、剣は眩いほどに光り輝いていた。
「出来た、コレで……って、ひぃい!」
そうリースに伝えようとしたとき、黒い棘がこちらに向かって伸びてきていた。先ほどは、近付かなければ無害だったのに、まるで、私の剣をめがけて飛んできているようだった。
私は、後ろに飛びつつ、一心不乱に剣を振り回し続けた。
「こ、ここここ、来ないで!」
「エトワール、落ち着け!」
リースの声が遠くで響いたような気がしたが、私は彼の言葉に耳を傾ける余裕など無く、剣を振り続けた。だが、黒い棘達は、私だけに狙いを定めて全方向から伸びてきている。
(何、何で!?)
ちらりと、剣を見れば先ほどより光を失っているようで、形の維持が出来なくなっているようだった。イメージが崩れれば魔法が発動しなくなるのは良くあることで、今まさにそのイメージが切れようとしているのだった。
そういて、私は一つの仮説を立てる。
(そうか、闇魔法と光魔法は反発するって言ってたから、光魔法の苦手は闇魔法で、闇魔法は光魔法が苦手で……)
苦手だからこそ消そうとしているのではないかと。棘に目があるかは不明だが、光に寄ってきていることは確かだった。
ならば、もしかするとコレが使えるのではないかと。
「リース!」
私はリースの名前を叫び、ちらりと振返ったリースのルビーの瞳と目が合った。
彼は、私が叫び、私の意図を理解したのかコクリと頷いて、核の方へ走っていく。私も棘達を引きつけながら核の方へ走る。
勿論、目の前も黒い棘でふさがれたがそれも予想内。
「少しの間だけでも、隙を作れた――――」
私は後数メートルで核に届きそうな所まで来て、握っていた剣を空中へ放り投げた。すると、棘達は一斉に宙へ舞い上がった剣めがけて飛んでいく。私は、その隙を突いてもう一本、光の剣を作り核めがけて飛んだ。
だが、一瞬遅かったのか棘達は空中へ飛んだ剣を呑み込み、闇の力を増した太い幹で私の方へ戻ってくる。鋭く先端が尖っていたようにも見えたが、私は止ることなく核を剣のさきで貫いた。
「ッ!」
しかし、最後の最後で棘の攻撃を喰らってしまい、左肩から鮮血が噴き出した。
プチっと、軽く粒やれるような音がして、目の前の核は黒い隅のようなものをまき散らしながら破裂した。それらが、私の真っ白な服につき、そして服を溶かした。
「……はあ、はあ……やった?」
「エトワール」
と、その場で倒れそうになった私をリースは支えてくれた。カランと、彼の剣が地面に落ちる音が聞え私は目の前でぱらぱらと消えていく黒い棘達を見て、やったと力が抜けた。
「良くやったな。エトワール」
「……あり、がと。リース。でも、アンタ最後私を守る為に魔法使ったでしょ」
私がそう聞けば、リースは目を丸くして、それから観念したように口を開いた。
「何故分かった?」
「だって、あれ絶対私棘に貫かれてたと思うもん。これだけの怪我ですむはずない」
「そうだな」
そう、リースはいって肩をすくめた。
彼は、最後私を守る為に光の盾を使ったのだ。勿論、彼に全ての業劇を防げるほどの魔力は残っていなかったため、今リースは立っているだけでやっとの状態だと思う。だけれど、彼は私の前では強い、理想のリースでいてくれた。
それがちょっと格好良くて、そのかっこよさはリースじゃなくて遥輝のもなんだなあと思いつつ、私はフフッと笑った。リースも私につられて笑っていたし、二人初めての共同作業だななんてリースはからかってきた。
確かに、共同作業だった。なんて思っていると、闇が引いていくのが分かった。
「あ……」
黒い棘もあの手ももう何処にもない、パラパラと硝子が砕けるように暗闇が晴れていく。
「聖女様!」
闇が全て晴れると、あの怪物の身体は消えており、私達を心配しこちらに向かってくるルーメンさんやグランツの姿が見えた。
私達はあの怪物をやっつけたんだと、そこで初めて実感した。