テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
翌日から、私たちの夜はさらに深く、そして奇妙な色を帯びていった。
『バレンシア』の閉店を知らせるプレートがカタンと乾いた音を立てて裏返されると
そこは湿った夜気を吸い込んだ酒場から、「共犯者たちの作戦本部」へとその姿を変える。
カウンターには父の所有していた領地や鉱山の複雑な権利関係を示す地図と
埃を被った帳簿の束が重々しく広げられ、私はそれらをアルベルトと二人で仔細に検分する。
かつて屋敷の書斎で盗み見たことのある、忌まわしき家紋。
インクが滲んだ契約書の複製。
そこから浮かび上がる執拗なまでの不正の匂いと、同時に繰り返される不可解な失踪事件との時間的な重なり。
バラバラだったパズルのピースが、私の指先を通じて徐々に、しかし確実に嵌っていく感覚があった。
それは復讐という名の完成図へ向かう、暗い高揚感でもあった。
そして、いくつか見つかった怪しげなテープの数々。
アルベルトが鋭く指摘した通り、特定の反響音からある場所で録音されたと思しきものは
全てこの前同様に、私の父とアルベルトの父──あの非道な実施者との会話だった。
内容は曖昧で、断片的で、まるで何かの儀式を淡々と進めている
ただの日常会話のようにも聞こえたが、そのどれもが明らかに常軌を逸していた。
「今日はどこを壊した」といった言葉が、明日の天気を語るような軽さで吐き出される。
そのたびに、私は自分の血の中に流れる父の残虐さを思い知らされ、吐き気を催した。
ダイキリは主に、その天性の社交性を活かした情報収集を担当した。
「必ずどこかに真実は混じっているものです!」
彼女はそう胸を張ると、夜の街へ消えていく。
酒場の客の愚痴、市場の人々の噂話
それらを巧妙なゴシップ話術で解きほぐし、核心を突く情報だけを鮮やかに引き出してくるのだ。
彼女のお陰で、父が資金洗浄に使っていたと思われる、表向きは堅気の事業の存在や、父が頻繁に秘密裏に取引していたとされる闇市場の番人の名前などが、驚くほど早く判明していった。
その無邪気な笑顔と明るい振る舞いは、暗い怨恨に凝り固まった私たちには決して真似できない
情報収集における最強の武器となっていた。
しかし、ダイキリは熱心に資料を指し示しながら
時折、私とアルベルトの顔を交互に覗き込む。
その瞳に宿る、実の姉を頼るような真っ直ぐな光。
濁りのない、信頼の色。
それを浴びるたびに、私の胸の奥に冷たい棘が深く刺さる。