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自信満々に言い放ち、キッチンへと向かう。
尊さんは「危なっかしいな」と言いたげな顔をしながらも、隣でそっと見守ってくれていた。
尊さんの視線を感じて指先が緊張で小さく震えたけれど、近くにいてくれる安心感がそれを支えていた。
しかし──
「あっ!」
一瞬の油断だった。お湯を注ごうとティーカップを持ち上げた瞬間、指先が滑る。
陶器が床に叩きつけられ、甲高い音と共に粉々に砕け散った。
「ご……ごめんなさい……!今片付けますから」
視界が真っ白になる。割れた破片を見た瞬間、脳裏にどす黒い霧が広がった。
『こんなことも満足にできないんですね』
急に、亮太さんの冷酷な、吐き捨てるような声が耳の奥で再生される。
『本当に使えない。恋くんにはがっかりですよ』
恐怖で指先が氷のように冷たくなる。
パニックに陥り、膝をついて素手で破片を拾おうとしたその時
尊さんの強い手が俺の腕を掴み、強引に引き戻した。
「馬鹿っ。危ないだろうが」
「でっ……でも……早く拾わないと、怒られちゃう……っ」
「誰に怒られるっていうんだよ」
重く、けれど限りなく穏やかな声。
それが震える俺の鼓膜を優しく揺さぶる。
「怪我したらどうするんだ。片付けるのは後にして、まずは落ち着け」
尊さんの大きな手が俺の頬を包み込み、ゆっくりと親指で肌を撫でる。
その温かさに、ようやく俺の意識が現在に繋ぎ止められた。
「す、すみません……!俺、取り乱しちゃって」
「……どこも怪我はしてないか?」
「な、ないです」
「そうか。片付けるからお前は下がってろ」
「ほ、本当にすみません……っ、べ、弁償します……」
消え入りそうな声で謝る俺を、尊さんは呆れたような、けれど慈しむような目で見つめた。
「……おい、そんなに落ち込むな。このカップは使い古されてたから寿命が来た、それだけだ。弁償するほどじゃない」
「えっ、でも……」
「第一、お前が無事ならそれでいい。気にしすぎるな」
尊さんは俺の頭をポンポンと優しく撫でてくれる。
亮太さんなら、割れたカップを惜しみ、俺の不手際を何時間も責め立てただろう。
その違いに、胸が締め付けられる。
「…あ、ありがとうございます……」
尊さんは手際よくゴム手袋をはめ、破片を新聞紙に包んで片付けてくれた。
その背中を見つめながら、俺は呼吸を整えた。
その後、結局尊さんが淹れてくれた紅茶とコーヒーを手に、俺たちは再びソファに腰掛けた。
温かい蒸気が顔に当たり、紅茶の優しい熱が身体の芯まで染みわたっていく。
申し訳なさは消えないけれど、隣に座る尊さんの肩の重みが、今は何よりの薬だった。