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──駐車場へ車を入れて、助手席から彼女の手を取った。
店のエントランスまで来ると、立っていたドアマンがショップの扉を開いた。
「ここって……」
不意のことに困ったような表情を見せる彼女に、「どれでも好きな物を選んでください」そう伝えると、
「……こんなの選べないし、もう本当に充分なので……」と、頑なに拒んで踵を返そうとした。
その手首を捕らえ、行きかける彼女を傍らにぐいっと引き寄せて、
「……贈らせてください。あなたが、私だけのものだという証しを」
抱え切れない思いを吐いて、
「……このままでは、好きすぎていられない」
本気の胸の内を明かすと、
「えっ……」と彼女が口を開いて、私の顔を呆然と見つめた。
「……証しなんて、そんな…」
言う彼女をショーケースの前まで連れて来て、「私のわがままを聞いてください」と、改めて話した。
「わがままだなんてことは……」
「君を独占したいという、私のわがままなので」
続けてそう伝えると、
「……ずるい。そんな風に言うなんて……」
彼女が小さく呟いて、仄かに赤らんだ頬を両手で挟んだ。
ショーケースからお薦めの指輪を幾つか出してもらい、
「気に入ったデザインはありますか?」
スタッフが用意してくれたボックス型のスツールに、彼女と並んで腰を下ろした。
「……指輪なんて、私…」
まだ困り顔でいる彼女に、「これは、どうですか?」と、一つを手に取って差し出した。
「綺麗だけど、でも……」嵌めた指をじっと眺めている彼女に、
「気に入ったのを何個か選んだらいい。君の好みを踏まえて、指輪はフルオーダーにしますので」
言うと、「えっ、フルオーダーって……」と、彼女が驚いたように口に手を当てた。
「今すぐにプレゼントするのは君も気が引けるようなので、オーダーメイドにすれば数ヶ月は先になりますから」
「そういうことではなくて……」口にする彼女に、「わかっていますよ…」と、一言を返す。
今まで関わってきた女性たちとは異なり、彼女が望んでいるのは高価な物などではないことくらいもうわかっていた。
ただ、たとえそれがエゴだと気づいていても、エゴを通したいほど彼女を愛していることにもまた気づいてしまっていた。
「君の指にただ一つの指輪を嵌めて、私一人のものにしたいというエゴを、聞き入れてほしいのです」
胸に押しとどめておくこともできなくなった思いを告げると、短い沈黙の後──
彼女は、「はい」とだけ頷いて、
『わかりました』とでも言うように、ショーケースの陰でふっと私の手を握った。
それから、こちらに顔を向けて、
「もうずっと前から、私はあなただけのものなので」
ふわりと柔らかな微笑みを浮かべた。
「……デザインはお任せします。一臣さんが私のために選んでくれたら、それが一番嬉しいので」
彼女が理解してくれたことを私自身も嬉しく感じながら、似合うリングを数点選びカタログを見せてもらって最終的なオーダーを決めた──。