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(三)
石川君と話すようになってから、週に一度、花の写真を送っていた。アガパンサス、セルリア、ムギワラギク、ハマナデシコ…。彼のお気に入りは、ヒメユリ。その黄赤色が美しくて、私も好きな花だ。
私たちが通う詩乃原高校では、昨年大幅に校則が変えられた。前生徒会長が地域の人々の意見を聞く調査を実施した。髪型や靴下の色などの服装に関して「華美でない」と答えた人々が八割以上を占めた校則のみ改善された。
その会長を新入生歓迎会で見かけたが、すらりとした容姿で、石川君を彷彿とさせる雰囲気だった。
月曜日の午後一時。最近よく昼食を共にする小野ちゃんが風邪で欠席だったので、一人で済まそうと思い、旧校舎の屋上へ向かった。旧校舎は古臭く、独特な臭いがするのもあって、人が寄り付かない。
「あの臭いというか、空気感。好きだけど」
と小野ちゃんに言ったことがあるが、思ったことを直ぐに口に出す彼女は、きっぱりとそれを否定した。
屋上への階段までには扉があり、体重をかけな桃山御陵前ければ開かない。開いて直ぐに伸びる屋上までの階段は埃を被っているだけで、新しかった。
扉から顔を覗くと、彼の顔がハッキリと見えた。と同時に巻き上がる風が私を叩いた。この世にいるはずのない生物が目の前に現れたかのように私を見つめる彼を、私もその顔をして見つめていただろう。彼の横には、髪を脱色し、制服を乱した青年が夢中でお弁当を食べていた。旋毛から伸びる黒髪が粗雑そうだった。
私が会釈すると、石川君もこくりと頷いた。
「お邪魔してもいい?」
と聞いた。石川君が同意を求めるように金髪を覗き込む。金髪は白米をかきこみながら、頷いた。昼食に忙しい金髪の彼を他所に、石川君は金髪の彼を紹介してくれた。彼が食べているお弁当は石川君のものだそうだ。四割ほどを満たした白米に鰹節が振りかけられており、おかずは、だし巻き玉子と唐揚げ、縮緬雑魚とピーマン炒め。プチトマトが添えられたポテトサラダが綺麗に盛り付けられたお弁当だった。可愛らしい動物のピックと、色鮮やかなカップは少し幼い印象を持たせるが、石川君のお母さんはきっと几帳面で親しみのある方なのだろうなと思った。
「川端先輩?私、武田七夏です。」
「宜しく。ナナって呼んでいい?俺は蓮二で。タメで良いよ。」
冷たくあしらわれると思っていたので、驚いた。
「うん。またここに来ても良い?」
勿論。と蓮二が返した。
菓子パンを食べ終わり、石川君と教室に戻った。蓮二は午後の授業はサボるそうで、屋上を後にする私たちに、ばいばいと手を振ってみせた。彼の金色の髪が爽やかな風に吹かれて舞っていた。