コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。『大樹』にお願いしたら貴重な月光草が群生していました。
私は半分を馬車に乗せて早速『海狼の牙』へ届けます。
「あっはっはっはっ!やっぱりね!貴重な月光草が山ほどあるわよ!」
サリアさんが大爆笑していますね。何気に珍しい光景です。
「ミス・シャーリィは魔法使いだったのかな?」
「魔法は使えますが、魔法使いではありませんよ?」
メッツさんも強面な顔で困ったように笑っています。
「サリアさん、予想していたのですね?」
「……ええ、そうよ。あの『大樹』は貴女の願いを最大限叶えようとする。もちろん限界はあるけれど、便利よ。覚えておきなさい」
やはりサリアさんは『大樹』の正体を知っています。それでも教えてくれないのは理由があるのでしょう。不利益はないので構いませんが。
「これを納めるので、契約は約束通りに?」
「もちろんよ。うちの船を自由に使いなさい。人員も提供するわ。利用料も取らないわ。ただ、船員達の食事だけはお願い」
「もちろんです。面倒を見させて貰いますよ。契約成立ですね」
「これからも月光草が出来たら売ってちょうだい。次からは買い取るから」
「代金はサリアさんにお任せしますよ」
だってタダですし。
「考えておくわ。この月光草を上手く調合すれば完全回復薬が作れる。ただ、広めない方がいいわよ。敵を増やすだけだから」
「はい、サリアさん」
手足の欠損すら治してしまうと言う幻の霊薬、完全回復薬。そんなものを売り出したら、最初は良くても最後は国を相手にすることになりそうですね。
先ずはロメオ君達に研究を任せている段階ですが、実用化できても『暁』でのみ使うことにしましょう。
私はロメオ君達に月光草の研究を任せました。ただし、極秘扱いとして、月光草の栽培についても厳重に管理するように依頼しました。
まあ、放っておいても生えるので完璧に秘匿するのは難しいと思いますけど。
「ロウ、農作物の備蓄は?」
「倉庫を増築しておりますが、追い付かないほどでございます」
「では『黄昏』で消費する分と非常時用の備蓄を残して全て輸出します。交易手段が増えましたので、量を捌けるようになりましたよ」
サリアさんは、最低でも大型の帆船を四隻提供すると表明してくれました。つまり四倍の量を売り捌けるようになりました。
流通量が増えたら価格が下がるものですが、うちの農作物は真似できないのでそこまで値崩れを起こさないんですよね。
「それは有難い申し出でございます。これまでは廃棄する物もありました」
レイミの作ってくれた氷室のお陰で保存期間は延びましたが、農作物である以上保存には限界があります。
これまで余剰していた分は処分するしかなかったのですが、これで少しは……。
翌日、たくさんの馬車が黄昏の町を出発しました。中身は交易用の農作物や、『ライデン社』に売る石油を満載にしています。護衛には警護隊百名を配置しました。随分と物々しい行列になりましたが、仕方ありません。
「有難いねぇ。帝都へ寄り道しなくていいなら、航海の時間を短縮できるよ」
「エレノアさん達には海賊の島関連の交易に集中してほしいのです。回復薬の製造も順調ですから」
エレノアさんとこの隊列を見ながら語らいます。
「助かるよ。どうにも私達が居ない時にシャーリィちゃんは怪我をするからねぇ」
それを言われると困りますね。実際その通りなのですから。
「まあ、しばらくは残らせて貰うよ。回復薬の数が揃うまではね」
「助かります」
『暁』は先の戦いの戦訓を取り入れて諜報関係で大きな変革を行っている最中。海賊衆の存在は防衛と言う観点から見れば非常に有難い。
それから数日、本来の任務として『ラドン平原』で狩猟に勤しんでいた『猟兵』は、ある異常に気付き始めた。
「こんなに狩れたの!?」
リナは討伐隊が持ち帰った大量の素材を見て驚愕した。
「アーマードボア、アーマーリザード。共に三十体討伐。戦果としてはかなりのものだけど、一日でこんなに狩れるなんて思わなかったわ」
報告するのは、水色の髪を持つ女性、リサ。長年リナの片腕として活躍してきたエルフである。
「群れに遭遇したの?」
「そうよ。アーマードボアもね」
「アーマードボアは群れを作らないはずよ。なのに群れてたの?」
「ええ、そうよ。皆はスタンピードの兆候じゃないかと見てるわ。もちろん、私もね」
スタンピード、それはダンジョンから魔物が溢れ出す災害である。
「近くに発見されていないダンジョンがあるのかもしれないわね。調査隊の編成を代表に進言してみるわ。リサは人選をお願い」
「リナ以外で選ぶわ。貴女には立場があるもの」
「自由に動きたいのだけれどね。とにかく、お願い」
その日の夕方、リナはシャーリィと会うために館の執務室を訪ねていた。
「戦果は素直に嬉しいものですが、魔物の数が増えていると言うのは喜べない事ですね」
「はい。そこで調査隊を派遣して周辺を調べた方がいいと思います。未発見のダンジョンがスタンピードを引き起こして魔物の群れが町を飲み込む。珍しい話ではありませんから」
「許可します。ただリナさん達だけでは人手が足りないでしょう。マクベスさんに要請しておきますから、警備隊と連携して事に当たってください。現場の判断を最優先。事後報告で構いませんから」
「分かりました。採用していただき、ありがとうございます」
調査隊を数組派遣して二日後、状況は変化しつつあった。
「街道の商隊が襲われた!?」
執務室で政務に励んでいたシャーリィは、セレスティンから知らされた内容に驚愕した。
『ラドン平原』は魔物が数多く存在する場所ではあるが、街道に出没することはなかった。
何故ならば街道には柵が設けられ、更に『ラドン平原』に数多く存在するアーマードボアやアーマーリザードが嫌う匂いを発する香草が敷き詰められているためである。にも拘らず、魔物の襲撃を受けたのだ。
「はっ。幸い商隊は護衛部隊の奮戦により無事です。しかしながら、護衛部隊に被害が出ております。詳細はこちらに」
報告書を手渡すセレスティン。そこには『黄昏』の町を出入りする商人のキャラバンが魔物に襲われ、護衛していた『暁』の警備隊が応戦。数人の負傷者を出しつつも撃退に成功したことが記されていた。
「負傷者には黄昏病院で治療を。それと今回参加した人には手当てを弾むように手配してください」
「御意のままに、お嬢様」
「街道の警備を強化しないと……でも、この胸騒ぎは一体……」
魔物の増加と街道の襲撃。それらの報告を受けてシャーリィは大きな不安を抱く。そしてそれは最悪の形で的中する。世界は彼女の言う通り意地悪なのだから。