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耐えれば良いのだ。
ただ耐えれば幸せはやってくる。
そう信じて、いや。信じてはなかったか。
ただ言い聞かせるように毎日朝心の中で唱えるように呟き。凪不那と登校する時間を噛み締め、
日に日に激しくなる虐めを受けながら。
数週間、数ヶ月と経ったある日。
彼女は口を開く。
「ねぇ揺不。」
「何?」
「旅、してみない?」
旅?どいうことだろうか。
ここまで耐えてきて、旅をしようと言われた。
だが旅という言葉に薄れていた期待が宿る。
旅、彼女との旅。
2人だけの時間が過ぎるという事だろうか。
その旅ならば、僕は幸せを見れるのだろうか?
「お金、どうするの?」
「ほら、一応高校生の身になってるから。
数ヶ月のバイト代とか。この家の貯金とか。 」
確かに貯金はあるのだ。
この身体には当然親が居る。
その親は現在海外にいるらしいが、
余るほどのお金を口座に送ってきている。
確かにそれを使えば思う存分旅ができる。
「旅、してみたい。」
「じゃあ、クリスマス近いし。
クリスマスに旅を始めない?記念的な」
「うん。」
そう返事をする。
クリスマス。
そういえば誰かと過ごすことはなかった。
クリスマスなんて味の悪いケーキを食わされるだけだ。祝い事などではなく、決まり事のように味の悪いケーキを毎年食わされていた。
でも、凪不那とクリスマスが過ごせる。
それは、幸せなのかもしれない。
.
それはクリスマスの前日。
彼は少し遅く帰ってきた。
虐めは日に日にエスカレートしていたが。
彼なら耐えれる。そう思っていた。
耐えて二人で幸せを見る旅ができると。
でも彼は暗く。下を向いていた。
「今日、いつもより酷かったの?大丈夫?」
「ごめんなさい。」
そう呟くように、彼は言い放った。
その瞬間彼は膝を付き自分の手の平を見るように下を向いていた。
「ごめんなさい。ごめんなさい。」
何故謝っているのだろう。
何故言い聞かせるように、
その言葉を放つのだろう。
誰に対して謝っているのだろう。
すると彼は立ち上がって私に抱きついて来た。
突然の事に驚いたが、
その次の瞬間その驚きは消えた。
「殺した。僕が殺したんだ。」
殺した。殺した?誰を?
いや、予想はつく。虐めっ子だろう。
でも、何故。今頃になって?いや、元から限界だったのかもしれない。待たせすぎたのかもしれない。仮にもまだ生前18歳の子だ。
それならまだもっていた方なのだろうか。
私はそっと揺不を抱き返し、包み込む。
彼は私の胸で大きく声を出して泣いている。
.
殺した。殺したんだ。僕が。人を殺した。
あぁ、ダメだ。首を締め付けた感触が手に残っている。ごめんなさい。ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
泣いたってどうにもならない。
いつか捕まる。
証拠なんて残りまくっている。指紋。目撃者。足跡。服装。全て。
でも、ただただ今、この一瞬だけでも好きな人に包まれていたい。抱きしめらていたい。撫でられていたい。泣かせて欲しい。
だって、もうどうにもならないのだから。
.
それから数時間、彼は泣き続け疲れたのか眠ってしまっている。私は後悔が止まない。
こんな優しい子に人殺しをさせてしまった事。
隠すしかない。この子に最後の瞬間まで幸せを見せてあげなければいけない。
こうなったら、私はこの子を守りきる。
「ん…。」
彼が目を開き枯れた声を出す。
「おはよう。」
「殺したの。僕が、人を。」
「うん。」
「…なんで怒らないの。」
「私、君に幸せを見せるって言ったでしょ。
絶対に見せてあげる。」
「本当?でも、捕まっちゃうかもしれない。」
「そんな事考えなくていい。」
「逃げる。旅なんかしてたら逃げれるよ。」
「ねぇ凪不那。」
「どうしたの?」
「凪不那の…本当の名前。聞きたい。」
「本当の名前?」
「うん。あの世に居た頃の凪不那の名前。」
彼は私に本当の名前を聞いた。
本当の名前。それは、何故今なのだろう。
「天音。」
「天音、?」
「そう。雛作 天音って言うの。」
「天音さん。僕貴方が好きだよ。」
唐突にその言葉が胸を刺す。
好き。好き?私の事が?
それは、どういう意味なのだろう。
恋愛的な意味なのだろうか。
それとも、軽い意味での。友情的な意味での好きなのか。
「それは、恋愛的な意味でってことかな。 」
「うん。大好き。」
あぁ。本当に可愛い。私も好き。貴方が好き。
懐かしさを覚えたのは貴方が生前の私に似てたから。助けてあげたかったのは同じ思いをして欲しくなかったから。私に理解者なんていないし誰一人寄り添ってくれなかった。
彼のそんな存在に私はなれたのだろうか。
「揺不、私も貴方が好きで好きでたまらない。」
彼は顔を赤らめた。可愛い。
彼は今人を殺したことを忘れているのだろうか。
そうであって欲しい。思い出さずにこの一瞬を幸せと感じて欲しい。私は、あなたが好きだから。
「あはは、顔赤いよ?自分から言ったのに。」
「だって、その…両思いなんでしょ。」
「そうだね。」
「好きな人が出来たのは初めてだし…そんな人に
好きって言ってもらえるのはもっと嬉しい。」
「そんなに嬉しい?まぁ私も嬉しいけどね。」
そうして1日が過ぎた。学校には当然行かず、旅はどこに行こうか、何食べたいかなど、子供らしい会話をしていたの自分でも理解している。
それがなんだか楽しかった。
そうしてクリスマスイブ。旅前日だからと、家でパーティして行こうと揺不が言ったのがきっかけで、ピザを頼んだ。するとピーンポーンとインターホンが鳴る。だが様子がおかしい。
すると、
玄関から急いで走ってくる揺不が口を開く。
「け、けけ…警察!警察が、」
急いで彼の手を掴み、裏口から出る。
地面の冷たさや硬さ、表面などが足裏に伝わる。痛い。けれど走るしかない。バレない内に家から出来るだけ離れる。早く。
「天音さん…!路地裏!路地裏!」
彼は私が掴んでいる手を引き、路地裏を指さし入ろうとする。
それに続いて私も路地裏に入る。
そこでやっと座る。腕時計を見ると約10分、20分程走っていた。そんなに走ったのかと困惑していると揺不が隣に座って私の肩に頭を乗せもたれている。あぁ…可愛い。いや、そんなこと思ってる場合じゃなかった。どうしよう。とりあえず明日銀行に…裸足で大丈夫だろうか。そんなことを考えていると⎯⎯⎯⎯⎯⎯
「天音さん。」
「ん?」
「なんか、楽しいね。」
「そう?足冷たくない?」
「冷たい。」
「そういえば、天音って教えたら急にさん付けし たね。」
「凪不那だったら同い年の名前でしょ?」
「まぁそういえばそうかもね。」
二人で冷たく湿った地面に座り眠りに落ちる。
このまま、
二人で幸せを見ることを願いながら。
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どうだったでしょうか。
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よろしくお願いします。
また、番外編も上げていますのでよければ。
まだまだ続くので次回も見てください。
次回「好きだから。」
お楽しみに。