目を覚まし、少しの間ぼーっとしていると。
感覚が冴えてくる。
地面の冷たさ。湿った空気。決して良いとは言えない匂いがツンと鼻を刺す。
まだ隣で眠っている天音さんを見て、
ふと昨日の事を思い出す。
勢いで好きと言ってしまった。
そしてお互いに好意があったと分かったのだ。
天音さんにピッタリと引っ付いていると、
彼女の暖かさとふんわりとするいい匂いが伝わる。彼女の肩に頭を乗せ、そっと目を閉じる。
暖かい。
.
目を開けると肩に少し重みを感じる。
あぁそうか昨日はあのまま眠ってしまったんだ。
しばらく可愛らしく寝ている彼を見ていた。
さて、どうしよう。
昨日は余りに疲れて寝てしまった。
銀行、いや…コンビニでもいいからどこかお金を下ろせる場所に行かなければ。
コンビニなら裸足でも大丈夫だろうか。
とりあえず彼を起こそう。
「揺不。」
.
そう耳に入った。
再び目を覚ますと彼女は優しくこちらを見つめていた。
しまった。二度寝していたのか。
彼女はそっと立ち上がり手を差し伸べる。
その手を掴み起き上がる。
裏路地を出ると目がチカチカとする。
眩しい。目を擦り少しずつ冴えてきた目で天音さんについて行く。
.
多分、顔はバレているだろう。
念の為に昨日家を飛び出でる前、咄嗟にマスクを手に取ってポケットに入れておいた。
マスクを揺不に渡すと、
意味を察して彼は直ぐにマスクを付けた。
現代はマスクで顔を隠す人も多い。
ファッションなのかただただ顔に自信が無いのかは分からないが今は助かっている。
しばらく歩き、コンビニに入りなるべく店員と顔を合わせないようにしながらATMでお金を下ろす。
そしてお金をしまおうとして気づく。
財布。財布を家に忘れた。
幸いコンビニに小さなポーチが売っていたためそれを買いお札を折り入れる。
どうせ家はもう戻れない。
財布も服も新しくし買わなければ、
まずは靴…そこら辺の小さな靴屋で買っていこう。
靴屋を探しているとふと目に止まった。
古臭く余り手入れがされていないような素朴な店だ。
ここなら店員に顔が知られても大丈夫だろう。
店に足を踏み入れる。
「揺不、靴どれがいい?」
「…えーと、これかな。」
シンプルな白黒にNIKEと入った靴を指刺す。
こんな店にもあるんだなと思いサイズを確認する。
「27?28?」
「うーん…多分28」
「わかった。」
ついでに私のも買わなければと思い出し、
適当に目に入った靴のサイズを確認し手に取る。
店員の方へ持っていくと
「嬢ちゃん達、付き合ってたり?」
「んぇ?!」
揺不が声に出して驚いている。
いや、まぁ確かに昨日好きと言っていた。
言っていたがまだ付き合っている訳ではないし。
「い、いえ。そういうのでは無いです」
私はそう口に出した。
「あれ、そうなんだね。てっきり付き合ってるの
かと 」
「滅多に客が来ないもんでね、久しぶりに誰かと
喋れて良かったよ。」
言うほど喋ってもないとは思ったけれど。
口に出さず少しお辞儀をし会計を済ました。
店を出てそこら辺のベンチで靴を履き、
歩いていると。
「…ね、ねぇ。天音さん。」
「ん?なあに」
「そ…その、えと、や、やっぱいい 」
どうしたのだろうか。
思えば会計を済ましてからなにか気にしているような素振りを見せている。
私をチラ見したり、何か考えているような顔をしている、 やはり捕まるかもしれないと言う怖さがあるのだろうか。
.
店員さんに付き合っているのかと聞かれ、
僕は少し戸惑った。
というか声を出して驚いた。
だって昨日好きとお互いに伝えあったのだ。
それは付き合っているというのだろうか。
そう考えていた所に天音さんが付き合ってはいないと答えた。
確かに、付き合ってくださいなんて言った覚えは無いし言われた覚えもない。
そりゃそうだ。でも、やっぱり確認したい。
本当にお互い好きなのか。
そんな考え事をずっとしていたらいつの間にかショッピングモールに入っていた。
ユニクロの前で天音さんが止まり、
「服欲しいの選んでいいよ。」
と言われた。
旅をする様というのもあるが、
一応追われる身として服は何着か無いと行けない。そうして6着程上下のセットと下着をカゴに入れると、天音さんが女性用の下着を入れているのが見えた。
咄嗟に目をそらす。
.
カゴに服を入れた揺不が勢いよく顔を横に振った。それを不思議に思っていると、
あ、そういえば下着を入れていたのか。
なんとも可愛らしい照れ方をしている揺不を見て思わず笑いそうになった。
やはり子供っぽいなと思ってしまう。
「見ちゃった?」
.
悪戯な笑みで僕を見ている。
女性の、好きな人の下着を見てしまった。
いや、まだ商品、だからセーフ…。
そう言い聞かせ理性を保った。
そうして2人とも3日ほどの服を買い、店を出た。
また歩いていて、ホテルに入る。
幸い予約等が要らないようで、そのままチェックインをして入れてくれた。
部屋に入ると荷物をそっと置く。
「あ、揺不お風呂先に入る?」
「あーどうしよう。」
迷っていると。
「一緒に入る?」
「へっ?!さ、先は入る、から!」
「あっはは!どうぞ〜」
慌てて服を持ち洗面所へ入る。
.
からかうと彼はいつも純粋に驚いていて、
それが可愛らしく愛おしい。
そんな彼が人を殺したなんて信じられない。
より一層私が守ってあげないとと思う。
そう考えていると彼が洗面所から出てくる。
「上がったよ。」
「は〜い」
.
ベッドにボスンと倒れ込む。
今日は歩き回っていたこともあり疲れが来たのだろう、直ぐに眠気が襲ってきた。
でも、まだ寝たくないと思い必死に耐えていると、天音さんがお風呂から上がった。
「は〜やっぱお風呂はいいね」
「うん。」
「もー寝ちゃおっか」
「ね、ねぇ。」
「んー?何〜?」
彼女は髪を乾かしながらこちらを向く。
「一緒に…その、寝てもいい?」
「寝たいの?」
「….うん。」
.
可愛い。本当に可愛い。
一緒に寝たいだって。
めっちゃ可愛いじゃん、食べるよ?
いや、食べないけど。食べたいけど。
そんなの当たり前にOKだよ抱き締めたい。
「仕方ないなぁ〜? 」
.
彼女はからかうように承諾した。
そうして髪を乾かし終わった彼女はベッドに横になる。
「来ないの?一緒に寝るんでしょ。」
少し顔が熱くなった気がした。
「う、うん。」
.
彼が自分のベッドから起き上がり、こちらのベッドにそっと横になった。毛布を被り私に近づき、目を閉じている。
…可愛すぎる。ほんとに。
何回可愛いって思っただろう。
抱き締めると彼はうずくまるように体を丸めた。
「あ、天音さん。」
「なあに?」
「その…付き合って、ください。」
「….いいよ。」
「本当?」
「うん。本当に。」
「大好き」
そう言って彼は私を抱きしめ返した。
今思うと靴屋から出た時にそわそわしていたのは私が付き合っていないと言ったからなのだろうと少し理解した。
彼と眠りにつき。
お互いにもう、付き合っている。
その事実を、この幸せを噛み締めて。
1日を終える。
好きだから。
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どうだったでしょうか。
すみません。本当に申し訳ないです。
というか、金曜の夜番外編を投稿しようと2300文字ほど書いていたんですが寝落ちして保存されていませんでした。普通に泣きました。
というか最近寝落ちしすぎでデータ消えまくってるんですよね。
それで投稿できていないという。
いや、まぁ夕方に投稿しない私が悪いんですけど。言わないでね。
ということで、久しぶりに書いたので少し甘いのはお許しを。
少しでも気に入ってくれたならフォローといいねをお願いします。
興味が湧いたら番外編や、別のシリーズも見ていってください。
それでは、
次回「旅の始まりは苦から。」
お楽しみに。
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