再開した彼はものすごくやつれていた。
「とりあえず座ろう」
「あぁ…」
彼はベンチの隣に座った。
「コーヒー飲む」
「持ち歩いているのか」
「寒いので」
「毒入りじゃないなら頂こう」
「召し上がれ」
私は水筒に入れたコーヒーをついだ。念の為、コップを持ち歩いておいて正解だった。
「…うまいな」
「私特製ですから」
「…そうか」
このコーヒーは喫茶店でも出しているものだ。
「やるべきことはやったのか…」
「現在行っている」
私が前回言った事を覚えているようだ。
「聞きたいことがある」
「…何だ」
この人は昔から商売を情熱的に取り組む人だった。私がこの地でお世話になった時も商人になるために努力を欠かさない人だったと強い印象が残っている
「お前は今幸せですか」
「は…」
「やりがいを感じていますか」
「…急に何を言う。新手の詐欺か…」
彼は驚いたようにこちらを見た。
「話は聞いた。どうして…罪に問われているの。私が知っているお前ならそんなことしないはず」
「…そうだな。まさかお前が俺様を訪ねてくるからなんだと思えば…それを聞きに来たのか…」
「私が知らないことはない」
「どうせ…ギルド長から聞いたんだろう」
「聞いた」
「……どうやら周りの奴らによく思われてないらしい」
「詐欺師だから…」
「違う」
「余計なことをしたの」
「そうだ…商会のヤバイ所まで深入りしすぎてお偉いさん方の機嫌を損ねてしまった…」
「馬鹿か」
「うるせぇ…」
「それで罪に問われているの…」
「フッ…」
「悔しくないの…」
彼は鼻で笑っているが…悔しいはずだ。このことから商人としての人生を壊されかけているのだから。もしかしたらもう…
「偽の商品を渡したのは真実だ…だから処罰されてもおかしくない」
「わざとか」
「そうだ」
(わざとか…なるほど…)
彼がなぜそんな事をしたのか分かった。商会の事…ギルドの事を繋ぎ合わせると話が見えてくる。そうだ…彼はそういう人だ。
「そうですか…」
「…で要件は何だ。文句を言いに来るためにわざわざ来たんじゃないだろう」
「はい。商会の為に人手が必要でして私の元で働きませんか」
「商会作ったのか」
「…残念ながら子供と見なされ無理だった」
「歳ならもう少し待てばいいだろう」
「残念ながら今すぐに作り、売り込む必要がある」
「…そうか」
「お前なら世界一の商会へと成り上がる事が出来るはず…詐欺師」
ニッコリ
「その名前で呼ぶな…商人に見えないだろう」
「人を騙して金を巻き上げていたのは誰か」
「あれは商売だよ」
「そうですか…商売ですか」
「ですがやはり…商人より詐欺師」
「俺様のどこがだよ」
「真っ黒な服装と悪人顔…どう見ても詐欺師」
「この服はこういうファッション、笑顔は普通だし…」
「…………」
じー
「なんだその信用のない目は」
「…お気になさらず」
「そういうお前は人使いが荒いだろうがよ」
「失礼ですね。私は効率よく使っているだけ」
「よく人を踏み台にしてか」
「効率よく使っているだけ」
「あの時も…」
「いえ、お前も」
「そう言えばあの時俺様を騙しただろ」
「………何のことやら」
「今…間があったぞ」
それから、そんな他愛のない話を続けた。昔この地で起こった話。世間話。商売話。
商売の話をした際は目を輝かせていた。あれは商売人の目だ。
「悪くねぇやり方だ」
後…悪人顔
「返事はどうする」
彼は考え込んだ。どうせなら私が望む答えを出してほしい…でもきっと
「…返事だが…断る。俺様はこの場を離れることができない」
やっぱり…
「借金…」
「知ってんのか」
「はい」
「…そうだ。払わねえと商人として信頼がなくなっちまう」
「もう無いですよ」
「うるせぇ…」
「それにあれは…無理よ」
「それでもな…約束は守らねえと」
目元が見えなくても彼が悲しげな笑みを浮かべてるのがわかる。
「…そうね。守らないといけませんね」
「…昔話ができて楽しかったぜ。じゃあな」
「また会いましょう」
「…早く帰りな」
「守ってくださいよ」
私との約束も…
ガチャ
「ただいま」
ニャー
今回アイビーにはお留守番をさせていた。理由として宿に盗みを入られぬように番猫としておいていた。ドアに侵入の形跡無し…窓も異常なし…荷物は開けられた形跡はない
「問題無い…ありがとう」
ニャー
「ご飯食べようか」
ニャー…ゴロゴロ…
私はシチューを、アイビーは猫用のご飯を食べた。窓の月の光があたりアイビーの黒い毛並みが輝いている。ほんとうに綺麗だ。
「アイビー…お前はほんとうに綺麗ね」
黒は良いイメージを持たず、悪として見なされているが…黒い宝石 ブラックダイヤモンドのように一見、見えない輝きがある
「ふぅ…」
彼をあのままにしておくのはだめだ。
彼は昔から才能はあるのにそれを効率よく使う事が下手だ。
今回の事件も面倒なことに首を突っ込んだ事が原因だろう。
「ふぅ …調べてみるか…アイビーも力を貸して」
ミャー
アイビーを抱きしめた。あったかい。安心する。
「お前が居てくれてよかったわ」
そうね…せっかくだからあれも使ってみましょう
私は鞄からある魔道具を出した。これは主様から貰ったものではない。それにはタンポポのマークが付いている…
「今日はもう寝ましょう…おやすみ」
ニャー
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