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「正直、一時の私にとって裕夏さんは目標であり、憧れでもあったのです。実際、あの人はあの時点で最強に近い術士だったのです。一介の後取り候補と言えど、既に正規の術士より力は上だったのです。目標でもあったし、憧れでもあったのです。
だから、ある日突然いなくなった事で、衝撃を受けたのです。術士の後継としての義務と権利を放棄して里を出た。そう聞いた時は、裏切られた気もしたのです。
私以上に才能も家柄も、何もかも持っていた筈なのにと、そう思ったのです」
色々な事情があったんじゃないかとか、そういう事はあえて言わない。
僕以上に、未亜さんの方がその辺は気づいているだろうし、知っているだろうから。
だから僕が出来るのは、きっとひとつだけ。
話を聞くこと。
「我ながら、なっていないと思うのです。事情も、本人の意志も希望も、里のほとんどの大人より知っている筈なのです。ただ、それでも納得出来ないのです。納得しているけれど、納得出来ないのです。言っている事がおかしいのはわかっているのです。それでも……」
そう。きっと未亜さんは、全部わかっている。
色々全部わかっている上で、それでも心の中が、納得してくれないのだ。
ただ、それにどう返答するかが思いつかない。
未亜さんの方が、僕より頭の回転も早そうだし。
ならば。
いっそ簡単に、僕の出来る範囲で。
「肯定ペンギン、って知ってる?」
「南極に住む最大種のペンギンなのですよ」
うん、言われると思った。
「それは生物的に正しい答だけれど、僕が言おうとしているのは皇帝ではなく、否定の反対語の肯定の方。昔、SNSで流行った、何でも肯定してくれるペンギン。本来は、疲れた社畜を慰めるという、大人用のキャラクタらしいけれど」
「そんなの、あるのですか」
「何なら、検索してみたら」
「そうするのです」
未亜さんはスマホを取りだして、調べ出す。
「おお、本当にあったのです。なかなか可愛いのです」
さあ、ここからだ。
こっちが気恥ずかしくなる前に、一気に攻撃に出る。
「そんな訳で、そのペンギンを見ながら。
未亜はえらい。そういう思いがあったにせよ、美洋を心配させないようにしていて。
未亜はえらい。それでも、直接裕夏さんにつっかからなくて。
未亜はえらい。裕夏さんの立場や考え方を、わかろうと努力していて」
僕が恥ずかしくて続けられなくなるのが早いか、未亜さんが立ち直るのが早いか。
勝負だ。