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「ちょちょ、ちょっと待つのです……」
待たない。
待つと、こっちが気恥ずかしくてしんどくなるから。
「未亜はえらい。裕夏さんがいなくなった後も、きっと努力を続けていて
未亜はえらい。それでも裕夏さんの事が大好きで。
さあ、何か僕、間違った事を言ったかな」
未亜さん、最後の方はちょっと抗議の声が鼻声になって。
そしてハンカチを出して突っ伏した。
今の僕の褒め方が正しかったかどうか。
そもそも、褒めるという方法論が正しかったのか。
もっと適切な言葉なり、態度なり、あったのか。
僕にはわからない。
こちとら、女子との会話経験が極小な中学1年生。
使える引き出しは、決して多くはない訳で……
長いような短いような、不安な時間が過ぎていき。
そして未亜さんは、顔をあげる。
僕からそっぽを向いた感じで、だけれども。
そして。
「悠は、ずるいのです」
呟くように言った。
「まさかこう来るとは思わなかったのです。参ったのです。やられたのです。
もともと整理つかない状態を1人でどうにも出来なくて。だから話でも聞いて貰えば落ち着くかと、一番関係ない悠を呼び出しただけ。
だから収拾つかなくて当然だったのです。まさかこういう形で収拾つけられるとは思わなかったのです。末代までの恥なのです。何か悔しいのです。マーラウのプリン1個分程度の罪なのです」
何だそりゃ。
1個800円位の、結構高い罪だ。
歩きだと往復30分という罰則も付加される。
でもまあ、ちょっと傷心気味の未亜さんには仕方ないか。
「買ってきてもいいけれど、せめて空きビーカー無いか」
この場合のビーカーとは、ガラス製のプリンの空き容器だ。
マーラウのプリンは、全てこれに入っている。
空きビーカーを返却すれば、200円バックされる仕組みだ。
「なかなかに現実的で、風情の無い台詞ありがとうなのです。おかげで、ちょっとだけ調子を取り戻せそうなのです。だからマーラウの刑は、執行猶予でいいのです。その代わり、もう少しここに居て欲しいのです」
という訳で。
僕はどうも様子が掴めないまま、未亜さんと一緒に、じっとしていた。
そして。
「よし、何とか回復したのです」
そう未亜さんが言って、立ち上がる。
「今回はありがとうなのです。でも、ちょい恥ずかしいので、可及的速やかに忘れて頂ければ助かるのです。もう一度。本当にありがとう、なのです」
彼女は僕に、そう言って礼をして。
「あと参考事項なのです。出来れば今後、あの人は裕夏さんではなく、柾さんと呼んであげて欲しいのです。裕夏さんは女性名の方で、柾さんが男性名。柾は名字ではなく、名前なのです。
もともと柾さんは、女性である事に違和感を感じていたのです。里を出たのは、その辺の理由もあるのです。身体の手術はしていないのですが、術で普段は男性の身体をしているはずなのです。今回は私達に会うので、あえて術無しで来たと思うのです。
それではまた、なのです」
そんな事を言って、去って行く。
そして僕は、いつにない感じだった今日の未亜さんと。
最後に残された、とんでもない情報と。
その2つに思考を侵食されて、ため息をつくのだった。