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『預言者のメモ⑦』
「珠奈(みな)!?」
リビングのドアを勢いよく開けると、珠奈と蛍太(けいた)がキョトンとした顔でこちらを見た。
「お、おかえり〜早かったねぇ」
珠奈は驚いた様子で言い、蛍太はいつも通り”へらっ”と笑って手を振ってきた。
「僕らがこっそりスイカを食べようとしてたのがバレたのかな?」
「そんな蒼って食い意地張ってたっけ?」
「意外とね」
二人は変わらぬやり取りを繰り広げる。
「な、なんだよ…」
俺がその場にへたり込むと、蛍太は「どしたの?」と駆け寄ってきた。
「大丈夫?あ、珠奈ちゃん、お水持ってきて」
「うん」
珠奈はキッチンへ行き、コップに水を入れる。
俺は蛍太の肩を借りて立ち上がる。
こちらを心配するように見てくる蛍太の顔は、やっぱりいつもの蛍太だった。
「僕の顔になにか付いてる?」
「いや…蛍太は変わらないなって思って…その、少し安心した」
「蒼も変わらないよ。ミーコがいなくなって必死に探してた、あのときと同じ顔してる」
「どんな顔だよ」
「不安で仕方がないって顔だよ」
「……」
「はい、蒼。ゆっくり飲んで落ち着いて」
俺は珠奈が差し出したコップを受け取り、常温の水をゆっくりと飲む。
「ミーコって?」
珠奈が蛍太に尋ねる。
「蒼が昔飼ってた猫ちゃんだよ」
「飼ってない。勝手に居座ってた野良猫」
「でも、蒼はちゃんと面倒見てたんだよ」
「そうなんだ。蒼は猫好きだもんね。それで、いなくなったミーコは見つかったの?」
その言葉に俺も蛍太もすぐに答えられなかった。
それで珠奈は何となく結末を悟ったらしい。
「ダメ…だったのかな?」
「ああ、車に轢かれてた…」
「そっか…」
「そのあと裏山に埋めてあげたんだ。それからしばらくは、毎日のように行ってたよね?」
懐かしい話だ。
それこそ、10歳になるかならないかぐらいの年齢で、人生で初めて死というものに直面した瞬間だった。
それで、目の前にいるのが間違いなく俺のよく知っている、俺をよく知っている蛍太だと思うことができた。
そのあと、蛍太が持ってきたというスイカを切ることになった。
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「このちっこい包丁でいけるのか?」
俺は台所から包丁とまな板を持ってくる。
「大丈夫だよ」
蛍太はそう言って、あっさりとスイカを切り裂いた。
「その細い腕でスイカを……」
「ふふっ意外と力持ちなんだよ」
蛍太は綺麗に切り分けたスイカを差し出した。
そして、それを食べながら今年の夏はどこへ行こうかという話で花を咲かせた。
「あ、そうだ。蒼、あのミステリークイズ解けた?」
「え?」
不意に聞かれたので、俺はびくりと反応する。
「うわぁ懐かしい!昔よく二人でやってたよね」
珠奈は楽しそうに言うが、俺の顔はきっと強張っていたに違いない。
「あれ?難しかった?ヒントも送ったはずだけど…」
「あ、いや…」
言葉が喉の奥に引っかかって出てこない。
「蒼が解けないなんて珍しいね」
「……そうだね」
二人の視線を感じる。
(なんで、このタイミングなんだ)
俺は二人から視線を外し、少しぬるくなったスイカをかじる。
(いや、このタイミングしかないだろう…)
飲み込んだスイカの欠片は、何の味もしなかった。
「わかったのは、わかったけど、さ…」
俺は震える手で、蛍太から受け取ったあの便箋を机の上に置いた。
「…『預言者のメモ』…あれ?これって…」
珠奈が便箋を覗き込んで、眉間に皺を寄せる。
「蛍太がくれた”たぬき”のヒントで、”君に死を”まではわかった」
自分の声が微かに震えているのがわかる。
隣に座っている珠奈が、怪訝な表情で蛍太を見つめる。
「つまり、次に死ぬのは……俺ってことか?」
「えっ!?」
「違うよ」
蛍太はあっさりと、そしてはっきりと否定した。
「彼らはなぜ、殺されたと思う?」
「なぜって……」
俺は便箋に書かれた五人の名前を見た。
「平良徹と佐々木志保以外、何らかの罪を犯している人たちだってことはわかった」
「さすが、蒼。よくそこまでわかったね」
蛍太はどこか嬉しそうに言う。
「なら、次の犠牲者も犯罪者……でも、蒼は何もしていないだろ?」
「まぁ…そう、思っているけど…じゃあ、誰が次の…」
蛍太の視線は、珠奈に向けられる。
「え?わ、私?」
「蛍太、珠奈が犯罪者なわけないだろ?」
蛍太の手が、ゆっくりとまな板の上に置かれた包丁に伸びる。
珠奈が小さな悲鳴を上げ、後ずさる。
「蛍太…」
しかし、蛍太は包丁の刃先を自分に向ける。
「え……」
「僕と珠奈ちゃん、どっちが犯罪者だと思う?」
「何を……」
俺が珠奈を見ると、彼女は首を大きく横に振った。
そうだ、珠奈が罪を犯すわけがない。
困惑する俺を見て、蛍太はまた”へらっ”と笑う。
「ねぇ、蒼…”次に殺されるのは一体誰で、何を失うのでしょう?”」
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