/s/[storyId]/_components/heading/assets/back_arrow_icon.4081080bcaba67b8.svg){kind=icon}
/s/[storyId]/_containers/report-container/assets/more-icon.20cfac1b79e24f56.svg){kind=icon}
電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい！がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。
テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
タイトル、作家名、タグで検索
ストーリーを書く
テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
タイトル、作家名、タグで検索
ストーリーを書く
電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい！がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう！
陽はとっくに沈み、辺りは闇に覆われている。
時刻は深夜。大人でも子供でも深い眠りに落ちているはずの時間帯だが、本に埋もれたグレイアスの私室には、ソファに向き合う二人がいた。
「───で、お前の見解を教えてもらおうか」
最初に切り出したのはこの部屋の主であるグレイアスだ。
彼に瓜二つの妹フレシアは、無表情のまま一つ頷くと口を開いた。
「毒入り菓子は、メイドの手によるものです。しかし、犯人はメイドではないです」
「……ほう」
グレイアスは、ソファの肘置きに頬杖をついて先を促す。
「離宮のメイドの一人は、弱みを握られています。そのため、毒入り菓子を殿下にお出しせざるを得なかったようです」
「弱み……か」
「はい。病弱な弟の薬代を稼ぐために、どうしても悪事に手を染めなければいけなかったと白状しました。それとこの情報と引き換えに、メイドの弟の病状は幼少期に稀に発症する喘息持ちでしたので、呼吸が楽になる薬を既にメイドに渡してます。あと弟さんの身体ですが、長期治療は無いと判断しました。成長すれば、自然回復するでしょう」
「そうか。ご苦労だったな」
「……いえ」
お前どうした？と思わず聞きたくなるくらい饒舌に語ったフレシアに対し、グレイアスは短い返事をするだけ。
兄妹という気安さもあるけれど、フレシアは別に無口ではない。ただ口が重いだけだ。
人より少し早回りして色んなことを考えてしまう彼女は、会話の流れを読めずに場を白けさせたり、発言が的確すぎて相手を憤慨させてしまったこともしばしば。
そんな経緯で臆病な性格になってしまったが、必要に迫られればフレシアはきちんと話をするし、尋ねられたことを無視しない。
ノアに対しては、かなり好意を持っているが、いかんせんノアは口を開けばキノコのことしか喋らないので、フレシアは何と答えて良いのかわからず無言になってしまう。
「で、犯人はわかったのか？」
「はい。お兄様の予測通りのお方です」
あえて名前を出さないのは、ここが城内で、迂闊に名前を出せない御仁だから。
「なるほど。しかし嬉しい気持ちはこれっぽちも無いな。まぁ……唯一気が楽になったことといえば、向こうがそういう卑劣な手を使うなら、こちらも手段は選ばなくていいということか」
すでに目星を付けていたとはいえ、予測通りだと不快な気持ちは隠しようがない。
グレイアスは吐き捨てるようにそう言うと、瓜二つの妹に笑みを向ける。妹も、兄と同じ表情を浮かべた。
二人の表情は、ノアが見たら地べたに這いつくばり、床に額を押し付けながら「ごめんなさい」を連呼するような恐ろしいもの。
ここハニスフレグ国には、殿下と呼ばれる人間が二人いる。
一人は次期国王となる、ローガン・リアッド・イェ・ハニスフレグ。
もう一人は、王位継承権を剥奪されたアシェル・リアッド・イェ・ハニスフレグ。
彼らは父親は同じであるが、母親は違う。王妃と側室だ。
そして生まれた順番はたった２時間の差で、側室が先で。王妃が後だった。
その為、正当な王位継承権を持つはずのアシェルが次男となってしまった。しかも呪いをかけられ、彼は離宮での生活を強いられている。
しかしグレイアスは、この現状に何一つ納得できていない。
アシェル自身が、それで構わないというスタイルを貫いているせいで、尚のこと納得できないでいる。
だからグレイアスは、雪花の紋章を持つノアを利用しようとしている。
毎日毎日、授業という名目でここに呼びつけているのは、いわば監視のようなもの。
とはいえ、非情なグレイアスとて、ノアと二つの季節を一緒に過ごせば、それ以外の感情も芽生えてしまう。
グレイアスは、ノアと過ごす時間に心地よさを覚えてしまっている。そして裏表のない彼女に、自分の大事な妹を護衛にしようと思うくらい信頼感が芽生えている。
「ノア様には、当分の間、調査中とだけ伝えておくつもりだ。それでいいか？フレシア」
「兄様の考えに異存はありません」
グレイアスの問いかけに、フレシアは食い気味に頷いた。
実のところアシェルは、かなりの種類の毒に耐性がある。おそらく毒キノコを食べたノアよりもだ。
菓子に含まれていた毒は微量で、どうあってもアシェルの致死量には至らない。
ではなぜ犯人が中途半端な毒入り菓子をアシェルに与えようとしているかといえば、殺害するのが目的ではなくノアを陥れるため。
ノアは離宮とグレイアスの部屋に行動範囲が限られているが、実は毎日ノアがアシェルのを膝に乗って菓子を食べさせているのは口コミで広がり、もはや周知の事実である。お城の隅にある厩の管理人だって知っている。
そんなノアが食べさせた菓子でアシェルが体調不調を訴えれば、疑いの目はノアに向くのは当然の流れで、最悪の場合、冤罪で処刑されるだろう。
犯人はそれが目的なのだ。
ノアが目障りで、邪魔で邪魔で仕方がなく、今すぐ消えて欲しい存在なのだ。
「きっと……ノアさまは真相を知れば、この城を出て行ってしまうでしょうね」
「ああ。それだけはどうしても避けなければならない」
フレシアの呟きに、グレイアスは即座に同意した。
毒入り菓子事件の真相をノアに伝えないのは、そこにある。
きっと知ってしまえば、自分のせいでこれ以上アシェルが危険に晒されるのは嫌だと言って、迷わず城を去るだろう。
あれほどアシェルからアプローチを受けても、気付きもしない鈍感娘なのに、人の心には機敏に察するから始末が悪い。
そして誰かの為に心を砕くことに対して戸惑いがないから、見ているこちらが時折もどかしいとさえ感じてしまう。
何より、ほぼ拉致という形でこの城に連れてきてしまったから、これ以上、辛い思いはしてほしくない。
「まぁ、ノア様が城を去ろうとしたところで、そう簡単に殿下が手放すとは思えませんが……」
「それもそうだ」
再びフレシアが呟けば、今度もまたグレイアスは食い気味に頷いた。
/s/[storyId]/_containers/next-in-series-container/next-in-series/assets/list-icon.c10ab777f3210550.svg){kind=icon}
作品ページ