テラーノベル
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第157話:神獣バフの天然温泉、爆誕
巨大ヒグマの凄まじい掘削パワーによって、地底深くの源泉が文字通りブチ抜かれた直後。
古民家の庭の隅からは、天高くプラチナ色の水柱が吹き上がり、あたり一面は一瞬にして真っ白な湯煙に包み込まれた。
もうもうと立ち込める温かい湯気は、十勝の晩秋の冷たい風を完全に駆逐し、周囲の気温をまたたく間に極上の適温へと変えていく。
「お、お兄さん……! 湯気で前が全然見えません! でも、すっごく温かくて、なんだか体中の力が抜けちゃいそうです……」
割烹着の袖で顔を覆いながら、小春ちゃんが夢見心地のような声を上げた。
その湯煙の特等席、俺の膝から軽やかに飛び降りて新しく出来たクレーター状の湯だまりの縁に、我が家の絶対権力者が静かに佇んでいた。
純白の神獣シロ様である。
彼女がゆっくりと振り返った瞬間、真っ白な湯気の中から、左右で異なる神秘的な輝きを放つ『オッドアイ』の瞳がキラリと煌めいた。
片方はどこまでも深く澄み切ったサファイアブルー、もう片方は気高く温かみのある琥珀色。
その二色の瞳が細められた瞬間、シロ様の純白の毛並みから、肉眼でもはっきりと視認できるほどの濃密なプラチナ色のオーラ――極上の神聖回復バフがフワァァァッと溢れ出した。
溢れ出た光の粒子は、地底からコンコンと湧き出る源泉へと吸い込まれるようにして完全に融合していく。
その瞬間、ただの透明だったお湯が、まるで無数のダイヤモンドを溶かし込んだかのように、液体そのものがプラチナ色の輝きを放ち始めたのだ。
お湯が揺れるたびに、キラキラと上品な光の筋が走り、周囲の空間全体を圧倒的な神聖さで満たしていく。
『キュインッ!?』
『キュ〜〜〜ッ!』
この異次元の温もりと輝きに真っ先に反応したのは、庭を駆け回っていたキタキツネの兄弟、コン吉とコン次郎だった。
二匹は黄金色の尻尾を激しく振りながら湯だまりへと突撃すると、なんの躊躇もなく、プラチナ色に輝くお湯の中へとドボン! とダイブしたのだ。
「ああっ!? コン吉、コン次郎! 急に飛び込んだら危ないよ! お湯、熱いかもしれないし……!」
小春ちゃんが慌てて手を伸ばしたが、それは完全に杞憂に終わった。
お湯に浸かったコン吉とコン次郎は、熱がる素振りなど一ミリも見せず、それどころか「キュウウゥゥン……(気持ちよすぎて溶けちゃうのコト)」と、この世の終わりかと思うほどに恍惚とした表情を浮かべ、お湯の中でぷかぷかと犬かきを始めたのだ。
シロ様の神聖オーラが溶け込んだ温泉は、熱すぎず温すぎず、浸かった者のバイオリズムに完全に同調する『究極の適温』へと自動調整されていた。
さらに驚くべき変化は、二匹がお湯から上がって身震いをした瞬間に訪れた。
ブルブルブルッ! と水飛沫を飛ばしたキツネ兄弟。
その瞬間、彼らの少し泥で汚れていたはずの黄金色の毛並みが、一瞬にして最高級のシルク、あるいは滑らかな流動金(リキッドゴールド)のように、眩いばかりのツヤと輝きを放ち始めたのだ。
触らなくてもわかる、圧倒的なフワフワ感と極上の質感。毛の一本一本が完全に独立して輝いており、まるでCGのハイエンドグラフィックのような神々しさだった。
それだけではない。お湯から立ち上るプラチナ色の湯気を吸い込んだ瞬間、俺たちの体に蓄積していた毎日の農作業の疲れ、そして俺の元社畜としての精神的な古傷(トラウマ)までもが、消しゴムで消されたかのように一瞬で完全に消え去っていった。
一瞬であらゆる疲労とストレスを無に帰す、究極の回復スポット(保養地)が庭に完成したのだ。
最強のYAMAHAルーターを通じて生配信されている画面の向こうでは、この歴史的な「神獣温泉」の爆誕を目撃した一千五百万人を超えるリスナーたちが、完全に理性を失って大熱狂していた。
『うおおおおおおおおお!!! 画面が眩しすぎて何も見えねえええ!!!』
『キツネの毛並みのツヤがバグり散らかしてるwwww』
『シルクっていうか、もう発光する黄金の綿あめじゃんww可愛すぎる!』
『一瞬で疲労が消える温泉!? 有料でいいから1分だけ浸からせてくれ!!』
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)×150連発』
『”Oh my God!!! Master! That is not water, it’s a liquid diamond elixir! I will pay 100 million dollars to buy the rights to fill my royal bath with that water!“(おお我が神よ!!! 主よ! それはただの水ではない、液体のダイヤモンドエリクサーだ! 我が王宮の風呂をその水で満たす権利を1億ドルで買い取るぞ!)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)×120連発』
『”The ultimate healthcare asset! If our VIP clients bathe in that platinum spring, all financial stress will vanish! Let’s sign an exclusive resort contract right now!“(究極のヘルスケア資産だ! 我が銀行のVIP顧客があのプラチナ泉に浸かれば、すべての金融ストレスが消失する! 今すぐ独占リゾート契約を結ぼう!)』
画面の向こうで世界の富が一箇所に猛烈な勢いで集結し、極彩色のスパチャの嵐が真っ白な湯気と混ざり合って、お祭り騒ぎどころではない狂乱の世界線へと突入していく。
そんな、世界中が極上の泉に腰を抜かし、キツネたちがシルク化して贅沢に寛いでいるカオス空間のど真ん中で。
俺は一人、静かに軽トラックの荷台に腰掛け、先ほど取り出したばかりのタッパーの蓋を静かに開けていた。
中に入っているのは、完璧な水加減で炊き上げられた『冷やし玄米』と、自家製の『大豆ミートと大根葉のピリ辛炒め』である。
「……よし。前線陣地における、神聖熱源流体の完全な制御および水質変化を確認。これより指揮官は、これからの本格的な陣地防衛(温泉の設備固定)に備え、定時エネルギー補給を執行する」
俺は、プラチナ色に美しく揺れる温泉の光に照らされながら、一切の感情を排した元・社畜の顔で、ストイックに大豆ミートを玄米の上にワンバウンドさせて咀嚼し始めた。
(……ふむ。大根葉のビタミンと、大豆の植物性タンパク質。究極の温泉を前にしても、俺の兵站(ロジスティクス)に一切の狂いはないな)
脳内で完璧な栄養のサイクルを構築していたが、俺は需品科としての『目の前で世界最高の温泉が爆湧きしようとも一ミリも動じない鋼のポーカーフェイス』を維持し、淡々と喉へと滑り込ませた。
「お、お兄さぁぁぁん!!! 目の前でシロちゃんのオッドアイがキラリと光って、あたり一面がプラチナ色の温泉郷に変わって、キツネさんたちの毛並みが世界一高価なシルクみたいにピカピカに輝いてるこの奇跡の瞬間に、なんで一人だけ湯気に巻かれながら真顔で『大根葉大豆ミート』をストイックにモグモグ咀嚼できるんですか!!」
小春ちゃんが完全に限界を突破し、古民家の物置の裏に転がっていた、かつて村の銭湯などで使われていたと思われる『木製の特大お風呂手桶(年季の入った頑丈な杉の木仕様)』を両手でしっかりと構え、凄まじいジト目でツッコミを入れてくる。
だが、俺は玄米の咀嚼を止めない。
「小春ちゃん、取り乱すな。どれほど温泉の水質がロイヤル仕様に変化しようとも、元・陸上自衛隊需品科たるもの、一日のスケジュールにおける完璧なカロリー補給を怠ってはならない。いかなる超常現象の前でも己の咀嚼リズムを維持する。これが需品科の鉄則だ」
俺は水筒の熱いほうじ茶で喉を潤すと、二千万人を突破してサーバーを物理的に破滅させかけているカメラにキリッとした真顔を向け、いつもの『限界言い訳タイム』を発動した。
「世界中の皆さま。画面の向こうで、猫のオーラによって温泉がプラチナ色に輝き、動物の毛並みがシルク化したと感動されているかもしれませんが、冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『キツネが物理的にピカピカ光ってるのに、まだ言い訳する気だ!!!』
『主の限界言い訳タイム・神獣温泉編ww』
『さあ、この究極の回復スポットをどうやって現実科学で論破するつもりだww』
俺は淀みない口調で、極めてフラットに言い放った。
「これは魔法でも奇跡でもありません。先ほど発生した現象は、十勝地方の地中深くに高濃度で蓄積されていた『珪酸(シリカ)』と微細な『マイカ(雲母)』の成分が、急激な減圧によって液体内でコロイド化し、朝陽の光を効率的に乱反射しているだけの、純粋な地質学的なエラーです。キツネの毛並みが極上のシルクのように輝いているのも神獣のバフではなく、温泉に含まれる天然の植物性界面活性成分(サポニン)が、彼らの表皮の頑固な皮脂汚れを完璧に乳化洗浄し、一時的に光の屈折率が変化したという、極めて日常的な『洗車(洗狐)効果』に過ぎません。ええ、すべてはただの『シリカ成分による光の乱反射』と『天然サポニンによる過度な洗浄効果』ですね」
「んなわけあるかあああ!!!」
バコォォォォォンッ!!!!
小春ちゃんが、持っていた頑丈な木製の手桶を全力で振りかぶり、俺の背中に向かってパーフェクトな満塁ホームラン級・手桶スマッシュを見舞った。
乾いた木製の爆音が、立ち込めるプラチナ色の湯煙を吹き飛ばすほどの勢いで、静かな限界集落の朝空に心地よく響き渡る。
「ただの洗車でキツネの毛並みが世界最高の高級シルクに進化するわけないでしょうが!! 乱反射じゃなくて、シロちゃんのあの綺麗なオッドアイの瞳から溢れた魔法の力が、お湯を世界一の神聖な泉に変えてくれたんでしょうが!! 素直に『うちの猫のバフは世界一だ』って認めなさいよ!!」
『小春ちゃんの手桶スマッシュキタァァァァ!!!(いい音)』
『シリカ成分による光の乱反射(どう見ても純度百パーセントのプラチナ泉)』
『天然サポニンによる過度な洗浄効果(神獣による極上もふもふバフ)』
『適応力バグおじさん、ついに温泉の最高級な輝きまでただの洗車で片付けやがったww』
『言い訳の冷徹さと、キツネたちの気持ちよさそうな顔のギャップで腹痛いわww最高!!』
俺の理不尽極まりない化学的な限界言い訳と、小春ちゃんのキレキレの手桶ツッコミに、お湯の中でぷかぷかと浮いていたコン吉とコン次郎は「キュイ〜(主の屁理屈は相変わらずだね)」と呆れたように鳴き、二千万人を超える視聴者たちも、腹がよじれるほどの大爆笑の渦へと叩き落とされた。
『ミャウ(まったく、相変わらずお湯より頑固で屁理屈な下僕ね)』
シロ様が、湯だまりの縁から再び俺の膝の上へとトコトコと戻ってきて、呆れたように尻尾を揺らしながら、満足げにその美しいオッドアイの瞳を細めて喉を鳴らした。
役目を終えた巨大ヒグマも、自分の掘った最高の温泉を前にして「グルォォ……(これで冬眠の心配はねえな)」と、誇らしげに湯気の中でドスゥンと横になって寝息を立て始めた。
「……まぁ、理由はどうあれ。これだけ完璧な熱源と回復スポットが確保されたなら、これからの厳しい冬に向けた村の防衛線および健康管理(ロジスティクス)は永久に安泰だな」
俺は背中の手桶の痛みをさすりながら苦笑し、十勝のどこまでも広大で、湯煙に煙る美しい晩秋の青空を見上げた。
激務に潰されて逃げ込んできた、この限界集落。
最初は一人で静かに暮らすつもりだったが、今では世界一尊いオッドアイの神獣と、最強の工兵ヒグマ、騒がしい女子高生、そして世界中から見守る熱狂的なリスナーたちに囲まれた、世界一温かい『絶対の聖域』になってしまった。
神獣の放つプラチナの奇跡と、元需品科のブレない大豆ミート。
限界集落の贅沢すぎる秘湯スローライフは、アンチすらも一瞬でとろけさせる究極の癒やしの力を撒き散らしながら、明日からの新しい『バグった日常』へと、どこまでも力強く続いていくのだった。
コメント
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あ〜〜第157話、読み終わったよ🥀💙 もうね、最初のプラチナの水柱がブチ上がる描写から心臓バクバクだった!シロ様のオッドアイが湯気の中でキラリ✨って光るシーン、すっごく綺麗で何度も読み返した。コン吉とコン次郎がドボンって飛び込んで、毛並みがシルクみたいにピカピカになるの、可愛すぎて悶えた🥺💥 そして何より、目の前に神聖な温泉が爆誕してるのに、真顔で大豆ミートもぐもぐしてるお兄さんに笑ったww 小春ちゃんの手桶スマッシュ、今日もキレキレですごい音だったね(いい音)。限界言い訳タイムも安定のクオリティで、クスッときちゃった。 シロ様が膝に戻ってきて喉を鳴らすラスト、すごく温かい気持ちになったよ。このお話、本当に癒やしが詰まってる🌙💫
ゆうき あきや
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#心理描写重視