後ろの使えない男がやられたことで今まで守られていた子が前に出てくるようになった……。しかもあの男がやられる前と後で完全に魔力量も変化してる。妖精族と違って人間は魔力量をコントロールできるとは書物で確認してるけどまさかここまで大きく振れるとは……。良くも悪くも妖精族は限界が決められてる。だが元の量が他の種族と比べて頭一つ抜けているのが妖精族の特徴でもある、言うならば元になっている器のサイズが違うのだ。仮に人間の魔力量のサイズを木製のコップとしたとき私ら妖精族は飲み物を保管する樽といった具合に器が違うからこそ限界量も変わっている。しかし、人間という生き物は不思議なものでこの木製のコップもあくまで一つの指標に過ぎない。ある人物は例えに出した木製のコップ程度しかない者、又ある者は妖精族と同じ樽と同レベルの魔力量といったように妖精族にはない『個体差』がまず存在する。そしてそれ以外に大妖精様がいつか聞かせてくれたお話の中に人は危機的状況になった時稀に限界値を越えた力を発揮すると聞かせてもらった。そうなった時の人間は敵であれば厄介、味方であれば頼もしい存在だとそうお話していた。そして今……目の前に立っている私達と同じ年の子はその『厄介』な存在と化している。目算でしかないがあの子の現時点の魔力量はバケツ程度しかないが限界を超えた今は恐らく私達妖精族の子供と同じくらいにまで跳ね上がってるだろう……。
そのうえで彼女が使う魔法は恐らく罠魔法というもの。私たちが使う魔法はいわゆる基本魔法と言われる『属性魔法』。火や水、風と言った属性による遠距離攻撃のことを指すがこの罠魔法はそういったいわゆる外傷を付ける魔法というよりも虚を突いた一撃を生み出すための補助的な魔法だろう。さっきやってきた土の棘のような攻撃的なものもあるだろうが基本は補助で攻撃にも転ずることが出来る汎用性の高い魔法の種類なんだろう。故に性能はどっちつかずで特化させた職業には負けるだろうがこういった混戦になると無類の強さを発揮するだろう。さらに恐ろしいのはこれらの魔法のコストは恐らくこちらが多用していた火球と同等か少しコストがかかるくらいという圧倒的なコスパの良さ。そのうえでこれほどの殺意のある攻撃を何度も簡単に繰り出せる上にそれらすべてが虚を突いてくるということと連打される可能性を秘めているという恐怖が滞在している。魔力量が増えたことで彼女もやれる幅が大きく増えたのがやはり厄介だ。それに彼女魔法職と言われる部類なのに背には弓と矢筒を、腰には短刀に鞭と扱う武器も多岐にわたるみたいだしかなり私ら妖精族の天敵ともいえる。
そしてそれとは別で今もなお平気な顔をしてこちらの魔法を受けきっているあの人間の女。彼女の魔力量は素の状態で私達と同格!けど、魔法による攻撃と言うよりも補助や技などの方に特化させてるようで恐らく私たちの大技に対して同レベルの魔法を唱えることはほぼ不可能。だがそれだけの魔力量があるのに自覚してないわけはないので何かしら魔力を使ったからめ手も使ってくるはず。なら、時間をかけるのは得策ではない。正直大人たちと比べて私らは確かに武器の扱いには長けているが人間は魔力量が乏しいから私らのさらに上に立つ人物だ。だからこそ魔法による優位を作りつつ油断を誘って倒す予定だったのにあの男がやられただけで戦況が五分から不利に変わってしまっている。今私のやることはあの子を何としてでも食い止めること!そうしなきゃ私らの里はこの人間たちの手中に堕ちてしまう。
「考えてた策は恐らくもう使えないからラルドも全力であの女の人を倒してくれる?」
「……分かった!何とか頑張ってみる!」
「私は暴走気味のあの子を止めるから!」
「うん!気を付けてね!!」
(なるほど…。二対一の構図を作るのかと思ったけどマリンちゃんが覚醒したことでその策は愚策になると判断して一対一する方を選択したわけね。そして私の相手はさっきから魔法で足止めしてきたこの子。後ろのこと姿が似ててパッと見ただけじゃあ見分けがつきにくいけどこの子の動きの特徴はもう掴んだ。後ろの子と間違えることはかなり減ったでしょうね。そうしたらそうね……。私も出し惜しみせずちゃっと片づけちゃおうかな。狂化はさすがに反動がデカいので簡単なバフを何回か使い虚を突いた攻撃でもしてあげようか……。)
「申し訳ないけどこの勝負は私らが勝たせてもらう」
「いいや?私らが勝つに決まってる。私らが勝つことでこの里を変えるんだよ。」
この里を変える?私らも実際この里をどうにかしたいとは思ってるけどこの子らも何かしらの理由があってこの場に立ってるのか?私らが里を変えたいと願うように彼女らも自分たちの力で変えたいと願ってるのか…。それが果たして私ら人間を嫌う妖精族の行動なのかそれとも志は同じ里自体を大きく変えたいと願うものなのか。なんにせよ同じ考えならばこの戦闘は無駄でしかない。彼女も行動の真意を知りたいからこそここは少し話してみるのも手段としてはありかもしれないな。
「少し私と話でもしない?」
「突然何の真似だ?油断させて仕留める気か?」
「まさか…。そんな人間ならこうしてこの場に立ってないし第一里長に変なお願いをしてないわよ。」
「……。それで、何の話をするつもりだ?」
「さっきあなたはこの里を変えたいと言ってたわね?」
「あぁそうだよ。私はこの里を変えたい、だからあんたらには申し訳ないがやられてもらうんだ。」
「実は私たちもこの里を変えたいと思ってるのよ。」
「それは人間の都合のいいように変えたいっていうことだろ?」
「まぁそう思えるわよね。このステージを設けたのもそういう理由にしてるから。」
「なに?」
「これを開いた本当の理由を教えてあげる。近いうちに恐らく人間の奴隷商人がこの里を襲ってくると思う。その時あんたらはきっとほとんど何もできずに攫われてしまう。それを阻止するために私らはここにいる。」
「その話をいきなり聞かされて信じるとでも?」
「きっと信じてもらえると思ってる。だってこの里の子供である『アリサ』ちゃんと『ミクナ』ちゃんを助けたのは私だから。彼女らにこのことを伝えれば確定で答えてくれるわよ。」
「…まだそれだけじゃあ信じられない。」
「それじゃあそうね……。里長とも私らがグルだと知ったらどうかしら?」
「!?」
「もちろん買収したとかそういう話ではない。同じように危機的状況になることを伝えてそのうえで里全体を動かすにはどうするべきかを里長本人と話し合いその結果こうして人間を追い出すという形にして里全体を焚きつけて私らの力を示し、近いうちにやってくるに奴隷商人たちの対策をしよう。そういう話になってるのよ。」
「じゃあ…私らがこうして頑張ってるのは無駄ってこと?」
「無駄じゃないわよ。あんたらも里を変えたいんでしょ?この三日間で里の子供と大人とで考えの相違があることが分かった。あんたらも大人のやり方が気に食わないんでしょ?だから子供である自分たちでも力があると証明したかった、そんな理由で今この場に立ってるはず。」
「……。」
「第一この場に立つということは里の中で一番強い人物であるということ。それだけでもう大人たちに力を示せてるんじゃない?」
「それでも、それでもまだ全員が全員私らのことを認めたわけじゃない!」
「だったらなおのこと私らと争う理由はないわ。奴隷商人たちに対抗するには里のみんなの力が必要なの。正確にいえば私らが去った後でも自己防衛できるようにすること。それが最終目的でもあるのよ。」
「私ら妖精族は魔力量が人間なんかとけた違いなんだからそんなの必要ないよ!」
「いいえ?この里は鎖国をしているがゆえに外の世界を知らない。今外の世界ではあんたら妖精族を祖とした種族が人間世界で活躍してるの。活躍している理由はもちろん魔力量の違いがほとんどの割合を占めてるんだけどそれ故に、研究が進んでいて妖精族はそれに頼る生き方をしていることも明らかになってるからこれか来る奴隷商人たちはお得意の魔法を封じて何もできないあんたらを簡単に攫うことができるのよ。それを危惧した私たちは魔法以外の戦い方を伝えるためにこんな催しを始めた。そして私らが勝って里のみんなに武器というものの使い方を教えたかった。これがこの里を賭けた大会の本当の目的。どう?これでもなお私らがずっとやりあう理由になるかしら?」
「……。」
「だましたのは悪かったわ。でも頑固な妖精族を動かすにはこういう力技をせざる得なかった。信じてもらえないかもしれないけどことが終われば私らはまたどっか行くし里自体を私有地みたく扱うこともしない。この件が終わればすぐに手を引くしお望みとあらば関わりも絶ってあげる。ただし、すべてはこの里の問題を何とかした後になるけどね。」
「……。わかった。里を変えたい気持ちは同じみたいだからそれを信じる。」
「えぇありがとう。それじゃあ私らが争う理由はないから今度はあっちを止めてあげないとね」
「そうしましょうか…」