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「美玲さん、入りまーす!」
スタジオに入った瞬間、スタッフたちの羨望の眼差しが私を包み込む。
当然よね。
今の私は、ただのインフルエンサーじゃない。
SNSの総フォロワー数400万人。
私が「これいいよ」と呟けば商品が完売し、私が「これ嫌い」と言えばその店は潰れる。
私は今、この世界の頂点に立っている。
「美玲さん、今日のメイクも最高です!昨日のXの投稿、30万いいね超えてましたね」
媚びを売るメイク担当に適当に頷きながら、鏡の中の自分を見つめる。
誰もが憧れる端正な顔立ち。高価なブランド物に身を包んだ、完璧な私。
過去なんて、誰も知らない。
あの田舎の、湿気臭い教室で私が何をしたかなんて、誰も興味を持たない。
「……あ、これ。美玲さんに届いてました。大手制作会社の、直筆の手紙です」
マネージャーの佐藤が、恭しく一通の封筒を差し出してきた。
中身を取り出すと、高級感のある厚手の紙に信じられない言葉が並んでいた。
『美玲様の美学に感銘を受けました。あなたの半生を、一本の映画にしたい』
「映画……。しかも、主演は私?」
思わず声が弾む。
インフルエンサー、モデル、そして次は「女優」。
これ以上ないステップアップ。
私の成功は、もう誰にも止められない。
「いいわよ。受けてあげても。でも、内容は私がチェックするわ。変な脚色されたくないし」
私は勝ち誇ったように、同封されていた『プロット兼台本案』を手に取った。
タイトルはまだ白紙。
パラパラとページをめくる。
最初は、私の輝かしい中高時代の活躍から始まる。
うん、いいわ。期待通り。
でも、1ページ目の余白に、青いボールペンで殴り書きされた一言を見つけた時。
私の指先が、わずかに震えた。
『────ねえ。死ぬほど、痛かった?』
「……何、これ」
台本にない、場違いな言葉。
その筆跡には、どこか見覚えがあった。
私が中学の時、無理やり「遺書」を書かせたあの女の、震える字にそっくりで。
「美玲さん? 顔色悪いですよ。大丈夫ですか?」
佐藤の声が、遠くで聞こえる。
スタジオの明るい照明が、急に冷たいスポットライトのように私を射抜いた。
「……何でもないわ。ちょっと疲れが溜まってるだけ」
私は急いでそのページを閉じ、台本を鞄に押し込んだ。
大丈夫。あれはもう10年以上前のこと。
あの女はもう、この世にいないはずなんだから。
私の人生は完璧。
これは、私がさらに輝くための「招待状」なんだから。
#インフルエンサー