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#インフルエンサー
「……何、ここ」
スタジオの重い扉を開けた瞬間、私は呼吸を忘れた。
そこに広がっていたのは、最新の撮影セット……なんかじゃない。
古ぼけた木製の机、カビ臭い空気、そして窓の外に見える安っぽい田舎の風景。
それは、私が十数年前に捨て去った、あの「母校」の教室そのものだった。
「美玲さん! お疲れ様です。セット、驚きました?リアリティを追求して、当時の図面から再現したんですよ」
監督だと名乗る若い男が、モニターから目を離さずに言った。
帽子を深く被り、マスクをしているせいで顔はよく見えない。
「再現……? 誰がそんなこと頼んだのよ。もっとキラキラした学園ものにしてって言ったはずでしょ」
私は声を荒らげた。
心臓がうるさいくらいに鼓動を打っている。
落ち着け、ただのセットだ。これは映画なんだ。
「まあまあ、まずはテストから始めましょう。美玲さんの席は……あそこ、窓際の後ろから二番目です」
「……!」
そこは、私が女王として君臨していた席じゃない。
私が毎日、あの女を立たせて、教科書を切り刻んでいた───「被害者」の席だった。
「嫌よ。私は主役でしょ?どうしてあんな地味な席なの」
「主役だからこそ、多角的な視点が必要なんです。まずは『いじめられる側』の絶望を演じてみてください。美玲さんなら、その……『熟知』しているでしょう?」
監督の声が、妙に低く響く。
熟知? 何を? 私がやってきたことを知っている…?
……いや、そんなはずない。
全部、金と親の権力で揉み消したんだから。
私は震える脚を隠しながら、指定された椅子に座った。
机の表面には、無数の傷。
ふと、机の引き出しの中に手が触れた。
中から出てきたのは、一冊のノート。
表紙には、汚い文字でこう書かれていた。
『死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね』
「───っ!!」
私は悲鳴を上げてノートを突き飛ばした。
それは、私が当時、あの女の机に毎日書き込ませた言葉と、一字一句同じだった。
「どうしました? 美玲さん。まだ本番じゃないですよ」
スタッフたちが一斉に私を見る。
その視線が、かつて私がクラス全員に命じて、あの女に向けさせた「蔑みの目」と重なった。
「……なんでもないわ。ただの、演出よね? 凝りすぎよ、悪趣味な」
私は必死に笑みを作った。
でも、気づいてしまった。
セットの隅にある掃除用具入れから、真っ赤な液体がポタポタと漏れ出していることに。
それは、まるで誰かが中で血を流しているようで──
「さあ、始めましょう美玲さん!あなたの『真実』を記録する、最高の映画を」
カチン、と小気味いい音が響く。