心配約束の日曜日、私は早く着きすぎないように慎重に家を出た。
法定速度を守り、ゆっくりと車を走らせる。
それでも、ジェンの家が見えたのは、約束の時間まで、まだ30分も早かった。
慌てて引き返し、近くのスタンドでコーヒーを買って時間をつぶした。
約束の時間の少し前、私はジェンの家のインターホンを押した。
インターホン越しに、ジェンの声がする。
「少し待っててくれる?」
―もちろん。
答える前にインターホンの切れる音がした。
10分して、ジェンが出てきた。
「ごめんなさい。寝坊しちゃったの」
にこり、と笑うジェンは可愛らしく首をかしげた。
「いいのよ。寝坊なんて……疲れてたの?」
「昨日、友達とバーに行ってたから」
にこりと笑ったジェンの目に、少し疲れの色が見えた気がした。
「今日はやめておく?Gloriaはいつでも行けるから」
「いいえ!」
ジェンが慌てて首を振った。
「Gloria、中々予約が取れないって有名なのよ?」「私の叔母がオーナーと友人だから、融通はきくわ。今日だって…」
私の言葉を遮り、ジェンが人差し指を私の唇に押し当てた。
「あたしと行きたくないの?」
ジェンがニヤリと挑発的な笑顔を見せた。
「いいえ!!行きたいに決まってる」
ジェンの手を握る。強く握りすぎたと思って、慌てて緩めた。
「なら、行きましょう。決まり!」
そう言って、ジェンは助手席に体を滑り込ませた。
ジェンを乗せて、車を走らせる。
Gloriaまで1時間はかかる。
「寝てていいわよ?」
心配でたまらなかった。私のために無理させたくない。
「ありがとう」
ジェンは、到着までのほとんどの時間を寝て過ごした。
信号待ちのたびに、隣に視線をむけた。
ゆっくりと上下する胸。
黄金の波打つ髪。
少し空いた薄紅の唇から、微かな寝息が聞こえる。
全てが完璧だった。
―私の天使だもの。
いつだって完璧。
ジェンを起こさないように、慎重に車を走らせた。
Gloriaに着く頃、ジェンは自力で目を覚ました。
私が起こしてあげたかったけれど。残念。
Gloriaにつくと、ジェンはたくさん写真を撮っていた。
食事は気に入らなかったのか、少しだけしか食べなかった。
「調子が悪いんじゃないの?」
尋ねると、ジェンはにっこり笑って首を横に振った。「いいえ。おいしいわ」
食事が終わり、会計を呼ぶ。
ジェンが割り勘にする、と言うので、仕方なく半分をジェンに負担してもらうことにした。
ジェンは、納得して頷いた。
ジェンがカバンに手を入れ、焦り始めた。
その顔色がみるみる蒼くなっていく。
「財布…忘れてきちゃったわ」
―出発の時、あれだけ慌ててたもの。無理もないわ。
私は、いいのよ、と笑顔で返した。
帰りの車では、ジェンはうとうとしながらも私と話をしようとしてくれた。
―優しいジェン。
ジェンの家に着くと、ジェンはにっこりと笑顔を向けてくれた。
「ありがとう。楽しかったわ」
「ゆっくり休んでね」
ジェンは私の言葉を背中で聞いて、すぐに家へと入っていった。
帰路は、ずっと食事が来るたびに目を輝かせて夢中で写真を撮るジェンを思い出していた。
「本当に…天使みたいな子…」
車の中でのつぶやきは、私の秘密。
―ジェンと出会えて、本当に良かった。
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