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仕事が一段落した頃、私のスマホにジェンからメッセージが届いた。
『clotheslionに一緒に行って?』
clotheslionといえば、少し高級な洋品店だった。
『もちろん。新しい服を買うの?』
『土曜日ね』
『わかったわ。楽しみね!』
私は急いで土曜日のスケジュールを全てキャンセルにした。
土曜日、clotheslionに着くと、ジェンは楽しそうに服を選び始めた。
ジェンにしては肩の露出した奇抜な服を選び、鏡の前で合わせていた。
「ジェンには、こっちのほうが似合いそうよ」
そう言って、花柄のワンピースを差し出す。
ジェンが冷たい目で蔑むように私とワンピースを睨んだ。
「あたしには大人っぽいのは似合わないって言いたいわけ?」
「そんなことないわ。それも、きっと似合うけど…」
私の言葉を無視して、ジェンはくるりと背を向けると、服を買い物籠に入れてしまった。
私は、手に持った花柄のワンピースを見つめ項垂れた。
―怒らせてしまったわ…。
ふと、イェンのことを思い出した。私と会えば、輝く笑顔でいつも迎えてくれるイェン。
―イェンなら、きっと……
「アン!」
ジェンの声に、ハッと顔をあげ、急いでジェンの後を追った。
「どうしたの?」
「これ、どう思う?」
ジェンが差し出したのは、薄いブルーのオフショルダーだった。
―ジェンには似合わない。
―そんなに肌を見せなくても、あなたは魅力的。
喉元までせり上がってきた言葉を飲み下す。
―今度は間違わない。
「…いいと思う。とても」
ジェンはにっこりと笑った。
「嘘つき」
ジェンは籠の中にオフショルダーの服を入れた。
すでに3着が入っている。
私は、慌てて籠を取った。
「重いでしょ。持つわ」
ジェンは私に籠を渡すと、ショートパンツを選び始めた。
「ジェン、どうして露出の高い服を選ぶの?」
問う私に、ジェンは笑顔を向けた。
冷たさを感じる笑顔だった。
「アンには関係ないでしょ」
―また、怒らせてしまった。
私は、焦りを覚えた。
―嫌われたらどうしよう。
ジェンがショートパンツを籠に入れる。
ジェンは、計10着の洋服を籠に入れると、会計に向かった。
clotheslionの値段は高めの設定だ。
案の定、高額な請求が要求された。
ジェンがカードを出す。
―ジェンの心を取り戻さなくちゃ…。
私は、ジェンの手を止め、自分のカードを出した。
「どうして?」
ジェンの怒ったような声に、私は曖昧に笑って返した。
「私がしたいから」
ジェンは眉間のシワを少し解して、財布をカバンの中に放り込んだ。
―少しは許してもらえたかしら?