「おはよー」
もう遅刻はしなくなった。悠々と教室に足を踏み入れる。
「おはよ、凪谷」
「凪谷くんおはよー!」
「てか想、昨日すげぇ騒ぎだったらしいな!」
「あぁー、、光すげぇ活躍してたからな」
「…いやおま、はぁ…鈍感なのな」
「そこも可愛いんだけどなー俺たちの凪谷クン♡」
「….ばかにしてる?」
そういえば、光がまだ来ていない。
いつもなら俺が登校する頃にはもう友達と騒いでるのに。
「光はまだ来てないの?」
「珍しいよな〜」
大丈夫かな。
光はHR直前になっても来なかった。
「おーお前ら朝から元気な。HR始めるから座れー」
まこっちゃんが来てしまった。確実に遅刻だ。
「…てあれ、西垣はまだ来てないのか?」
「そーなんすよー。あいつ寝坊だろ絶対!」
「光くん見ないと元気でなーい」
とクラスがざわざわし始めた。
____ドタドタドタ
「すいません送れましたァァァァァ!!」
全力疾走してきたであろう光が肩で息をしながら入ってきた。
「もーお前遅刻だぞー。たるむなよー。」
「すいません!!!寝坊です!」
と駆け足で自席に着いた。
「おはよ、光」
「想おはよおぉ、、昨日眠れなくてさぁ、、」
「考え事でもしてたの?」
「…い、いや?」
…嘘だな。
いっつも21時には寝る健康児の光が考え事….となるとやっぱ…
「新田先輩」
「へ?!?!!どどどどうしたんだ?」
「…が朝告られてたなそういえば」
「…へ、へぇ、、ち、ちなみにそれ返事は?」
あぁもう確定だ。”新田先輩”と発しただけでこの動揺の仕方。それと告白と聞いてこの落ち込みよう。
「…さぁな〜。そこまではちょっとな〜。」
「え、ちょ、は?!」
「聞きたいなら自分で聞くしかないなぁ、光」
「べ、別に気になってねえし!!!!」
まぁ、告られていたなんて嘘なんだけど。
少し光の反応を見ようと思っただけだったが、ここまでとは。
「ま、がんばれよ!」
「ちょ、想〜!!!」
必死に俺の肩を揺らしてくる親友を他所に、俺は今日の部活で少し協力してやろうと企てていた。
…部活。てことはあの人もいるんだよな….。
鼓動が強くなり胸が痛い。姿を思い出すだけで緊張する。でも、嫌ではない。
(憧れってすげぇ….。)
光も俺もぼんやりと一日を過ごし、各々部活に向かった。
(…あれ、今日は一番乗りか)
HRが終わってすぐ武道場に向かったので、まだそこには誰もいなかった。
(モップがけでもしとくか)
と、1人武道場の清掃をしていると、
「…あれ!凪谷くん!はやいねぇ」
…ぐ….。声を聞くだけで鼓動が早くなる。絶対心拍数やばいことになってる。
「せ、先輩も早いですね…!」
「へへ、誰もいない武道場好きなんだ〜」
いたずらっ子のように笑う先輩に惹き付けられた。目が離せなかった。
な、何か言わなきゃ。
「…お、俺外出ときますね!せっかく先輩早く来たのに、俺いたら意味ないし!」
これ以上先輩と2人きりでいると心臓が破裂してしまう。
「えー。一緒にいてよ。」
「え?」
「凪谷くんと話してみたかったし。それに凪谷くん、静かで落ち着く雰囲気なんだもん。」
新田だったら外でてもらってたかもだけど!とやっぱりいたずらっ子のようにはにかむ先輩。
あぁもう、ずるいだろそれは。
「先輩がいいなら…俺も話したいです….」
「ふふ、やった。」
可愛いが限度を知らないみたいだ。
「…てか凪谷くん!新田のことはちゃんと名前で呼ぶのに、私は?」
「え、せ、先輩名前教えてください….」
新田先輩に闘争心燃やしてる….かわいい….
「かおる!風ってかいて『かおる』って読むの!瀬波 風です!」
「風先輩..珍しくて覚えやすいですね」
「……」
「せ、先輩?」
「ご、ごめん…あんまり下の名前で呼ばれたことないから照れちゃって….」
ああぁ俺のバカ!!そりゃそうだいきなり下の名前とか引かれるわくそ!!
「す、すいません瀬波先輩!!!!」
「ふふっ、変えないでよ」
「えっ、?」
「照れたけど、嫌じゃないから。私も想くんって呼ぶから、おあいこね」
あぁ。わかってるよ俺だって。もうさすがに。
好きだよ。憧れどころじゃなくなってる。
「…風先輩、俺、前も少し言ったかもしれないですけど、文化祭のときの先輩に憧れてたんです。」
「えぇっ、そんな大したことしてないのに…」
「だって俺は、俺だけじゃなくてあの場の大勢は、、動きたくても動けなかった。先輩は、あの場で唯一”動いた人”なんです。」
「……..もー。照れちゃうなぁ。私ね、余計なことしたかなってちょっと思ってて。もし私が連れ出さなければ、あのまま体育館ですぐ合流できてたのかもなって。」
「そんな訳…!!!」
「うん。今、そんな訳ないって思えた。想くんのおかげで。だから、想くんも私のヒーローだ!」
…..なんで俺、憧れの、好きな人にここまで言ってもらえてるんだろう。
あの日動けなかったとはいえ、先輩を視界に捉えた自分を褒めてやりたくなった。
「…風先輩」
「?なあに、想くん」
「俺、先輩に会いたくてここまで来ました。」
「へ?」
「先輩。好きです。」
あ、待って言ってしまった。こんなすぐ言うはずじゃなかったのに。
「…..へ?」
「好きです。憧れじゃ足りないんです。後輩になれただけでも夢のようなのに、もうそれだけじゃだめになりました。」
「俺を、先輩の特別にしてください。」
先輩が目を丸くして俺を見つめる。
少しの沈黙のはずなのに、今はそれが痛い。
断られて当然なのだ。俺は半年前から先輩の姿を目標にしてきたので、ずっと一緒にいたかのような感覚だが、先輩からしたらそうではないのだ。
覚えてくれていたとはいえ、ほぼ初対面だから。
「・・・・ーの?」
「え?」
「本当に、いいの?取り消すなら、今だよ。」
酷く不安そうな面持ちで先輩がいう。
「取り消すなんてしません。答えが望む結果でなくとも、絶対に。」
「私、凪谷くんに好かれていいような人間じゃないよ。きっとすぐ、失望しちゃうよ。」
・・・腹が立った。仕方ないが、俺の想いはまだこれっぽっちも伝わっていない。
「…先輩。俺、ここの文化祭来る前の偏差値50くらいでした。でも、友達に連れられてここに来て、先輩を見て。『この人にもう一度会いたい』って想いで、死ぬ気で勉強漬けの日々を送って偏差値15も上げてここ来たんです。本当の先輩が俺の想像と違ったとしても、俺は『瀬波 風』っていう人間を知れて喜ぶだけです。絶対、先輩が嫌って言うまで、それを伝え続けます。」
…一気にこんな想いをぶつけてしまって、引かれてしまうだろうか。
いやもう、引かれてもいいんだ。どうか、この人には笑っていてほしいんだ。
「…本当に?ほんとのほんと?」
「当たり前です。」
「………うっうぅぅ」
な、泣いている。俺が泣かせたのか?きもすぎたのか?
「す、すいません!!きもかったですよね?!」
「…違うの。嬉しくて。きっと想くんは、どんな私でも好きでいてくれるんだろうね。」
涙で潤んだ瞳が、射し込む夕陽に照らされ絵画のように輝いた。
「___私を、彼女にしてください。」
….
「….え?!い、今なんて?!」
「ふふ、私を彼女にしてくださいって言ったんだよ。」
「ほ、本当に?俺なんかでいいんですか?!」
「想くんがいいの。想くんはもうとっくに、私の特別だよ。」
….っ。
抱きしめてしまっていた。もう考えるよりも先に、体が動いていた。幸せだと言わんばかりのこの愛しい笑顔を、どうか守り続けられますように。そう願いながら、強く優しく、先輩を抱きしめた。
「…苦しいよ…想くん…えへへ…」
「絶対、幸せにします。俺しつこいって言われても溺愛し続けますからね。」
「望むところだよ」
幸せに満ち溢れた時間を過ごしていると、外から歓声が聞こえた。
……..先輩たちがやけに遅いことに気づけなかった。
「いやーおめでとうお前ら!!!青春だな!」
「想が誓いのハグしてまーす」
あぁもう!!そりゃそうだこんな武道場の真ん中で!
「へへ、早速バレちゃったね」
言葉とは裏腹に嬉しそうに笑う先輩。
「…もー。なに可愛い顔しちゃってんすか」
優しく先輩のほっぺをつねると、一層笑顔が輝いた。
(今日は光の応援どころじゃなかったな….)
と、俺は心の中で親友に詫びた。
コメント
1件
今回長いですすみません!😿❤️🔥