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「…っだぁあ終わったぁぁ」
やっぱ高校の稽古はキツい。中学の比にならない。けれど、必死に先輩方についていくのはかなり達成感があった。
そして驚いたのは、風先輩と新田先輩の実力。
部員は2年8人・一年6人の総勢14人。2年は全員経験者である。
うちの剣道部は少数精鋭と言われるほど実力者が集まっているのだ。
その中でもトップに立っているのが、風先輩・新田先輩の2人。
風先輩は体格が小さいにも関わらず、冷静沈着な姿勢と素早い判断に追いつく俊敏さで性別や体格の差を感じさせない。
新田先輩はそれに対しがっしりして身長もあるのに、風先輩と同じくらい素早く動く。手の打ちなんてもう何を打ったのか分からないほど早い。
2人の圧倒的な人望、信頼の意味がわかった。
すげぇなぁ。なんて思いながら防具を片付けていると、風先輩が袖を引っ張ってきた。
「どうしたんですか?」
「…連絡先、交換しよう」
「あ!そ、そうですねもちろん!!」
まさか風先輩から言ってくれるとは。本当に付き合ったんだなぁとじわじわ実感する。
へへ、と嬉しそうにスマホを眺める先輩を見ると、無性に抱きしめたくなる。
…だめだ。我慢しよう。
「おーい凪谷ー。俺ら今から新田ん家行くんだけどお前も来ねぇ?」
「あっすいません俺友達とこの後予定あって!」
「うわそっか!また今度1年の歓迎会しよな!」
「あざす!!!」
みんないい人たちばかりで、あたたかい。
「風先輩、またすぐ連絡しますね」
「うん、まってるね」
…かわいい………..
「気をつけて帰ってくださいねまじで。変な人についてっちゃだめですよ。」
「もー。何歳だと思ってるの」
…やっぱ協力すんなら今だよな。
人一倍大きく口を開けて笑うその人に、視線を向けた。
「新田先輩!」
「お、どうした?」
「あの、先輩ってどんな人がタイプですか?」
「ん?急だなぁ….んー….」
急な質問に先輩は長考する。
「よく笑う人がいいな!!!素直だと尚良し!」
…おぉ…!!光当てはまってる…!
「…なるほど……先輩の元カノさんもそういう人だったんすね」
「あー…直近は男だったな!!その前は女の子だった!」
「えっ?」
突然のカミングアウトに驚く。
「俺も最初聞いたときびっくりしたよ」
と、新田先輩と同じく2年の横田先輩が言う。
「でもなんかこいつらしいよな。性別とかになんも偏見持たずに、ただその人の人格だけ見て好きになるんよ」
「…かっけぇ、、!!!!」
素直に出た言葉だった。世間体とか、周囲の目とか、そういうのなんにも気にしない真っ直ぐなこの人が、ただただ本当にかっこいい。
「んいや、ただ人を好きになっただけだぞ?他愛もない恋バナだよ」
「…へへっ、あ、光待たせてんだった。先輩ありがとうございました!!お疲れ様です!」
風先輩にもまた明日!と一声かけて俺は光がいるであろう1-Cへ向かった。
「はぁっはあっ、、光、、!お待たせ!!」
「おぉ想!意外に早かったな!!お疲れ!」
「走ってきたから…!どこ行く?!」
新田先輩や風先輩のことを早く話したいあまりテンションが抑えきれない。
「考えてたんだけどさ、俺今めっちゃ見てぇ映画あんだよね」
「お、いいじゃん行こう」
「恋愛物だけどいける?」
「大好物」
こうして俺らは、光おすすめの恋愛映画を鑑賞し、駅前のカフェで話すことにした。
「まじで傑作だった。当て馬も最終的に結ばれんのあついわ」
「それな〜泣いた!!」
映画の感想を話し合った後、風先輩に再会できたことや部活まで同じだったことを話した。
光はやけに嬉しそうに聞いてくれた。
….報告しなきゃいけないことがある。
「…あ、そういえば今日剣道部で恋バナしたんだよ」
光の眉毛がピクっと動いた
「へ、へぇ!やっぱみんな恋してんの?」
「そうそう、それで新田先輩めちゃくちゃかっこよくてさ」
「?!うん」
「元彼のことも元カノの事も、ちゃんっと内面みて選んでんだよ」
「へぇ…ってえ、も、元彼?」
「そうそう、その人の人格に惚れるから性別なんか関係ないって」
「そ、そうなんだ…え…まじか……..」
困惑しているが、それでも瞳からは確かな嬉しさが滲み出ている。
「あと、よく笑って素直な人がタイプらしいぞ」
「…..なるほど…..」
光が真剣な眼差しで俺からの情報を脳で処理する。
….そろそろ、聞いてもいいだろうか。
「なぁ、光?」
「ん?」
「なんか俺に、隠してることあんじゃない?」
「え….ぁ…..」
言葉に詰まっている。
打ち明けんのは、緊張するよな。
「ゆっくりでいいよ。ちゃんと聞いてるから。」
「…おれ、俺さ」
「うん?」
「気持ち悪いって思われるかもしんないけど」
「何があっても思わない。うん。」
「……新田先輩のこと、好き、かも…」
細くて、でも確実に届く声で、光は打ち明けた。
きょろきょろ不安そうに泳ぐ目には、何だか既視感があった。
…あぁ。
「光。俺が公園で風先輩のこと話したとき、お前泣いてくれたよな。」
「…うぇ…うん…」
「俺さ、めちゃくちゃ嬉しかったよ。心から、お前と出会えて良かったって思った。」
「うん….うん…」
「光、出会ってくれて、ありがとう。人懐っこくてよく笑って、素直なお前…ってあれ?」
「??どうしたんだよ?」
「あれ、光って新田先輩のタイプに超当てはまってんなぁ〜」
「え?」
「協力するしか、ねぇな!!」
「…想……」
「気持ち悪いなんて誰が思うかよ、むしろ死ぬ気で結ばれろ、ぜってぇ諦めんな。あんないい人そうそういねぇ。それと同じくらい、」
俺はゆっくり息を吸って、光見つめながら言う。
「こんな良い奴、他にいねぇんだから。」
光の瞳から涙があふれる。
「想、ありがとう、、ほんとにありがとう。頑張るよ俺!!」
「おう、絶対大丈夫。俺がついてる。」
2人で涙を零しながら本音を明かしあった後、俺は気づいた。
….1番言わなきゃいけねぇ事、言ってねぇ…..
「…なぁ、光。ごめん言い忘れてた」
「ん?」
「…..今日風先輩に告白した…」
「ん?は?は?!」
「で、付き合いました……」
「「…………………」」
両者沈黙した後、先に響いたのは
「….はぁー?!!?!!?!?!?!」
光の叫びだった。