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卒業式まで、あと3日。

学校では、式典で読む答辞や送辞の練習が始まり、空気が少しずつ“しん”とし始めていた。

いつもはうるさいクラスメイトたちの声も、どこか控えめに、でもどこか名残惜しそうに響いていた。

教室の窓際で、みなみはぼんやりと空を見ていた。

淡く霞んだ青空。遠くで工事の音がして、春の風がカーテンを揺らしている。

(もうすぐ、みんなこの教室からいなくなるんだ)

(今はこうして笑い合っているけど、4月にはもう別々の場所にいる)

寂しさはある。でも、喪失感ではなかった。

それよりも、今この瞬間を大切にしたいと思えた。


放課後、仁と一緒に帰るいつもの道。

駅へと続く桜並木の通りは、まだつぼみのままの枝ばかりだったけれど、どこかもう“咲きそう”な気配を漂わせていた。

「なあ、みなみ」

「ん?」

仁が少し立ち止まって、真剣な目でこちらを見た。

「卒業して、もし離れちゃってもさ……俺、お前のこと、ずっと好きだから」

その言葉に、心臓がドクンと鳴った。

「……ありがとう」

「俺、たぶん不器用で、遠くにいても何ができるかわかんないけど。

でも、“好き”っていう気持ちは、ちゃんと伝えたくて」

「……うん」

みなみも、息を吸い込んで、真っ直ぐ彼を見つめた。

「私も……仁くんのこと、大好きだよ。ほんとに。

守ってくれて、信じてくれて、私が“変わってもいい”って思わせてくれた。

ずっと、ずっと、ありがとう」

仁は少し目を潤ませながら、ふっと笑った。

「それ、卒業式で言われたら泣いてたわ」

「今も泣いてるじゃん」

「うるさい」

みなみは笑いながら、仁の腕にそっと寄り添った。

春は、まだほんの少し先。でも、心はもう咲き始めていた。


その夜。

机の上に、みなみは一通の手紙を出していた。

書きかけのまま、何度も途中で破ってきた手紙。

宛先は、「お母さん」。

今なら、もう書けると思った。

伝えたいことは、たくさんある。怒りも、悲しみも、でも……感謝も。

(お母さん。たぶん、私のことをどう扱えばいいか、わからなかったんだよね。

私も、どう向き合えばいいかわからなかった。だから、いっぱい傷ついて、いっぱい逃げてきた)

(でもね、今は、少しだけ許せそうです。

あなたを、というより、私自身の心を。

だって私は、今、笑えてる。支えてくれる人がいて、自分で選んだ進路に進もうとしてる)

(だから、ありがとう。……生んでくれて。ここまで育ててくれて)

みなみは封をして、そっと机に置いた。

それは、もう二度と渡せないかもしれない。けれど、その“気持ち”はもう、自分の中で確かに昇華された。


卒業式まで、あと2日。

制服の袖が、少しだけ短く感じた。

春は――もう、すぐそこだった。

朝、目が覚めると、窓の外は淡く光り始めていた。

春の訪れを告げる、やわらかい陽射しがカーテンの隙間から差し込む。

「今日で卒業か……」

「お母さん来てくれるかな?」

少しワクワクした気持ちで着替えをすすめていた。

みなみは、まだ少し緊張している自分に気づきながら、制服のリボンを丁寧に結び直した。

あの辛かった日々も、今日で一区切り。けれど、その先にはまだ知らない未来が待っている。

朝の食卓には、母が用意した朝ごはんが並んでいた。

「行ってきます」と一言だけ告げると、母は小さく頷いた。言葉はなかったけれど、みなみには伝わった。

学校へ向かう道すがら、空は青く晴れ渡り、桜の花びらが風に舞っていた。

校門をくぐると、いつもの顔ぶれが笑顔で迎えてくれた。

「みなみ、きれいだよ」

「おはよう!」

照れくさくて、でも嬉しい。みなみはぎこちなくも笑顔を返した。

教室に入ると、仁がすでにいて、じっとみなみを見つめていた。

ふたりは自然に手をつなぎ合い、肩を並べて座った。

卒業式は厳かに進んでいく。

代表の答辞を読むとき、みなみは深く息を吸い込み、自分のすべての痛みと向き合った。

胸に詰まる想いを言葉に乗せて、かすかに震えながらも強く言葉を紡いだ。

「私は、この場所でたくさんのことを学びました。

傷ついた心を抱えながらも、人は誰かとつながり、支え合って生きていけるのだと。

これからも、自分を信じ、誰かの支えになれる人でありたいと思います」

会場は静まり返り、そして大きな拍手が湧き上がった。

式が終わり、みなみは仁と一緒に校庭を歩いた。

「ずっと、ありがとう」

「俺もだ。これからも、ずっと一緒だ」

満開の桜の下でふたりは強く手を握り合った。

未来への不安もあったけれど、きっと大丈夫だと信じられた。

その夜、みなみは母に「卒業しました。ありがとう」とメッセージを送った。

返事はすぐにはなかったけれど、みなみの胸は温かかった。

過去は変えられない。けれど、未来は自分で切り開ける。

そう信じて、みなみは新しい一歩を踏み出した。

私を救ってくれたあなたへ

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