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『この距離、ズルい』
「……ほんとに、2人きりになっちゃったね」
静かな部屋。
ドアが閉まる音と同時に、風磨が振り向いてそう言った。
「みんな、すぐ帰っちゃったね。ちょっと寂しいかも」
「……嘘。嬉しそうに見えるけど?」
そう返すと、風磨はニヤッと笑った。
「バレた? まぁ……2人になれるの、狙ってたし」
「えっ、なにそれ……」
一歩近づいてきた風磨に、思わず後ずさる。
「そんなに離れなくていいじゃん。何もしないよ」
「……“は”、でしょ?」
「お、鋭い。もしかして、期待してた?」
「してないし……!」
「嘘つけって」
距離を詰められて、背中がソファに当たる。
逃げ道がなくなった瞬間、風磨の手が私の頬に添えられた。
「……顔、赤いよ。わかりやす」
「ちょ、近いって……」
「近いの、嫌?」
「……別に、嫌じゃないけど」
「じゃあ……」
そのまま、軽く唇が触れた。
一瞬のキス。けれど心臓の音は、うるさいくらい響く。
「ふ、可愛い顔してる」
「……からかわないで」
「からかってないよ。むしろ、本気で困ってもらいたいんだけど」
「何それ……」
「ねえ、もっと顔、見せて?」
顎をそっと持ち上げられて、再び唇が重なる。
今度は少しだけ長くて、ちょっとだけ、深くて。
離れたあと、風磨はわざとらしくため息をついた。
「やば……キス、止まんなくなりそう」
「……ばか」
「俺、そんな簡単に止める気ないよ?」
挑発するように見つめてきて――
その視線に、また心が掴まれる。