テラーノベル
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アルベルト様は額に手を当てて、嘘だろうとかなんかブツブツ言い始めた。
「……食事を与えるのは、仲良くしたいと言う意思表示だ。そして名付けしたら契約になる」
(餌付けも……?)
そもそも普通の子犬だと思っていたのだ。あのままだと死んでしまうと思っての行動だったので、そこに後悔はない。そう反論しようとしたけれど睨まれたので黙った。絶対に言ったら怒られる。
「あ。名付けしたのは、この屋敷に入れないから致し方なく……」
「セキュリティ的に襲撃を避けるためにも、大事なことなんだ。ごめんね、シルヴィア」
「ベルナール様は悪くないですわ。でも次からは色々教えてくれると嬉しいです。怪我した子とか拾ったときの対処を考えないといけないですから」
「うん。僕としては……あんまり数を増やしすぎるのは……寂しいかな」
「ハッ!」
しょんぼりするベルナール様を見て、よしよしと頭を撫でた。最近ベルナール様は引っ付くのが大好きらしく、スキンシップも増えてきている。
「そうですよね。私だけの家でないですし、一緒に住む【家族】から同意や理解は必要です。ごめんなさい。今後は屋敷に連れてくる前に、ベルナール様に相談するかたちで良いですか?」
「うん。今はそれでいいよ」
「野良が居るなら、教会に連絡を入れれば面倒を見る。お前が孤児院のような事をしなくても良いんだ」
(孤児院……そんなつもりはなかったけど、彼目線だとそう思われるってことか)
アルベルト様は不機嫌なままだったが、代案を提案してくれた。怒りながらなんだかんだ、私の意思を尊重してくれるのは有り難い。
「ありがとうございます、アルベルト様。あ、アフォガード食べていきます?」
「お前っ、それを出せば俺の機嫌が治ると思っているだろ」
途端に不機嫌になるアルベルト様に私は困惑する。普段ならなんだかんだで喜ぶのに、今日は睨まれてしまう。
「……わかりました。今日はアイス二段重ねしましょう」
「違うわ。誰がそんなので喜ぶんだ」
「二段重ね……」
「アイスアイス」
「ここに若干二名ほど」
「あー、そうだな。だが俺がほしいのはそうじゃない。もっとあるだろう」
「???」
私が小首を傾げると、ハナちゃん、クロちゃん、ベルナール様も真似して小首を傾げる。可愛い。
「スキンシップだよ! お前らだけ枠が【友人】の癖にずるいだろうが! 【盟友】ならもっと……こう、スキンシップがあっても良いだろう!」
「【盟友】なら拳を突き出して……それとも握手?」
「ハグだ」
「???」
そう言えば前世で宇宙猫という画像があったが、今の私はきっとそんな顔をしているのだろう。この人、こんな風に露骨にスキンシップをアピールする人だっただろうか。こうもっと斜に構えるという感じだったような気がする。
「ハグぐらいするだろう」
「(二度言った!?)……ええっと、それは【家族】とか【伴侶】では??」
なぜハグに拘るのかよくわからない。アルベルト様──ラフェドが人の感情を味わうためにスキンシップを求めている、というのは分かるが釈然としない。
アルベルト様と私がハグをするような関係ではないのだ。そう思っていると、ここで私を援護する声が入る。
「ハグや撫でてほしいのなら、そういう姿になるべき」
「ソウダソウダ」
「ワフ」
「ぐっ」
そこで人外の彼らの容姿を見て納得する。確かに人型よりも獣の姿のほうがスキンシップしやすい。それは【婚約者】や【伴侶】という恋愛要素のないものだから、すんなり受け入れられた部分はある。
「確かに。みんな撫でやすいし、抱っこしやすい姿ですからね。ハナちゃんは最初はすごく大きなクラゲみたいな感じでしたし、クロちゃんは死のオーラを出して接触を拒んでましたし……ベルナール様も巨体でしたけど、今は手を繋いだりハグできるサイズになりましたわ。ちゃんと人間の私に合わせようと歩み寄っているのに、一人だけ何もせずに同じことを望むのはワガママですよ」
「ぐ……」
(これで人の姿でハグをする際の難易度が伝わったかしら?)
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#長編
アルベルト様はスクッと立ち上がって、屋敷を出て行った。そもそもアルベルト様は私の講師を務めているので、立場状スキンシップとかダメな気がする。何よりそういった接触は【恋人】や【愛人】あるいは【婚約者】、【伴侶】の役割だと思う。
ベルナール様、クロちゃん、ハナちゃんが求めているのはスキンシップであり、仲良くしたい触れてほしいという前提なので、それに相応しい姿をとっている。
アルベルト様が同じのを求めるのなら、モフモフになるしかない。私と彼との関係は過去の縁のよる【盟友】であって、上司と部下。それ以上でも以下でもないのだから。
(昔のような関係になろうとは思っていないし、今は新しい生活に慣れることが一番だもの)
ドドドドドッと、何やら玄関先が物々しい。
バーンと部屋に入ってきたのは、子羊だった。しかも毛が薄紫色だ。角は黒くて捻じ曲がり具合前世で見たことがある形になっている。
「めえええええ!!」
「これで文句ないだろう!」と言わんばかりのキレっぷりはどう考えてもアルベルト様だ。
(えええええええ!?)
「ラフェドが折れた」
「メズラシイ」
「くふ」
(ヤケクソ感が半端ない。そこまでしてスキンシップしたの??)
「めえ!!」
前足を蹴って突貫してきそうな勢いだ。
「アルベルト様──んー……あーちゃんはハグの前に、まず足を綺麗にしてからです」
「めえ!?」
あーちゃん呼びに衝撃を受けたのか、目をまん丸にしてちょっと震えている。
素早く蹄をタオルで拭いてから、ご所望のハグをした。ふわふわでモコモコ。
「めえぇ」
ぐりぐりと私のお腹に頭を擦り付けてくる。角はが当たらないように気をつけているのがまた可愛い。あのアルベルト様とは思えないほど、甘え上手だ。
(そういえばラフ絵は私が夜が怖いって言った日は、大きな羊になって添い寝してくれたっけ……)
前世での何気ない日常の記憶が、今更ふわりと浮上する。
温かくで触り心地が最高に良い。ギュッてしただけで安心して泣きそうになるのは、どうしてだろう。
やっと欠けていた何かがピッタリと収まるような、優しくて温かい気持ち。
前世でラフェドにギュッとされていた時と同じ安心感がある。でもアルベルト様の姿だった時はなかった。
(悔しいけど……あったかい)
ずっと求めていた存在。片翼が戻ってきたような感覚に嬉しさと心が満ちていくのが感じられた。恋人のような関係に戻るつもりはないと決めていたのに、考えが覆ってしまう。
(どうして私のことを忘れてしまったのだろう。どうして目の前のこの人は、前世で出会ったラフェドとは違うの?)
そう心の中で吐露しても、誰も答えてはくれなかった。
そう、この時は──。
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