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「シーニャ! 右奥だ! 右奥のコウモリを狙え」
「ウニャ!!」
「いいぞ! おれはこっちのピスキス《魚》にとどめを刺す!」
「ウー! シーニャ、負けないのだ!!」
山の麓のダンジョンに入った。おれとフィーサは主に足下の敵を、虎娘のシーニャは機敏な動きで暗闇に紛れたコウモリだけに狙いを定めている。魔物の名前はスキャンスキルを覚えたことで見えるようになった。とはいえ、魔物の強さに応じて見えるというだけで全て分かるわけじゃなかった。
宝剣フィーサブロスは重さを全く感じなくなり、軽々と敵を狩ることが出来ている。おかげでおれは、見事に特化スキルを得られた。
「ウニャ! アックが出してくれたシーニャ装束が動きやすいのだ!」
洞窟の中に入ってすぐのこと。おれたちを手荒く出迎えてくれたのは、天井からのコウモリ、足下に流れる地下水路の魚。これら魔物と少し戦っただけでシーニャの衣服である布がすぐに破れた。彼女は人間と違い肌の露出はそんなに多くはなかったのだが、仮にも眷属獣となった以上みすぼらしい格好で戦わせるわけにはいかない。
そう思い、おれはすぐに魔石ガチャを引いた。
出会った時こそ薄い生地の布だけを身に着けていただけの獣だったが、女の子であることに変わりないということで、急いでガチャをしたというのが本音だ。
「シーニャ、このままだとすぐにボロボロになってしまうのだ……」
「……うん? もしかしてその生地のこと?」
「ウニャ……森の中だけなら不自由なことなんて無かったのだ。今から行くところ、暗い、狭い。遭ったことない魔物なのだ。このままじゃまずいのだ」
「そうか。さすがにまずいよな」
どれほどのものがガチャで出せるのか。
そう思っていたが――
【SSSレア シーニャセパレーツ Lv.100】
【SSSレア シーニャガントレット Lv.100】
【SSSレア シーニャロインクロス Lv50】
【SSSレア シーニャゲートル Lv.50】
「へええ、シーニャ専用の装束ってやつか」
「ウニャッ!? た、たくさん出て来たのだ!? 全部着ていいのだ?」
予想以上の物が出まくったことで、おれ以上にシーニャの方が驚きを隠せなかった。出て来た物は全てシーニャにしか着れない装備。それも、全てシーニャと名がつく装束一式だ。
これ以後、シーニャの全身は何とも派手な虎色の仕上がりとなる。シーニャの動きと防御は格段に上がり、コウモリからの奇襲にも臆さなくなった。
「――つっ!?」
「ウニャッ!? どうかしたのだ? アック、痛そうなのだ」
「いや、でかい石ころが見えなくてむこうずねに当たっただけだよ」
「フニャ……アックが心配、心配なのだ」
シーニャ装束を出してあげてから彼女はおれを物凄く気にするようになった。人間であるおれに、服をもらったという気持ちがあるからだろう。
仲間になる前はおれのことを弱いから守るとか言ってただけに、急に申し訳なく思ってると言った感じか。
「ありがとう、シーニャ。こんなのはしばらくすれば気にならなくなるから――って……な、何だ!?」
単なるおれの前方不注意による小ダメージに対し、シーニャはおれを過剰に心配し、耳や尻尾がヘナヘナと垂れかなり落ち込んでいた。
「シーニャ、アックを守るって決めたのだ。何とかするのだ! ウーウウウー!」
ところが次の瞬間。彼女の全身は眩《まばゆ》い輝きに包まれていた。
「むむ? フィーサ、何が起こっているのか分かるかい?」
「……え~? イスティさまへの想いで開花したかもなの」
「開花? それってスキルが……?」
「わらわも何が何だか分からないの」
長いこと生きている――というと怒るフィーサでもこの現象が分からないらしい。全身が光っているというだけで危険は無さそうだが。
「シーニャ? 大丈夫か?」
光に包まれていたシーニャだったが、音も無く光が収まっていた。彼女自身は自分の両手を何度も交互に見て、嬉しそう。
「ウニャ! シーニャ、アック守れる、守れるのだ!!」
シーニャはおれが痛みを感じるところに手をかざす。
すると、
「……い、痛みが引いた!?」
「シーニャ、回復魔法使える、使えるのだ!」
「回復魔法!? ということは、今のはヒールなのか。まさか心配し過ぎて開花した……?」
ルティも一応回復魔道士を名乗っていたがほとんどドリンクによる効果だった。しかしこれは明らかに違う。もしこれが回復魔法による瞬時回復効果だとしたら本物すぎる。今のところダメージは、あくまでおれの不注意によるものだけ。
その意味でも、シーニャのステータスを見ることで今後の戦い方が変わってくる。そうなると敵との戦いで彼女自身も成長するのだろうか?
「フニャ? アック、どうしたのだ? どうするのだ?」
「……進むか」
「アック、守るのだ! ウニャッ」
おれも色々覚えてスキルアップしていかないとだな。