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「はひ~……スキュラさん~まだ着かないです~?」
「もうすぐ着きますわ。あなた力はあるのに、意外に体力がありませんのね」
「違いますよぉ……お腹が空きすぎて動けないだけです~……」
ルティ、スキュラは途中でしつこい騎士たちと戦うも、あっさり撃退。
「全く呆れますわね。アックさまといる時はそんなそぶりを見せなかったというのに、甘えが過ぎますわ」
「アック様といる時は気合が入って、お腹が空かなくなるんですよ~」
「……シャキッとして頂かないと、小さな町でも恥ずかしい思いをすることになりますわよ?」
「はひぃ~」
一本道をひたすら歩くだけの時間が長く続き、二人はようやく町に到着する。アグエスタの支配から外れている町の名はルタット。そこでアックたちと再会することになっている。
「おぉぉ~!! スキュラさんっ! 町ですよ、町に着きましたよ!!」
「ルティ。あなた、さっきまでお腹を空かせて動けないんでは無かったかしら?」
「町に着いたらそんなの忘れちゃいましたよ~!」
「アックさまのご苦労が浮かぶ娘ですわね……」
この娘がここまで面倒だとは思わなかったわ。このままずっとこの調子かと思ったら、とてもじゃないけれど気の休まる時間なんて。
「スキュラさんっ! あのあのっ――」
あら、この娘もしかして。
「大して広くはない町ですわ。ご自由になさっては?」
「はいっっ! ではでは」
ルタットに入ったところでルティの興奮状態がおさまらないことにみかね、あたしはルティを自由にさせることにした。ルタットは冒険者が寄り道するほどでもない規模の町で、必要最低限の宿と道具屋があるだけ。
その意味でも特に問題は起きないはず――そう思いながら、あたしも辺りをうろつくことに。
さすがにギルドはありませんのね。そうなるとその辺の人間に聞くしか無さそうね……あら? ここは水が流れて。
スキュラはルタットへ来る道中、小さな川が流れていたことに気付いていた。その最たるものである水車小屋があちこちに見えていて、何となく気が休まる思いを感じてしまう。
ふん、何てことはない町ですわね。来る価値も無いと騎士も思っているということかしらね。
それにしても、
いつの間にか注目を集めていたようね。
「どこから来られなすった? 町で見たことのない美人さんじゃな!」
――オラもお話したい~!
――もしや、あのお嬢さんのお知り合いなんだべか?
外を出歩く女性の姿が少ないにもかかわらず、スキュラの周りに集まったのは見事に男ばかり。物珍しさに加え、若い女性が圧倒的に少ないせいもあったようだ。
「しっしっ、あたくしは、見世物ではありませんわ!」
「あんた、宿に泊まっているお嬢さんのお知り合いだべ?」
「宿の? まさかあの子が……そのはずがないだろうけど」
どんな人間か来ているのか、会ってみるのも面白いわね。小さな町で騒がしくなるのを嫌ったスキュラは男たちの案内で宿に向かう。
アグエスタとは比べられない小さな宿で待っていたのは――
「――!? あなたは、あの時の――魔女……?」
「あなたは……?」
「ふん、白々しいですわね! その白いローブが誰の物なのか、あなた自身が一番分かっているのではなくて?」
「――あぁ、彼の……。こんな小さな町に来るとは驚きだね」
目の前にいるのは、紛れもなくアックの前から姿を消した魔女だった。スキュラとは直接的なやり取りが無かったからなのか、いまいち反応が鈍い。男たちが話していたとおり、魔女の見た目はかなり若々しく見える。
その姿に違和感を感じながらも、
「白いローブ、奪った魔石を返してもらいますわ! あなたはバヴァル・リブレイ……だったかしらね。その前に――」
宿に案内して来た男たちがいては思いきり出来ない。そう思い、スキュラは睡眠魔法を放つ。力を持たない男たちは、次々と居眠りを始める。
「……なるほど。神殿を守っていた怪物。水属性の攻撃魔法は相性が悪いね」
「逃がしませんわよ!」
「ヒヒ……魔石に惹かれやすい怪物なら効きやすい……」
「何をごちゃごちゃと!!」
距離を取ろうとするバヴァルに対し、スキュラは自身を守る狼に命じバヴァルを足止めする。町に流れる川の水で大きな水泡を作ってバヴァルに仕向けた。
すると水泡はバヴァルに見事命中し、彼女の動きを封じることに成功。
「移動不可魔法のたぐいかね。ふむ、魔法の強さはそれなり……」
「水がある町に来ていたのはミスだったようですわね! あなたをここで足止めし、アックさまに処置をして頂くことにしますわ。その前に白のローブと魔石をあたくしにお渡しなさい!」
「白のローブはアックがくれたもの。魔石はふむ、あんたに返しておくとしよう」
動きを封じバヴァルに近づいたその時。突然バヴァルから勢いよく魔石を投げつけられた。
「――なっ!?」
一瞬の油断――あたしがそう思った時、魔石からの衝撃とダメージが。もちろん大ダメージではなくあくまで意表を突かれた程度のダメージ。
「ヒヒヒ……これでいい。これで――」
「な、何をされたのか聞いても……?」
何が起きたのか分からないけれど、何かがおかしいわ。
「その魔石に残されていた魂は、私の愛弟子エドラさ。聖女エドラ……勇者にそそのかされた可哀想な娘。アックがくれたローブで魔石の時を戻した。その意味が分かるかい?」
「……意味はともかくあたくしに憑依魔法が通じるとでもお思いかしらね。それで、魔女バヴァル。あなたはどうされるおつもりかしら?」
「白いローブは役目を果たした……私は、レザンスに戻り……ギルドを――」
胸元に魔石が当たっただけなのにこの痛みは一体……。
魔女バヴァルの狙いは、魔石攻撃による憑依魔法のようだった。
「役目でも何でも、ここから逃げられるとでも?」
「いや、あんたは私を逃がすよ……そうだろう? 聖女エドラ」
「――っ!? ガッ……ゥゥッ、こ、この――」
「魔石に反応する水棲怪物スキュラ……魔石が触媒となり、あんたは徐々に失われていく……」
「ガ、フ……ゥゥゥッ……ハァッハァッ、舐められたものね。こんな魔石ごとき、破壊すればいいだけのことだわ!」
何かに精神を奪われようとする寸前、スキュラは手にしていた魔石を破壊しようとする。
しかし、
「聖女エドラ……私はお前の前から消える。怪物の中で精神を育て、力を取り戻しなさい」
「ウウッ――」
バヴァルの声を聞いたスキュラは、一瞬の緩みが生じ移動不可魔法を解いてしまった。
「フフ、それでは私はこれまで。アックによろしく……」
「あぁっ!? な、何てこと!」
硬直状態が、くっ……。こうしている間にもあの女がどんどんと離れて行くわ。
どうすればいいの、どうすれば。
「あれ~? スキュラさーん! ――って、あれ? 白ローブ!!」
いいタイミングだわ。
「ル、ルティ! その女を捕まえれば、アックさまが喜びますわよっ!!」
「そうですよねっ!! すぐに捕まえます~!」
「まだいたのかい……厄介な」
「逃がしませんよ~!」
張り切って魔女バヴァルを捕まえたルティ。
だが、そこにいたのは――
「あれれ~~!? 白のローブだけ!?」
「……いいえ、いるわ」
ルティが捕まえたはずの魔女はローブの下にでは無く、すぐ近くの地面に倒れていた。しかも弱り切った老齢な魔女と化して。
「ごめんなさいです、スキュラさん……」
「――っ! い、いいですわ、仕方がありませんもの」
「スキュラさん~? 大丈夫ですか?」
「え、ええ……」
「お婆さん、眠っているんでしょうかね~」
魔女バヴァルによる何らかの影響でスキュラは表情を曇らせる。
しかし何事もなかったかのように、
「……アックさまを待ちましょう」
「そうですね! 待ちきれないです~」
スキュラの様子に気付かないルティ。そして自身の異変に不安を感じるスキュラは、アックたちを待つことにした。