テラーノベル
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俺、深澤辰哉は今、人生最大の窮地に立たされている。
「ごめん…」
「何に対して?」
「いや…えっと……」
「そういうのいいから。はっきり言って」
「…あー………魔が…差したっていうか…」
「はぁ!?!?なんなのそれ!?!」
有無を言わさぬ声音で詰められるままに答えられることだけを口に出せば、かえって火に油を注ぐ始末に頭を抱える。
こうなってしまえばきっと、目の前の恋人、阿部亮平に俺の声はもう届かない。
ピシ…パキ……、と音を立ててヒビが入り始めているものをなんとか繋ぎ止めようと、苦し紛れに訴える。
「いや!でも!俺には阿部ちゃんだけだって!」
今の状況で焦った声を出したのは、明らかに間違いだった。
取り繕うような言葉を発した瞬間に、これは確実に阿部ちゃんの心象に悪く映っただろうと思い至るも、時既に遅し。
阿部ちゃんは害虫を見るような目で、俺をキッと睨んでいた。
あー、、マジで終わった…。
そんな目で見ないで…消えたくなってくる…。
「マジ許して、言えないけどちゃんと理由あって…」
「言えない時点でアウトでしょ。何?付き合ってるのに言えないって」
「それは…だから…その…」
「はぁ…、もういい。帰る」
「えっ!?」
阿部ちゃんは、ソファーの上に広げていた自身の荷物を乱雑に鞄の中に押し込んでいった。
勢いよくジッ!と鳴るファスナーの音が、心臓に鋭く突き刺さる。
スタスタと一直線に玄関へ向かっていく阿部ちゃんの背中に縋り付くように後を追った。
「今日泊まってくって言ってくれてたじゃん!」
「今は一緒にいたくない。ついてこないで。しばらく顔見たくない。」
その言葉通り、阿部ちゃんは一度も俺を見ることなく靴を履き、鍵のつまみを捻った。
「阿部ちゃんホントにごめん、もうあんな気持ちにさせないから、だから…今回だけ、今回だけは許して……っ、」
お願いだよ。
怒らせちゃったのは、100俺が悪い。
でも、決して阿部ちゃんを悲しませるつもりはなかった。
悪気があったわけじゃないって、そこだけでいいから情状酌量の余地を俺にちょうだい……!!!
だって、俺、阿部ちゃんがそばにいてくれなきゃダメなんだよ。
ずっとずっと一緒にいたせいで、もう分からなくなっちゃってるんだ。
阿部ちゃんが隣にいない景色がどんくらいモノクロだったかを。
二人で分かち合えない温度がどんくらい寒かったかを。
執行猶予付きでもなんでもいいから、今日だけ見逃して……っ!
だってだって、俺、もうとっくに独りじゃ、阿部ちゃんなしじゃ生きていけないんだもん。
つまみに指を添えてからというもの、阿部ちゃんは玄関のドアに額を突き合わせて固まっている。
俺の言葉がやっと届いたのだろうかと、都合の良い期待をしてその背中をじっと見つめていると、阿部ちゃんの肩が僅かに震えていることに気付く。
何かに耐えるようなその仕草に切なくなって伸ばした手は、阿部ちゃんに触れることのないまま空を切った。
「…ふっかなんか、、知らない…っ、」
「待って!阿部ちゃん!!待っ……!」
開け放たれた大きな隙間から、冬の凍てついた風が強く吹いて頬を切り裂いた。
その突風は、俺の苦し紛れの弁明さえも振り払おうとしているように思えた。
無慈悲なその扉は、俺の言葉を待たずにバタンッ!と大きな音を立てて俺と阿部ちゃんを隔てた。
投げつけられた拒絶は今の俺には何よりも重く苦しくて、独りになった瞬間その場に力無くしゃがみ込んだ。
今日までは完璧だと思っていた。
その完璧は、どうやら今日を起点に「思い込み」に変わるようだ。
阿部ちゃんには秘密にするためにとこれまで綿密に練っていた計画だって、気付かれないようにと策を弄したアリバイ工作だって、きっと阿部ちゃんには全て不自然に見えていたんだ。
気付かれてしまったとしても阿部ちゃんならきっと許してくれるって、誰かが俺に囁いた言葉を鵜呑みにした。
さっき言った通り、本当に魔が差したんだ。
「はぁ…、阿部ちゃん頭いいもんなぁ…」
ぼやくようでいて痛切な俺のため息は言い訳がましくて、負け惜しみのようにも聞こえて、なんとも情けない響きを持って玄関マットに染み込んでいった。
阿部ちゃんを騙そうなんて、欺こうなんて、きっと俺には百年かかってもできやしなかったんだろう。
小手先でこねくり回したような見せかけの「手品」じゃきっと、阿部ちゃんには通用しない。
突き放すようなあの目が忘れられない。
絶対に受け入れないと主張するようなあの声が耳から離れない。
阿部ちゃんは俺にどれだけの罪を問うだろうか。
むしろ、問うてくれるだろうか。
この先ずっと、言葉はおろか視線すら交わしてくれなかったらどうしよう。
別れ間際の最終弁論に自然と含まれた涙声に、阿部ちゃんは気付いてくれただろうか。
本気なんだよ、これだけは嘘じゃないんだよって、そんな気持ちを少しでいいから認めてほしかったけれど、多分それは叶わなかっただろう。
阿部ちゃんが言った「知らない」という言葉に、全て詰まっていたじゃないか。
はっきりと言われたわけじゃない。
でもきっと、阿部ちゃんは俺に突き付けた。
俺は「有罪」だと。
あれから一週間が経ったが、俺の立場は依然何も変わっていなかった。
何度連絡してみても阿部ちゃんからの返信は無く、トーク画面の右側ばかりが追い縋るような弱々しい言葉たちで埋め尽くされ続けている。
「既読」の薄い文字と送信時刻だけが俺に寄り添ってくれているのが、なんとも物悲しい。
優しさにあふれたマークは、つい三日前から忽然と姿を消した。
こいつだって、所詮は阿部ちゃんの回し者だ。
阿部ちゃんとスマホ越しにでさえ話せない状況下では、こいつだけが俺の味方だった。しかし、それだってきっと、おめでたい思考だったのだろう。
こいつの突然の裏切りに対して恨む気持ちも消え失せたのは、昨日のことだった。
今も変わらずそばにいてくれるのは、俺が弁解と謝罪とを繰り返し繰り返し送った時間を無機質に履歴に残す四桁の数字だけだ。
このまま一生、阿部ちゃんだけの透明人間になってしまったらと思うと怖くなる。
触れてもらえない、声をかけてもらえない、目に映してもらえない。
それはきっと、失恋と同義だ。
「まだ別れてない」
「別れようとは言われてない」
「あの日は顔を見たくないって言われただけ」
精神を保てる言葉ばかり必死に探しては、頭の中に敷き詰めた。
事態は日々最悪の一途を辿っている。
引き攣ったポジティブな期待が、希望が、これから確実性を持って覚束ないものに変わっていくかもしれない様が、嫌でも脳裏を掠める。
それはマジでやだ。
それだけはホントにやだ!!!
阿部ちゃんにフラれるくらいならいっそのこと、そのショックすら霞むくらいの絶望の淵まで、俺を突き落としてよ…。
阿部ちゃんの手でなら、方法なんてなんだって構わないから…!!
「阿部ちゃんお願い、返事しなくてもいいから見て…。今日まで送ってきたのが俺の本心だよ。会いたい。寂しい。阿部ちゃんが俺の全てだから。」
考えに考え抜き、添削しまくって磨き上げた短いラブレターを紙飛行機にして飛ばせば、また右側が傾いた。
いつかに出かけた先で撮ったツーショットが、吹き出しの後ろで輝かしい笑顔を讃えてこちらを自慢げに見つめる。
うるせーーッ!!バーーーーーカッ!!!!
このマヌケが!!
こんなことになってるとも知らない能天気野郎め。
幸せそうに阿部ちゃんと自撮りしやがって…!!
過去の自分がとんでもなく羨ましかった。
羨ましすぎて悔しくて、いつかの緩み切った自分の目尻に、心の中で悪態を吐きまくった。
あの頃に戻りたい。
そう思っては、偏りすぎてバランスを保てずにいる吹き出しをいつまでも眺めていた。
どのくらいそうしていただろう。
ぼんやりと見つめていたメッセージに、突然「既読」君が寄り添ってくれた。
「ぉ“ァア“ッ!??!」
雄叫びなのか、断末魔なのか、歓声なのか、なんだかよくわからない野太い声が喉を突き破る。
返事は来るかと何度目かの淡い期待を胸に、固唾を飲んで吹き出しが繰り上がってくるのを待ち構えていると、突如二つの四角形が左側に浮上した。
一週間ぶりの応答は、一枚の写真とたったの一言だけだった。
それは少し離れた場所に並び立つマスクをつけた二人の男性の姿を映していた。恐る恐る画面をタップして拡大する。
そこに写っている一人は、紛れもなく俺だった。
その隣に立っているのは、メンバーの目黒だ。
あぁ…あの時か……。と数週間前の記憶を掘り起こしては「やった…終わった…」と全てを諦め、ただただ絶望する。これ以上自分の傷を抉るのはやめにしようと画像を下に引っ張れば、トーク画面に戻った瞬間、その下に続いた阿部ちゃんからのメッセージに容赦なくはっ倒される。
「あなたの「全て」は全部でいくつあるの?」
「いっこしかないよぉ…」と嘆きながらスマホに額を擦り付ける。
そう返したところで、届かないであろうことはわかっていたし、むしろ逆上させてしまいそうな予感もしたので、送らずにおいた。
それに、ぐうの音も出なかったのだ。
「論より証拠」とはまさにこのことを言うんだろう。
どんなに弁解しても、どれだけ機嫌を伺うように愛を文字に乗せてみたって、確固たる事実がある以上、もう何も言い逃れはできないのだ。
俺がめめと出かけたことは本当のことだし、ここ最近の俺の様子を訝しんでいたであろう阿部ちゃんがこの写真を見て勘繰るのも不思議はない。
なぜ今、こんな底無しの沼にハマっているのかという、そもそもの原因がある。
一週間前、つまりは阿部ちゃんが突然帰ってしまった日、あの時に阿部ちゃんからの何気ない質問に何も答えられなかったことが、全ての始まりだったのだ。
優しい阿部ちゃんは、俺を気遣って聞いてくれた。
「最近なんだか様子変だよ?疲れてる?」と。
特になにも疲れてはいないし、変わったことも無かったので「そう?んなことないよ」とだけ答えた。
そこで気付くべきだった。
この問いは、真正面から受け取るべきものではない部類に入る質問であったことに。
その後に続いた阿部ちゃんからの問いかけで、ようやく焦り始めた。
「俺になんか隠してる?」
「えッ、、ぃ、いや…?なんも隠してないけど…?」
「嘘。目が泳いでる。ねぇ、もうなんとなく気付いてんだけど?俺から言う前に全部言って」
「ぁ…ぃや。。。ほんとに……なんにも…」
和らぐことのない阿部ちゃんからの猜疑の目に大いにたじろぎ、全ての言葉選びを間違え、そして今に至る。
阿部ちゃんが抱く俺への疑惑は、半分正しくて、半分間違っている。
その誤っているところだけでも誤解のないように事細かく説明しようものなら、もう半分の正しい部分まで伝えざるを得なくなってしまうので、何も言えなかったのだ。
俺は阿部ちゃんが疑う通り、隠し事をしている。
だが、決して阿部ちゃんが思うようなことはしていない。
それだけでも伝えようとしたが、俺の言い方のせいなのか、生来纏っている変えようのない雰囲気のせいなのか、俺の言葉はとんでもなく不埒な奴の言い分にしか聞こえず、逆に阿部ちゃんの神経が逆撫でられただけだった。
もう名前さえ呼んでくれなくなってしまったのか…と恐ろしいほど寒くなって凍えそうだった。
もう何も取り繕わない方が良い気がして、力無くキーボードをタップしていった。
「来週、阿部ちゃんの家行く。会って話そう。」
最後の吹き出しに、「既読」君が寄り添ってくれることは無かった。
きっと、俺のこの性格が様々な良くない状況を引き起こしているのだろうと思う。
飄々としていて、楽観的で、能天気で、なんというか軽いのだ。
自分でもそう思うことは多々ある。
自分なりに追求して後々身につけた「人当たりの良さ」なのか、元々持っていたものなのか、それはよく分からないが、これのせいで、今確実に阿部ちゃんからの信用を失ってしまっている。
そして、詰めの甘さが引き起こしたたった一度の過ちを阿部ちゃんに見抜かれてしまったことで、このまま一生、阿部ちゃん自体を失ってしまうかもしれない。
もうやめよう。
軽く取られてしまうような振る舞いも、いつまでも隠し続けようとする意固地も。
口先だけの言葉なんかじゃ、のらりくらりとかわすような態度なんかじゃ、きっといつまで経っても許されはしないんだから。
幸いにも、もうすぐそこまで時間は迫ってきている。
来週までの辛抱だと気持ちを強く持って、枕に頭を埋めた。
その海に思い切りよく飛び込んだ時に舞い上がる緑茶の香りが悲しいほど懐かしくて、虚しさか切なさか、そんな寂しいもので染まり切った何かがぐっと詰まって、俺の鼻をずびっと鳴らさせた。
あっという間にまた一週間が経ち、今、阿部ちゃんの家にいる。
阿部ちゃんは渋々といった様子で俺を招き入れてくれた。
合鍵はもらっているが、今日はそれを使わない方が良いだろうと思いインターフォンを押した。
あんなに人差し指が震えたのは、後にも先にも今日が最後だろう。
いや、絶対最後にしてみせる。そう強く意気込んで、ゆっくりと開かれていったドアを潜った。
少しの距離感を持って二人でソファーに座ると、 重くのしかかるような沈黙が自然と生まれる。
それを打ち壊すように、すぐさまストレートに伝えた。
「阿部ちゃんだけが好きだよ」と。
視界の端に映ったその横顔が下に傾く。
どんな顔をさせてしまっているだろうかと怖くて、阿部ちゃんの方を向けない。
のたうち回りたくなるような恐怖心と怯えとを堪えるので手一杯だと感じていた一瞬間の後、俺のものではない湿った声が右隣から聞こえてきた。
「…っ、なんで…っ、ぐす…なんでよ…ッ…!」
驚きのままに首を回せば、その頬に伝う雫に思わず目を見開いた。
驚愕、衝撃、動揺、罪悪感、愛おしさ。
そんなものが全部一緒くたになって、この心に激しい渦を巻き起こす。
阿部ちゃんが泣いている。
それだけのことが、俺にとっては一大事だった。
普段あまり泣かない阿部ちゃんが泣いたのだ。
強気でたまに辛辣で、そんな子が。
俺のせいで泣いているのだ。
どうしてあげたら良いのかなんて分からないまま引き寄せた。
阿部ちゃんの中にある大きくて荒れた気持ちが少しでもおさまるようにと、強く強く抱きしめた。
「ごめん、ホントごめん。傷付けて」
「もうやだぁ…っ、っひ、ッく…ぅ“ぅ“う〜ッ!」
どこが完璧な計画だよ。
全然上手くいってないじゃん。
目的ばっかに目が行ってて、肝心なこと、なんにも考えられてなかった。
何よりも大事にしなきゃいけないのは、目の前にいる阿部ちゃんだろうがよ。
最低だよ、マジで。
「許してなんてもう言わない。全部ぶつけて。なんでも言って」
「わかんないよ、言いたいことなんか、っ…、ふっかのせいでわかんなくなっちゃったッ…!」
「うん、ごめんね、ごめんね」
「謝んないで!俺だって酷いことしたのに、ん、ぐす…っ、謝れなくなる…ッ!」
「阿部ちゃんなんも悪くないでしょ?だからこれで良いのよ」
「やだ!!」
「やだって…もー、頑固なんだから」
「…俺も無視したぁ…っ…!ッ、何回も連絡くれてたのにっ…!」
「そんなん気にしてないよ、…つったら嘘になるけど、そんぐらいのことしちゃったんだから、謝んないで」
棚に上げるつもりは毛頭ないが、きっと、俺も阿部ちゃんもこの二週間ずっと、同じ分だけ悲しんで、苦しんで、同じくらいお互いを愛した。
俺が阿部ちゃんを愛して、阿部ちゃんが俺を愛して。
阿部ちゃんが俺に愛されて、俺が阿部ちゃんに愛されて。
愛することは許すこと、なんてどこかで聞いたようなことがあるような気がするけど、多分、裁くことだってその中に入ってるんじゃないかって思う。
俺の罪は、阿部ちゃんにしか裁けない。
反対に、阿部ちゃんが犯した可愛い意地っ張りだって、俺にしか裁けない。
俺たちはきっと、ずっとこうやって二人で過ごしていく運命なんじゃない?なんて思う。
これから最後の審判が下される。
もう全部受け入れる気でいるよ。
俺は間違いなく有罪判決。
阿部ちゃんは俺に、どのくらいの罪を問うのかな。
優しい阿部ちゃんのことだから、俺は判決を言い渡された瞬間、その軽さに拍子抜けしてしまうだろう。
だって、終身刑で償う覚悟でいるんだもん。
ずっと守る。
もう二度と泣かせたりしない。
死ぬまで阿部ちゃんだけのそばにいるよ。
だからなんでも言って?
どんな罪状も、求刑も、全部受け止めるから。
何度も阿部ちゃんの背中を摩っていると、少しずつその呼吸が大人しくなっていく。
肩口が湿る感覚さえ愛おしくて、もう片方の手で頭も撫でていると阿部ちゃんが胸をぽんぽんと優しく叩いた。
「ふっか、ごめんね…」
「良いっての。もう泣かないで?」
「うん…でもやっぱり申し訳なくて…」
「気にしすぎ。俺が言えることじゃないけど、お互いいっぱい謝ったんだから、これでおあいこにしよ?」
「……」
「んぉ?阿部ちゃん?」
なんとなく穏やかな空気が流れ始め、いよいよこの長かった裁判に終わりが見えてきたような気がして、安堵の念が湧き起こる。
阿部ちゃんから完全にお許しをもらえるまでは大人しくしていようと、投げかけた提案への返事を待つが、当の本人はまただんまりになってしまった。
これはタイミングを見誤っただろうか。
閉廷の兆しが見えたように思えたが、もしかすると阿部ちゃんの「控訴」で再審になるかもしれなくて、自然とハラハラしてしまう。
不意に胸元からクスッと笑う小さな声が聞こえたかと思うと、 阿部ちゃんは顔を上げた。
「引っかかった」
「…へ……?」
「ふっかが浮気するわけないって最初からちゃんとわかってたよ。それでもたまには、ふっかから「好き」って言って欲しくて試しちゃった」
「…ぁ…ぇ………ぇ……?」
「んふふっ、ばぁーか」
見せつけるように小さく出されたその舌が、全て思い通りになったと満足げに弧を描くその赤く熟れた上目遣いが、たまらなく憎たらしくて、たまらなく愛おしくて、怒涛のように込み上げてくる激しい衝動のままに、阿部ちゃんの唇を思い切り塞いだ。
くっそ…!やられた……!小悪魔め…!!!!
そんな文句を少しくらいは言ってやりたかったが、小さく漏れる甘い吐息に絆されれば、もう全部がどうでも良くなってくる。
触れ合えなかった分の寂しさを埋めたくて、二人で溶け合いたくなって、急ぎ足で寝室に向かった。その最中、心の中で阿部ちゃんにこっそりと告げた。
阿部ちゃんも有罪。
絶対終身刑、ずっと俺のそばにいて。
お借りした楽曲
恋愛裁判 / 40mP 様
おまけ 天然人タラシと頑固姫のピロートーク
「そういえば、なんで「好き」って言わせたかったの?」
「ふっか直接言わないから」
「ん?え?」
「気付いてなかったの?「俺の全て〜」とか「阿部ちゃんしかいない〜」とか、なんていうの?いつも遠回しな言い方ばっかだから、たまには聞いてみたいなーって」
「…それ俺の真似?そんな語尾伸びてる?さりげなくバカにしてない?」
「うん、してる」
「してんのかよ…。…あー、でもそういうことか…だから軽い感じすんのか…」
「ん?なに?」
「あ、いや、こっちの話。学んだわ。」
「そう。よくわかんないけど良かったね、勉強できて。あ、そうだ。俺も聞きたかったんだ。結局何を隠してたの?」
「あ、、そうだった。仲直りとか諸々ありすぎて抜けてた。ちょっと待ってね、……ぉいしょ、 これ渡したかった」
「?なにこれ」
「んー、まぁ開けてみてよ。」
「………ぇ…ぅそ………」
「たまにはめっちゃ気合い入れよーと思ってさ。大事な彼女との記念日、今日だったから」
「いつサイズ測ってたの!?」
「あー?んなの寝てる間に」
「いつ買いに行ってたの?!」
「あの写真の日にめめに選ぶの手伝ってもらってた。あいつセンス良いじゃん…?」
「…ぁ、、ぅ……ぉみず飲んでくるッ…!!」
「………えぇー……?」
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「阿部ちゃーん?気に入んなかった?一緒に選びに行った方が良かった?」
「っ!来ないでよぉ…、ぐすっ…」
「なに、まぁた泣いてんの?どうしたどうした、おいで?」
「やだ!!」
「普通に傷付いたんだが?」
「嬉しいだけだからあっち行ってよ!」
「いや、喜んでるとこ見たいんだけど?なんで見せてくんないのよ」
「泣いてるとこ見られたくない」
「どういう意地の張り方よ。 ……ん?ちょい待って?てことは、さっきのもホントはガチのやつだった…?」
「…」
「ちゃんと泣いてたけど俺にバレたくなくて嘘泣きのフリした…?」
「…」
「「好き」って言われて嬉しくなっちゃってた?」
「…」
「実は結構ガチめに浮気疑ってた…?」
「……………………………………知らない。」
「なが。冬終わるかと思ったわ。」
「覚えてない。そんなことしてない。幻覚でも見てたんじゃない?」
「はいはい、わーったよ。俺の幻覚ね。ねー、そろそろこっち向いてくんない?“嵌めさせて”欲しいんだけど」
「なんでふっかが言うと下品に聞こえるんだろう」
「ひっぱたくよ?」
「暴力反対です。」
「しません。するわけないじゃん。こんな可愛い姫に。」
「うわぁ…」
「全力で引くな?ほら手ぇ貸して?」
「……………ん。」
「ほんっと強情なお姫様だこと…」
「うるさい。」
「んまぁ、そゆとこも好きなんだけどね」
「んなっ…!?」
「言って欲しんでしょ?何回でも言ったげるよ」
「いい。いらない。」
「あれま、気まぐれなんだから。うん、良かった。ちゃんとサイズ合ってて」
「……ありがと…」
「いえいえ、いつも一緒にいてくれてありがとね、大好きだよ」
「もう寝るっ…!!」
「ねぇ阿部ちゃーん。その真っ赤な耳には触れた方がいいのー?なんかコメント残しといた方がいいー?」
「やかましい!ついてこないで!帰れ!」
「酷くない?もうタクシー無いし、朝まで一緒にいようよー」
「自分で運転して帰れ!」
「いや、免許持ってないんで」
「だったら今から取ってこい!!!!!!」
「深夜過ぎるだろ。……ふはっ、なにあれ、ちょー可愛いんだけど」
おまけのおまけ 証人喚問:目黒蓮の証言
「被告と外出をしたことを認めますか?」
「はい。一ヶ月くらい前っすかね、ふっかさんから誘われて、二人で指輪屋さんに行きましたよ」
「被告とはその時どんな話をしましたか?」
「んー、ずっと阿部ちゃんがこんなことしてて可愛いとか、阿部ちゃんとどっかに出かけた時にあんなことして楽しかったとか、そんな話ばっか聞いてました。ただの惚気っすね」
「その時の被告はどんな様子でしたか?」
「すげぇ幸せそうだなって思いました。こっちが羨ましくなるくらい」
「あなたはそれを見て、被告の犯行に加担しようと思いましたか?」
「はい?それどういう意味すか?俺がふっかさんと浮気しようとしたかってこと?それは無いっすね。割って入ろうとか思ったことないし、ふっかさん見てたらそんな気起こすことすら浮かばないっすよ」
「なぜそう思いますか?」
「ふっかさんって、あー見えて実はめっちゃ純愛っすよ?基本ふざけてるんで周りの人からは勘違いされてんのかもですけど。だから誰も入る隙ないし、純粋に見守ってたいって、それしか思わないっす」
「質問を終わります」
「うす」
「…ねぇ阿部ちゃん。なんで裁判風なの?普通に聞いてくれてもちゃんと全部答えたのに」
「……なんか…聞きづらくて…」
「似合ってるよ。結局ふっかさんお揃いにしたんだね。最後まで悩んでたよ、「ペアってダサい?いい?大丈夫?」って」
「…ん。いろいろありがとね」
「いえいえ。顔赤いのは触れない方がいい?」
「…お願い」
これにて閉廷。
コメント
8件
ねぇーーー最高なんですけどー!?!? しんじゃうよ!?!?🤦🏻♀️💜💚 あうそですもう召されてます😇 どいつもこいつも可愛すぎんのよ!腹立っちゃう!!笑笑笑笑
控えめに言って最高です!!ご馳走様でした😋(?)

いゃもぅ、かわいい😍