放課後、空き教室。
その青さに不相応なほど赤い__水溜まりだった。
少女が一人、茫然と突っ立っていた。
彼女はひどく青ざめた表情で、包丁を掴んだ手を震わせている。
頬には涙を滴らせ、自分の行ったものをまだ完全には処理しきれていないのだろう。
私はそれをただ眺めていた。
静寂が支配していた部屋に、カランという革命の音が響く。
彼女が持っていたナイフを手から落としたようだ。
そろそろこの沈黙も限界かと思い、私は言った。
「…通報、しよっか。」
「…」
「う、ううん」
彼女は唸るようなか細い声でそう断る。
どうやら、犯罪者は随分と我儘なようだ。
「じゃあ…山、行く?」
遠まわし気味に言うと、彼女はその質問の意図を理解していないようだったが、
しばらくするとようやく分かったのか、こう答える。
「…うん。」
自分の犯した過ちに友人さえ巻き込んでしまうなんて、さながら甘やかされきった子供のようだった。
内心嘲笑うことだってしたくなかったが、今はそれしか追いつかぬのだから仕方がない。仕方がなかったんだ。
「掃除、しよ。」
私は部室のロッカーを開け、使っていない雑巾を探した。
「あった。」
学校では新学期ごとに毎回雑巾が徴収されて、それごとに購入するのも面倒なので、まとめて買った分がここのロッカーにしまってあるのだ。
「ほら、一緒に。」
俯いている彼女に向かって、雑巾を差し出す。
彼女はそれを何も言わずに受け取った。
雑巾7枚ほどが真っ赤に染まり、窓から差す光も赤さを増した頃。
「大方片付いたかな。」
疲れた様子の彼女にそう声を掛ける。
彼女はどこか上の空の様子で紺色のスカートに雑巾から滴る液体をポタポタと垂らしていた。
「はい、雑巾はこれに。」
掃除用ロッカーから持ってきたバケツを差し出す。
彼女は何も言わぬまま、バケツに雑巾を絞った。
「ねえ。」
私は言う。
「ごめんね。」
「…」
「なんで…」
数舜の沈黙が流れた後、ひどく泣きそうな、絞り出したような震えた声で、彼女は半ば呟くように話し始めた。
「なんで無視したの。」
「なんで助けてくれなかったの。」
「なんで簡単に、なんでこいつなんかの肩を持ったの。」
「なんでひどいことをしたの!友達だって親友だって約束したよね!」
「なんで破ったの!大好きだって大切だって何回も言ってくれたじゃん!」
静かな声が、次第に感情に任せて私を責める怒号へと移り変わる。
俯いていた顔を上げて、こちらをきっと睨んだ。
「ねえ、なんで!なんで!」
「トイレに閉じ込められたときもあなたが居た!机にもあれはあなたの字で書かれてた!こいつがあたしを蹴ったときあなたもこいつのそばにいた!でもなにも言わなかった!!」
「…ごめん。」
「なんで謝るんだよ!もっと前にあたしの味方でいてくれてたらこんなこともせずに済んだのに!」
彼女は半狂乱に、苦しそうに叫んでいく。
「あなたのせいなんだ!大っ嫌いだよ!」
「ああ。」
彼女は足元に落ちているナイフに気が付いた。
彼女は、もうどうしたって自らに罪があることは変わらないと気が付いた。
コメント
6件
おめぇ、こんな天才的な文章考えられる脳くれよ。ついでに神絵かける手も🤲
文才ありまくりですげぇ✨風菜ちゃんの世界観に引き込まれちゃう😆小説家なっちゃお?なれるよ!私は風菜ちゃんみたいに文才ないから小説家は風菜ちゃん、頑張って!風菜ちゃん曲作ってるらしいけど私もまだ勉強中だけど曲作ってるからイラスト作曲仲間だね!一緒にイラストレーター兼作曲家目指そう!