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その日の夕方,私たちは近所の古い神社へ向かった。夢に出てきたのと同じ場所ーーそこに、“稲の結界”と呼ばれる、目に見えない魔法の領域があるという。
「な、なぁ莉奈、本気で行くのか?ヤバいやつじゃね?」
「悠斗は怖いなら帰ってもいいよ。でも、私は行く。……今の米問題は、“人間だけのせいじゃない”かもしれないから」
鳥居をくぐった瞬間、時間の流れが変わったような錯覚に陥った。蝉(せみ)の鳴き声も、風の音も消え、一面に黄金の稲が揺れる異世界が広がっていた。
ーーそこに、いた。
「ようこそ、天城莉奈。そして…森山悠斗」
現れたのは、白い和装に身を包んだ青年の姿をした“米の精霊”だった。
「人間界の“米問題”は、経済や政治だけの話ではない」
米の精霊の言葉に、私は固唾(かたず)を飲んだ。
「数年前、この世界と人間界を繋いでいた“稲の門”が、何者かによって封じられた。それにより、稲の精霊たちは力を失い、稲作の循環バランスが崩れ始めた。結果、人間界では米不足・価格上昇・農家の減少が起きた」
「…じゃあ、それって……呪い、なのか?」
「その通りだ、森山悠斗。だが、完全に失われたわけではない。一部の人間ーー“米に強い思いを持つ者”だけが、この結界に入れる。天城莉奈、お前がそうだ」
私はその瞬間、自分の信念が現実を変え始めることを確信した。