『これより!準決勝第二試合を開始します!!』
大会も大詰め。
流石にふざけたアナウンスは鳴りを潜めたが、そんなモノがなくとも観客は大盛り上がりだ。
ちなみに爺さんは惜しくも敗れた。
スピードとパワーが上回る相手に、老獪な技術で接戦へともつれ込ませたが、体力差が勝敗を分けた。
強すぎだろ……
対戦者は、冒険者ランクでいうと恐らくAランク中位の強さがありそうだった。
つまり俺の対戦相手も同レベル帯か。
「ゴリアテと戦えるかと思っていたが…まさか一回戦で負けるとはな」
「ん?ゴリアテ…ああ。あのゴリマッチョさんか。確かに強かったな。知り合いか?」
開始の合図の前に対戦相手がポツリと話しかけてきた。
「ああ。喧嘩仲間だ。奴と俺の戦績は二百三十三勝二百三十四敗四十二引き分けだ。今日で並べるかと思っていたが……更なる強者と戦えるとはな!!
アイツに唆されて参加して正解だった」
唆されるなよっ!!俺は楽して勝ちたいんだ!!
『両者、準備はいいですね?』
実況の言葉に、俺と相手は頷いて応えた。
『では、尋常に!開始っ!!』
戦いの火蓋は切って落とされた。
「ギリギリだったね?」
爺さんに外れた肘を入れてもらっている俺へと、聖奈が声をかけてきた。
ゴリッ
「ぐぅっ!!」
「入ったぞ」
い、いてぇ……
周りに人が居なかったら泣いているぞ?
「はぁはぁ…ギリギリどころかルールが違えば負けていたな」
何せ綺麗に投げられて、関節技まで決められたんだ。
「あの時のセイさんは鬼気迫る形相でした……」
「セイさん…飴食べるです?」
試合を見ていたミランとエリーがドン引きしている。
それくらいには追い詰められていた。
「腕挫十字固だっけ?良くあそこから勝てたよ」
「普通は負けだな。だが、明確なルールが無かったことが幸いした」
俺は関節技を極められながらも、その手で相手の頸動脈を圧迫した。
外れた肘が悲鳴をあげていたが、身体強化の魔力操作で無理矢理動かしたんだ。
「身体強化魔法にあのような使い方があったとはのう…流石セイじゃな」
「俺も知らなかったよ。無我夢中でどうにかしなきゃと思ったら、出来たんだ」
だけど、代償は大きかったな。
まぁ地球の痛み止めを使えるから痛みは取れたけど。
しかし、感覚もない。
「明後日は戦えそう?無理しなくても良いんだよ?」
「大丈夫だ。勝てるかどうかはやってみないとわからんが、戦うことは出来る」
そう…。
聖奈の不安そうな呟きに、返す言葉はなかった。
結果で示そう。
ぼっちで口下手な俺にはそれしか出来ないから。
『皆様お待たせしましたっ!お待たせしすぎたのかもしれませんっ!!いよいよ決勝戦ですっ!!』
舞台の上で、ウォームアップしながら実況の言葉を待っている。
先程まで行われていた三位決定戦で、爺さんは敗れた。
万全の布陣で迎えた今大会だが、表彰されるのは俺一人となっていた。
これは見通しの甘さというよりも、この世界の懐の深さが深かっただけだ。
うん。そう思おう。
『もう多くの言葉は必要ないでしょう!西よりこれまで圧倒的な力で全てを薙ぎ払ってきたのは、ゴーラン選手!決勝でもその力を存分に発揮してくれることでしょう!!
対するは、東よりこれまで様々な工夫を見せて勝ち上がってきたのは、セイ選手!美人な王妃様も急遽応援のため駆けつけて来られました!負けられません!』
さて。相手は総合力で爺さんを上回った相手だ。
殺さずなんて甘い考えは捨てよう。
…そのせいで準決では酷い目にあったからな。
この世界では少し強いだけの普通の人でしかない。
肉弾戦ではな。
『それでは!最終戦!開始ぃっ!!』
いつもより気合いの籠った開始の合図と共に、俺は持てる力の全てを解放した。
『これより優勝者インタビューを行います!』
その言葉に、俺は一歩前へ出る。
「かんぱーいっ!!」
城へ帰ってきた俺達は、優勝記念パーティーを行なっている。
「決勝戦は呆気なかったのです。セイさんが元気なのです」
「おい。エリー。それだと俺がボロボロの方が良いみたいに聞こえるぞ」
「き、気のせいなのですっ!!」
エリーが言うように、決勝は呆気なく幕を閉じた。
対戦相手は力も速さも大会随一。
さらには爺さんと技術勝負が出来るほどの相手。
開始と共にこちらを警戒して、すべての攻撃に対処しようとしてきた。
俺がしたのは単純なこと。
全開の身体強化でステップを踏み、相手の反応より速く移動した。
そして受けざるを得ない位置取りから、遠慮が一切ない回し蹴りを的の大きな胴体へと放った。
ギリギリガードが間に合ったゴーラン選手だったが、体勢が悪く、そのまま踏ん張ることが出来ずタタラを踏み、追い討ちの飛び蹴りを受けて、敢えなく場外負けとなった。
「ゴーラン選手の両腕は折れてたって」
「そうか。殺す気で蹴ったからな。丈夫で助かったよ」
もし、地球人が的だったら、上半身と下半身がなき別れしていたくらいの威力は出せていたと思う。
頑丈過ぎなんだよ……
「セイさんの戦いもですが、セーナさんの布教挨拶も素晴らしかったですね」
「ありがとうっ!ミランちゃん!」
そう。俺の優勝者挨拶は、飛び入り参加した聖奈に奪われていた。
俺が上手く話せるとは思っていなかったから、別に良いけど。
でも、折角勝ったからには一言くらいカッコつけたかったよ……
「爺さんの体調はどうだ?」
「ふぉっふぉっ。この程度、修行に比べたら屁でもないわい」
「やっぱ死なないじゃん……」
かなり相手の攻撃を受けていたが、全て受け流していたようだ。
「でも、セイは凄いなっ!私やビクトール様でも歯が立たなかった相手を、全て撃破したのだから」
「偶々だ。ルールが違えば負けていた試合も多かったよ。それに俺の技術は参加者の中でもかなり低かった。まぁ素手で戦う機会なんてないからいいけどな」
魔法が使えない状況だとしても、剣を使うからな。
あっ。剣だとリリーに分があるか……
あれ?何しても魔力任せな力押ししかないんじゃ…?
「これで出来ることは全部やれたねっ!!旅の間はアーメッド共王国とエンガード王国での布教活動はお休みだけど、信者が増えていくか楽しみでもあるね」
「商会の従業員にも口頭での布教活動をしてもらいますから、少しずつですが増えると思います」
出来ることはやったな。
…正確には、言われたことはやったな。
後は地球とここがどんな反応を示すか。
「来月には行くんだろ?」
「そうだな。気は早いが、頼んだぞ」
確認してきたライルに、今後をお願いしておく。
今のところ貴族達はちゃんと仕事をしているし、それを見張る三人衆も機能している。
商会はライルがいるから問題ないしな。
唯一の懸念は、予想よりも別大陸が遠かったり、何らかのトラブルにより、予定より帰るのが遅れてしまった場合だ。
在庫はかなり余裕を持たせているが、それでも有限。
いつかは尽きる。
まぁ、心配してもキリはない。
その時までに出来ることをしっかりと熟そう。
side〓★▽
『聖達の行動は予想外だったけど…嬉しい誤算だったわ』
そのモノの姿は見えない。
『もうどうしようもなかったから、最後に気まぐれで力を与えたあの時の私を、私自身で褒めたいわね。もう少しであの頃のような力が・・・・』
眩しい太陽の光を一身に受け、それは煌々と暗闇を照らしていた。
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