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大会から丁度一月が経過していた。
地球では聖奈作成の動画が出回っており、それにより信者の数が増えることはあまりないが、減ることもなく安定期を迎えていた。
北東部ではアーメッド共王国を中心に信者の数が爆発的に増え、北西部でも少しずつ増えていっている。
お布施があるわけでも集会があるわけでもないから、確かなことは何もわかっていないけどな。
その点地球は進んでいて助かる。
T◯itterにハッシュタグ『ルナ教』とかで投稿があるから、信仰度は置いておいて、信者の数はある程度推測できている。
「準備はいいか?」
「大丈夫だよ!」「問題ありません」
中央大陸と時差があまりない日本で朝を迎えた俺達は、これからアメリカの別荘へと向かう。
二人の確認が取れたので、俺は言い慣れた詠唱を紡いだ。
『テレポート』
いつものマンションは、もぬけの殻となった。
「しゅっぱーーっつ!!」
幼女聖奈の掛け声に合わせて、エンジンの出力を上げた。
向こうで何があるかわからないから、少し沖へと出てから異世界転移するためだ。
せっかく買った別荘が壊れたら嫌だからな。
「エンジンにも船にも異常ありません」
凝り性なミランが、海軍よろしく敬礼付きで報告してきた。
コイツ、何しても可愛いな……
「了解。5分ほど進み、停泊する」
「了解しました!」バッ
可愛いからこのままにしよう。
「聖くん!聖くん!私も報告だよっ!周りには人っ子一人いませんっ!」バッ
「この大海原に人がいたら、それはもうホラーだ」
聖奈も可愛いが、報告することでもない。
可愛さとは実用性の中にあってこそなのだよ。
俺達がふざけていると時間はあっという間に過ぎ、空に月が姿を現した。
「よし。転移するぞ」
「うん!」「了解しました!」バッ
船を力強く掴んだ俺は、月に祈りを捧げた。
ドボーーンッ
「掴まれっ!落ちるなよ!」
転移の衝撃で船が激しく揺れる。
きゃーきゃーと二人は叫ぶが、それは恐怖からではなくアトラクションに乗ってる時のそれだ。
「船体の確認を!」
「了解!」「了解しました!」
この程度の衝撃で壊れるはずもないが、備えあればってヤツだな。
「ふぅ。問題なかったよ!」「こちらもです!」
「了解。ここからが本当の冒険だ。油断するなよ?」
この位置からはまだ港が見える。
こっちはまだ昼前だからか、港に人がたくさんいて手を振ってくれていた。
「バイバーーイ!!」「行ってきます!」ブンブン
二人は全力で手を振るが、知り合いは恐らくいない。
転移した場所はアーメッド共王国にある港だ。
共王にも今日から別大陸に向かうと伝えたから、恐らく民に報せたのだろう。『ルナ教を布教する為に、未知なる世界へと旅立つ』とかなんとか言ってくれたに違いない。
この世界には存在しないエンジン音を轟かせ、船は問題なく大海原へ向け、進んで行った。
「…暇だね」
出航から6時間。
あまりにも変わり映えしない景色と、予想していたトラブルが一つも起きない為、聖奈が暇を持て余している。
「ミランとゲームしてきたらどうだ?」
「してたよ…でも、ミランちゃんが上手すぎて、面白くないの」
「スポーツもeスポーツも実力が拮抗していないと面白くないよな。まぁもう少しの辛抱だ」
夜になればガソリンの補給と睡眠の為、一度地球へと戻るからな。
「安全なのは良いことなんだけど……ここまで平和だと、何にビビっていたのかわからなくなるよね…」
「それもこれも聖奈が用意してくれたこの船のお陰だな」
「準備張り切りすぎちゃった…」
この船は前に紹介した通り、長旅用でホテルの様な内装を兼ね備えた代物だ。
設計は地球の環境に備えたものだから、聖奈が張り切って魔改造していた。
いじったのは動力部と外装。
動力は基本ガソリンで動く備え付けの物だが、俺の魔力波で魔物を捉えたら、魔物から逃げ切れる様に魔力で動くエリー謹製の動力もプラスされている。
そっちは燃費が悪いから魔物と遭遇した時にしか使わないが……
スピードがヤバい。
走ると言うよりも、最早飛んでいると表現する程の加速だ。
そしてそれに耐えられる強靭な外装もエリー謹製の魔金属(ミスリル擬)だ。
これは俺の剣に使われている物に近い強度があり、それを地球の技術力で薄く伸ばした物が船体へと貼り付けられている。
ペラペラなだから徹甲弾は無理だが、拳銃の弾くらいなら弾き返す強度がある。
「安全に航行できることに比べたら、暇なのは良いことだ。……それよりも、ミランに変わりはないか?」
「何何〜?気になっちゃう感じぃ〜?」
コイツ…性別が男ならぶっ飛ばしてるぞ……
「変わりない…ように見えるけど、内心はどうかな?でも悪い変化では絶対にないから、気にしなくて良いよ」
「そうか…それなら良い。そろそろ夕陽が沈むからミランに上へと出てくる様に伝えてくれ」
はーい。聖奈はそう告げると船内へと消えていった。
「特に異常は見当たりませんね」
地球へと帰った後、船のチェックを終えた二人がリビングへと戻ってきた。
「それはよかった。まぁ魔物と一回も戦っていないから当然っちゃ当然か。二人ともゆっくり休んでくれ」
「聖くん。私達何もしてないんだよ?疲れてないから寝れないよ…」
「そうですね。それにこっちはまだ昼前の様ですし」
だよね…実は俺も寝れそうにない。
帰ってくるのが早すぎたかもしれないが、初日ということもあり、慎重策をとった。
「うーん。じゃあ何かするか?」
「カジノッ!!カジノに行こっ?ミランちゃんもいったことないしねっ!」
「カジノですか…確かにいったことはありませんね」
またかよ…やっぱりギャンブルは負ける奴がハマるものなのか……
ちなみに俺は未だに興味がない。
どうせ勝つし。
「ミランは年齢的に出来ないだろ?」
確かアメリカは21歳からだったかな?
「大丈夫!!22歳のパスポートあるしっ!」
うん。犯罪だよ?
まぁ今更だけど。
「ミラン。どうする?」
「何にでも初めてはあるものです。食わず嫌いも良くありませんし、行ってみませんか?」
俺に決定権はないからな。ミランに任せる。
「よし。じゃあラスベガスでいいな?」
「うん!」「お願いします」
二人が抱きついてきたので、俺は転移した。
「何で…なの…」
ラスベガスのカジノに着いて3時間。
俺の前にはチップの山が築かれていた。
「セーナさん、弱すぎませんか…?」
そう言うミランは勝っても負けてもいない。
「お姉さん、もうやめとけよ…」
「ま、まだよ!まだ私は負けてないっ!」ドンッ
聖奈は止めるディーラーの言葉を無視して、両替用の現金をテーブルへと叩きつけた。
いや…俺達で取り合っても仕方なくないか?
「セーナさん。一体いくら負けたのですか?」
別荘に帰り、ミランが聖奈の傷口を抉る。
「2万5千ドル……」
「あた……」
頭大丈夫ですか?
ミランはその言葉を何とか飲みこんだようだ。
えらいぞ。
「ハイレート卓だったが、俺が勝ちすぎて、途中から三人だけしかプレイしなくなったな」
始めは七人も座っていたのに、気付いたら卓割れしてしまった。
聖奈が熱くなりすぎて、周りがドン引きしたせいでもある。
「ミランはトントンか?」
「はい。一万ドルをチップに交換して、終わった時には800ドル増えていました」
「おお!初カジノ初勝利おめでとう!」
ありがとうございます。
照れてそう言うミランは、相変わらず天使の様だった。
「今日は返事くれるかな?」
あれからすぐに寝て、夜を迎えた俺達の視線の先には、夜空に煌々と輝く満月があった。
「そうだといいな」「はい」
聖奈の言葉にそう返した俺は、それでも難しいだろうなと思いながらも声を掛けてみた。
「ルナ様。もし、力に余裕があれば、会話しないか?」
…………
「やっぱり無理だったな…」
俺が月へと向けていた視線を聖奈達へ向けると、聖奈とミランは口を半開きにしてこちらを凝視していた。
「?なんだよ?残念だけど、俺を眺めても返事はもらえないぞ?」
「ち、ち、ち」
「ち?鳥の鳴き真似か?」
「違うよっ!!後ろ!!」
「ヒジリさんっ!後ろっ!誰ですか!?」
あん?
ゆっくりと振り返ると……
「初めまして。で、いいのかしら?」
純白のドレスを身に纏った美女が、こちらへ向けて妖艶に微笑んでいた。