本気を出さない教師陣に、ユリアが痺れを切らした。
「いきますわよっ! 【フレイム・バースト】!」
ユリアが火魔法を発動させる。
さすがは名門バーンクロス家の令嬢、そしてさすがは首席合格者だ。
かなりの火力である。
「甘いっ! お前が火魔法を専門としていることぐらいは分かっているぞ!」
「はああぁっ! 【水壁】!!」
「【ウォーター・バリケード】!!」
教師たちが水系の防御魔法を展開する。
そこに、炎の奔流がぶつかる。
さしものユリアの火魔法も、相性の悪い水魔法を突破することはできなかった。
「ふんっ。どうだ! 俺たちに火魔法は効かん!」
「お前の暴走もここまでだ!」
「たっぷり反省文を書かせてやるからな!」
得意げな表情を浮かべる教師たちに、ユリアは優雅な笑みを浮かべてみせる。
「あら? 誰があなた方を攻撃したと言いましたか?」
「何だと?」
教師たちが首を傾げた、次の瞬間――
「【獄氷爆華散】!!」
空中で破裂した氷魔法が、教師たちを襲った。
「ぐあっ!?」
「氷魔法!? いったい誰が――」
動揺する教師たちを尻目に、ユリアの近くに1人の少女が現れた。
「へへっ。一応、礼を言っておくぜ。ユリア」
「ふふんっ。目的のために共闘しているだけですわ。お礼など不要です」
現れたのは、教師たちの『連樹封縛』に捕らえられていたヘルルーガだ。
彼女の拘束は、植物によって行われていた。
水系統の魔法を得意とする彼女にとっては天敵とも言える木属性の拘束魔法だが、火魔法を得意とするユリアにとってはそうではない。
教師たちを攻撃するフリをして発動した火魔法で、ヘルルーガを拘束していた植物を焼き払ったのだ。
そして自由になったヘルルーガが、ユリアのもとに駆け付けたという形である。
「どうだ? 遠慮がちなセンコーどもじゃ、あたいたちは止められねぇぜ?」
「わたくしたちを止めるならば、もっと強者を連れてきてくださいな」
ヘルルーガとユリアはそんなことを言い合う。
一方の教師たちは、その多くが大ダメージを受けてしまっている。
生徒を傷つけないという心がけは立派だが、少し相手が悪かったようだな。
今年度の首席合格者の2人が一切の遠慮なく全力を出してくれば、教師たちでも抑えきれないということだ。
「ふぅむ。そろそろ余の出番か?」
こういう事態を考慮せず、指導力や理念を優先して教師陣たちへの採用認可を行った余に最終的な責任がある。
入学式がハチャメチャになってしまっている後始末は余がしてやるべきだろう。
ギリギリまで教師たちの能力による解決に期待したが、これ以上放置するのは酷だ。
「ディノスは座ってなさい。ユリアは私の妹。妹のしつけは、姉である私の役目だわ」
「僕も出るよ。あっちのヘルルーガちゃんは、何だか見覚えがある気がするんだ」
余の妻であり側近でもあるフレアとシンカが前に出た。
「ふむ。良かろう。見事、奴らを抑えてみせよ」
「えぇ。任せてちょうだい。私たち夫婦の力を見せてあげるわ」
「うん。頑張るね、ディノス君!」
2人は自信満々に微笑んで見せた。
そして、ユリアとヘルルーガの近くにまで出る。
「おい、あれ……」
「本当だ……。先生たちの代わりにフレアさんとシンカさんが……」
「”四将”のうちの2人……。”炎将”と”水将”の共闘だ。これは見ものだぞ!」
「あの新入生2人もこれで終わりね!」
新入生の首席コンビの実力を目の当たりにして萎縮してしまった生徒たちが、再び活気を取り戻していく。
入学式が台無しにされた今、せめて実力者の戦闘を間近で見て糧にするがいい。
「ユリア……実力をずいぶんと上げているようね?」
「ふふっ。ありがたき幸せにございますわ。お姉様」
「でも、入学式でこんなに暴れて、どういうつもりなの? あなた、バーンクロス家の評判を落とすつもりなのかしら?」
フレアがユリアに問いかけた。
当然の問いだろう。
余が魔王として世界を平定してからというもの、貴族に求められる責務というものは変化しつつある。
純粋な戦闘能力や魔法技術よりも、統治能力や教育能力が重視されるようになったのだ。
戦時中であれば、強力な魔法を使って傍若無人に振る舞うことにも一応のメリットはあった。
力を誇示することで、民からの畏怖を集め、敵勢力に舐められないようにする効果もあるからだ。
しかし、平和となったこの時代にそのような真似をする愚か者はそうそういないし、いたとしてもただ危険人物として扱われるだけだ。
ズバリ、今現在のユリアは危険人物である。
優秀かつ覚悟を持った教師や生徒たちが集まるこの学園であるからギリギリ許されているような状況だが、外部で同じことをすればただのテロリストや快楽暴力者として断罪されるだろう。
「まさか! わたくしにバーンクロス家の評判を落とす意図はありませんわ」
「では、どうして教師を攻撃したりしたのかしら?」
「どうしても、お姉様の実力をここで確かめておきたかったのです」
フレアの問いに、ユリアは真剣な表情でそう答えたのだった。
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