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夜。
空は真っ黒で、雨が激しく降っていた。
ピザ屋の窓を、雨粒が叩く。
ザァァァァ…
店内には客はいない。
エリオットはカウンターで生地を伸ばしながら言った。
「すごい雨だね」
カウンター席にはチャンス。
椅子にだらっと座って、ピザをかじっている。
「嵐だな」
「帰れる?」
「無理」
外を見ると、道路がもう川みたいになっていた。
雷が光る。
ゴロッ
エリオットは笑う。
「今日は泊まりだね」
「ここで?」
「ソファあるよ」
チャンスは肩をすくめる。
「マフィアより雨に捕まるとは」
その時。
バチッ
店の照明が一瞬消えた。
そして――
暗くなった。
「おっと」
停電。
オーブンの光も消えて、店内は真っ暗になる。
外のネオンと稲妻の光だけ。
エリオットはキッチンをゴソゴソ探る。
「ロウソクあったかな」
チャンスは席から動かない。
「真っ暗だぞ」
「目慣れるよ」
次の瞬間。
雷。
バンッ
エリオットが「うわ」と言いながらよろける。
そして。
誰かにぶつかる。
チャンスだった。
「……」
「……」
暗い店。
すごく近い距離。
エリオットは笑った。
「いた」
チャンスが呆れる。
「そりゃいる」
エリオットの手が伸びる。
そして。
暗闇の中でも迷わない。
ネクタイ。
ぐい
「……おい」
チャンスがため息をつく。
「停電してもやるのか」
「癖」
雷が光る。
その瞬間、二人の顔が一瞬だけ照らされる。
すごく近い。
チャンスは低い声で言った。
「……エリオット」
「ん?」
「ネクタイ」
「うん」
「離せ」
エリオットは笑う。
「やだ」
沈黙。
雨の音だけ。
チャンスの手が、エリオットの手首を軽く掴む。
「捕まえた」
「え」
今度はチャンスが引く。
ネクタイじゃない。
エリオットの腕。
ぐい。
距離がさらに近くなる。
「仕返し」
エリオットが笑う。
「遅い」
「黙れ」
雷がまた光る。
一瞬の明かり。
チャンスは少し真面目な顔をしていた。
「……怖くないのか」
「何が」
「俺と二人きり」
エリオットは即答。
「全然」
「普通怖がる」
「だって」
エリオットはまたネクタイを引く。
ぐい。
顔が近い。
「チャンスだし」
チャンスは少し黙って――
小さく笑った。
「その理屈なんなんだ」
「安心する」
雨はさらに強くなる。
店の中は暗い。
チャンスは静かに言う。
「……エリオット」
「ん?」
「今」
「?」
「めちゃくちゃ近いぞ」
エリオットは首をかしげる。
「そう?」
チャンスがため息をついた。
「お前」
そして。
手が伸びる。
エリオットのバイザーを軽く持ち上げる。
金髪が落ちる。
「ほんと」
低い声。
「無防備だな」
エリオットは笑った。
「チャンスだから」
チャンスはもう一度ため息をつく。
「それ」
「うん」
「万能ワードだな」
その時。
エリオットの手がまたネクタイを引く。
ぐい。
チャンスが言う。
「……お前さ」
「?」
「ほんと」
少し笑って。
「俺のこと好きだろ」
エリオットは一瞬だけ黙って。
それから。
いつもの顔で言った。
「ネクタイが好き」
チャンスは吹き出した。
外ではまだ雨が降り続いていた。
でも店の中は――
少しだけ、静かで温かかった。