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手術から2週間が経った。胸に残る手術痕は、まだ痛む。
けれど、医師の言葉によれば、経過は順調だという。
〈良かったですね。もうすぐで退院できそうですね。〉
「……そうですか。」
笑顔で返したつもりだった。
でも、その声は空っぽだった。
“生きた”のに、“生きたくなかった”なんて……
そんな思いを抱くこと自体、誰にも言えなかった。
そのせいで生きた心地がしなかった……。
晶哉の葬式があったことを知ったのは、看護師から教えてもらって知った。
葬式には行けなかった。
手術後で身体が動けなかったから。
でも、それ以前に……
灯は行けなかった。
行ってしまえば、本当に晶哉との思い出が終わってしまう気がして……。
その時……
看護師が
《彼が最後に残していった物があります。》
そう言って渡してきたのは
封筒と、小さなUSBメモリだった。
夜、病室のベッドで、灯は封筒を開いた。
その瞬間、震えが止まらなかった。
『灯へ。君がこれを読んでいる頃、僕はもう君の隣にいられないんだと思う。それでも、君が笑っていることを、心から願ってる。君の笑顔に、何度も救われた。君の言葉に、何度も生きようと思えた。君に出会えて、本当に幸せだった。だから僕は、自分の最後を、君の“これから”に使いたいと思った。灯、君の胸の中に……今、僕の心臓がある。
驚かせてごめん。でも、これだけは伝えたかった。
僕の心音が、これからも君の中で生き続けるなら、それは、死ぬことじゃないと思えたんだ。
君が歩くたびに、笑うたびに、僕の命も、一緒に歩いて、笑ってくれると信じてる。
生きて。
泣いてもいい。立ち止まってもいい。
でも、最後には前を向いて。
“君が生きる理由”になれたら……それ以上の幸せはない。
晶哉より』
読み終えたとき、灯は声を上げて泣いた。
胸が苦しかった。でもそれは、痛みじゃなかった。
震える指で胸に手を当てる。
トクン、トクンと、はっきり聞こえる心音。
それはもう、自分だけのものじゃなかった。
「晶哉……ありがとう……泣」
今まで何度も、この命なんていらないと思った。
でも今は違う。
この心臓は、あの人が残してくれた“未来”なんだ。