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「ここは俺が払おう」
チェリルが財布を取り出すより早く、俺は隠密スキルを解いてカウンターへと進み出た。
そして、漆黒のマントの袖から、5リーンの硬貨をスマートに差し出す。
カラン、と硬貨が乾いた音を立てて机に響いた。
チェリル「あ…………え…………」
突然のことに、チェリルは翡翠(ひすい)の瞳を限界まで見開いた。
水色の髪が驚きで少し跳ね、背中の淡水色の4枚の羽がピシッと硬直している。
昨日路地裏でぶつかった大男が、まさか自分の会計を代わりに支払うなんて、夢にも思っていなかったのだろう。
店主の親父も「あんた、一体……?」と、黒いフードを深く被った俺の怪しすぎる見た目に不審な目を向けている。
(やべえ、かっこつけて割り込んだはいいけど、冷静に考えたらただの不審者ムード全開だ……!)
中身が三十路のサラリーマンな俺は、心臓が爆発しそうなほどの緊張に襲われていた。
だが、差し出した手はもう引っ込められない。
俺は精一杯のポーカーフェイスを維持し、チェリルに向かって、できる限り優しく微笑みかけた。
店を出ると、外の通りはいつの間にか異様な熱気に包まれていた。
チェリルはきょろきょろと周囲を見渡し、小さく呟いた。
チェリル「………あ、……今日…聖女様と……王子様の………パレード……」
言われてみれば、街のあちこちに華やかな装飾が施されている。
大通りの中心には、見事なレッドカーペットがどこまでも真っ直ぐに敷かれていた。
(……聖女と王子の、パレードだと!?)
俺の脳内にあるゲームの記憶が一気に覚醒する。
『魔王様と聖女様』の序盤の特大イベントだ。
国中の人々が歓声をあげる華やかなパレード。しかし、それは俺――魔王アズリスにとっては、破滅の始まりを告げる最悪のイベントでもあった。
このパレードの最中、魔王である俺は聖女に遭遇し、その清らかな美しさに魅了されてしまうのだ。
そして、その光景を隣で見ているはずの王子もまた、今後のシナリオで俺の恋路を阻む宿敵となる。
(冗談じゃない。俺が好きなのは、今隣にいるチェリルだけだ!)
だが、運命の濁流はすでにすぐそこまで迫っていた。
遠くから、ファンファーレの華やかな音が鳴り響き始める。
群衆が一斉にレッドカーペットの脇へと押し寄せ、俺とチェリルの身体が人混みに流されそうになった。
コメント
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第8話読了!主人公がチェリルに格好つけて割り込んだら不審者扱い、その空気感がやばいほど伝わってきて笑ったわw 中身三十路のサラリーマンがポーカーフェイスでキメるってギャップが最高だし、チェリルの羽がビシッと硬直する描写めっちゃ好き。で、ラストで聖女パレードの運命イベントが迫ってくるところで終わる…やばい、続き気になりすぎる!次話も楽しみにしてる🔥