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チェリル「あ……アズリス………さん……その……あそこ……」
チェリルが少し困ったように人混みを避けながら、小さな指で大通りの隅を指差した。
その先には、パレードの喧騒から少し外れた場所にある、ぽつんと空いた木製のベンチがあった。
(あ、アズリスさんって呼んでくれた……!)
脳内のサラリーマンオタクは歓喜のあまりステップを踏んでいたが、現実の魔王アズリスは「ああ、あそこに避難しよう」と冷静に頷いた。
無口な彼女が自ら提案してくれたことが、たまらなく愛おしい。
ー周囲では、パレードの主役である聖女リリスと王子を一目見ようと、群衆が押し合いへし合いの大騒ぎをしている。
だが、俺にとっては聖女のパレードなどどうでもよかった。
今はただ、この愛らしい妖精の少女が人混みで押しつぶされないようにすることが最優先だ。
俺は長い足を生かして人混みをかき分け、彼女が通りやすいようにさりげなく背中で盾を作った。
黒いマントが周囲の人間を威圧したおかげで、驚くほどスムーズにベンチへと辿り着く。
二人がベンチに腰を下ろしたその瞬間、大通りからひときわ大きな大歓声が沸き起こった。
ついに、聖女リリス・ホワイトの乗る豪華な馬車が、レッドカーペットの上を進んできたのだ。
チェリル「……聖女様と王子様のことは……知っています………?」
ベンチに座ったチェリルが、翡翠の瞳をさらに丸くして、俺の顔をじっと見上げてきた。
大歓声に消されそうなほど小さな声だが、すぐ隣にいる俺の耳にははっきりと届く。
(知っているどころか、本来なら俺がこれからストーカーばりに執着する予定の相手だよ……!)
脳内でサラリーマンオタクが盛大にツッコミを入れる。
ゲームのシナリオ通りなら、俺はこのパレードで聖女リリス・ホワイトに一目惚れし、破滅へのカウントダウンが始まるはずだった。
だが、今の俺の心にあるのは、隣で首をかしげているこの愛らしい妖精のことだけだ。
「……ああ、噂には聞いている。この国の希望となる、偉大な聖女様と王子殿下だろう?」
俺は黒いフードの奥で、苦笑いを浮かべながら答えた。
魔王の重低音ボイスが、彼女を怖がらせないように、できるだけ柔らかいトーンになるよう声を調節する。
チェリルは俺の答えを聞くと、ふいに向こうから近づいてくる豪華な馬車へと視線を戻した。
レッドカーペットを進む馬車の上には、まばゆい光を放つ金髪の美少女――聖女リリス・ホワイトが、民衆に向かって完璧な聖女の微笑みを振りまいている。
その時、リリスの鋭い視線が、人混みから外れたベンチに座る俺たちの方へと、ピクリと動いた。
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