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Side 緑
「……どうする? キャプテン」
我らがキャプテン、樹は、沈痛な表情で考え込んでいた。
なんでかって言うと、さっき北斗が試合中に突き指をして帰ったからだ。というか俺らで帰らせた。
しかも大事な時期の副キャプテンの不在は、ダメージも大きい。
手も器用で正確なプレーが持ち味の北斗には珍しいことだった。
「樹、個人練にしよう」
声を上げたのは高地。「そうだな」と樹もうなずいた。
「じゃあ今日は終日それぞれトレーニングで」
その声を聞き、各々好きな場所へ散らばった。
高地はシュートの練習に、大我と樹は筋トレに、俺はジェシーとパスの練習をすることにした。
「じゃあここからあっちまで行こうか」
体育館を縦断するように、車いすで駆けながらボールをつないでいく。
だけど俺がパスしたとき、ジェシーは顔をしかめてボールを取り落としてしまった。
「ジェシー?」
俺はハンドリムを操作して近寄る。「どうしたの」
「…ううん。何でもない」
「隠すのはよくないよ?」
ジェシーは一瞬の逡巡ののち、口を開いた。「足が…痛かった。こっちの、あるほうが」
右の太ももに手で触れた。いつもの幻肢痛なら切断した左のほうなのに、残っている側が痛んだなんて。
「…おかしいよね、それ」
ジェシーだってわかるはずだ。これが、幻肢痛じゃないってこと。
「最近…、こっちも痛いときがあるんだよ。でも怖くて、認めたくなくて…」
彼が左足をなくす原因になったのは、骨肉腫だと聞いていた。だから、再発かもしれないと認めてしまうのが怖いんだろう。
でも、病院で検査してもらわないといけないことくらいわかってる。それこそ、痛いくらいに。
最近は定期検診の頻度も下がったらしいから、次まで待っていたらもうどうなるか。
「どうした、2人とも」
フリーズしている俺らに気づいたのか、高地が寄ってきた。
「なんかジェシーが、健側の足が痛いって」
高地も顔色を変える。「それ…ヤバいんじゃ」
ジェシーはうつむいていて答えない。高地はくるりと背中を向けた。
「どこ行くの」
「樹に言ってくる。ジェシー、すぐ病院行きな。早いに越したことはないから」
俺はジェシーの肩に触れた。「大丈夫。きっと大丈夫だよ」
根拠のないからっぽな励ましだと思ったけど、ジェシーは笑ってくれた。ありがとう、と言って。
「ジェシー。今日はいいよ」
やってきた樹がそう言った。
「でも…」と口ごもるのを制す。「ダメ。いくら大会が近いからって、放置するのは禁止」
「早く診てもらったほうが、大会に出られなくなる確率も低いんじゃないの?」
大我の言葉を聞いて、やっと踏ん切りがついたようだった。
「わかった。行ってみて、何もなかったって笑って帰ってくるよ」
おう、と樹は答える。
それでも体育館を後にするその広い背中がやけに小さく見えたのは、気のせいじゃなかったようにも思えた。
続く
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さいこーです!