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#怪異
イキリ火の玉
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東京に来た梶は風俗店に住み込みで働き、そこのケツ持ちヤクザが今日死んだ親分だった。
その親分と杯を交わして正式にヤクザになるとメキメキと頭角を現してすぐに親分の右腕になった。新しい事業を始めれば成功し、このご時世に若い部下も増やして梶のヤクザ生活は順調だった。
順調だったのに、今は訳の分からない村で脚に大怪我を負って命すら危ない。それでも……それでもただ一方的に暴力を受けるしかなかった幼少期に比べれば知識も知恵も手に入れた今のほうが何倍も楽だ。
その知識と知恵を駆使してあとは考えるだけ。力もない、金もない、権力もない、持たざる者だった梶の最大の武器こそは考えるということだった。
「沢村よー」
「な、なんすか、梶さん?」
沢村は名前を呼ばれて笑顔さえ見せる。沢村も他の若い奴らもみんな親分ではなく梶に憧れて組に入った。絶対たる主。それが梶だった。
他の奴らと同じく沢村も腕力には自信があったが頭はよくない。難しいことは何も考えたくなかった。だから梶に命令して欲しかった。梶の命令にさえ従っていれば何も考えなくてよかった。
「沢村、村長の話しは聞いたな? 妖怪討伐にいったメンバーから一人、生け贄を差し出さないといけない」
「はい、はい。あいつら舐めやがって。俺、絶対に梶さんを守ります。指一本触れさせませんよ」
沢村はそう言って握り拳を見せる。梶は枕元に置いていたメガネを取って掛けた。
「沢村、後手に回るのはよくない。村長を抑えるぞ」
「いいっすね! そういうのを待ってやした」
沢村は嬉しそうだ。人間相手の暴力ならお手の物だからだ。
「いいか、あの三人に声をかけて反乱の準備をしろ」
「三人って討伐隊の? あのガキと安田にも声をかけやしょうか?」
「いや、長岡は素人だ、足を引っ張るだけだろう。安田も今は女に狂ってなにをするかわからない」
「そ、そうっすね」
「それから沢村、三人にはお前が主導していると言え。こんな状態の俺が指示しているとばれると逆に人質にされかねない」
「なるほど、そうっすね」
「俺は他の準備をしておくから、ここに近寄らないように。俺は反乱のことは知らないと説明しろ」
「わかりやした。さっそく声をかけてきやす」
何もわかっていなかったが沢村は梶の命令通りに動くだけだ。
梶の陰謀を知らない努は森の入り口に来ていた。そこに島と同じように全身の皮を剥がされた木村と村人の死体が見つかったからだ。
恐らく自力で来たものの二人ともここで力尽きたのだろう。集まった村人たちは哀れむでもなく二人の死体を戸板に乗せてどこかに持って行った。
ふと、沢村が討伐に行った三人の村人と話しているのが見えた。生け贄を誰にするか相談しているのかも。そう思うと嫌な気持ちになる。
そして考える。怪我をした梶が有力候補だと思うが、誰もが一目置く梶を果たして生け贄にするだろうか?だったら沢村が? 他の村人が? いや、その四人はまさに目の前で何かの相談をしている。だったら残りは? 嫌な気持ちどころではない、努は恐怖を感じて背筋が寒くなる。
一声掛けようと四人のところに行こうとすると、それに気づいた沢村が手でシッシッと努を追い払い四人でどこかに去って行った。
沢村と三人の村人は川沿いのひとけのない場所に来ていた。
「本気ですか?」
村人の一人、10年前にこの村に迷い込んだ男が訊いた。沢村から村長の身柄を抑える相談……というより半ば命令をされていたのだ。
「本気に決まってるだろ? それともお前らの誰かが生け贄になりたいのか?」
「それは……梶さんはなんて言ってるんですか?」
「はあ? 梶さんは何にも知らねーよ」
「え?」
三人は呆気にとられる。当然、梶の命令で沢村は動いているのだと思っていたからだ。
「つーか、ずっと寝てるし」
「じゃあ相談したほうがいいんじゃないのか?」
三人の中の一人が言った。この村で生まれた村人だ。
「馬鹿野郎! 梶さんを係わらせるんじゃねーよ。怪我人だぞ?」
「だったら……」
「てめえ、まさか梶さんを生け贄にとか思ってんじゃねーだろうな?」
沢村は指をポキポキ鳴らして威嚇する。
「いやいや、そんなことは思ってないよ。あの人の頭脳はこの村に必要だろう」
「だよな? へへへ。いいか、これはな、梶さんが動けないから俺がやらなきゃって思ったんだ」
「そうですか……」
三人は顔を見合わせる。そして。
「と、とにかく少しだけ時間をください」
「時間? 夕方にはあのわけのわからねー儀式をやるから、それまでにきめねーといけないだろ?」
「それはわかっています。ただワシらにも心の準備を少しだけ欲しいんじゃ。あのお堂のところで待っていてくれんか?」
「……わかった。でも長くは待たねーぞ?」
「出来るだけ早く行くから」
「ケッ。急げよな」
沢村は吐き捨てるように言って一人で高台にあるお堂に向かった。三人は冷たい目でその背中を見送った。
そして五日後……。
コメント
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第37話、読ませていただきました。梶の過去と現在が交錯して、彼が「考えること」を武器にしているってところにグッときました。沢村の忠誠心と単純さが対照的で、あの三日後の展開がすごく気になります。努の不安も伝わってきて、次が待ち遠しいです。