小学一年生になってから早半年。だいぶクラスにも日本の小学校にも慣れてきた。日本の小学校というのは、実に規則が厳しいことに気づいた。時間にも持ち物にも服装にも、日本の学校はとにかく児童を縛りすぎだと思う。
「やっと、やっと夏休みーっ!!」
奏茉の大きな声が街に響く。流石に大きな声を町中で出すのはやめてほしい。そう思っていると、空茉がすかさず奏茉を叱る。この光景を何度見たことか。奏茉は全く学習しない。
例えば、廊下を走るなと先生に注意された数十秒後にはもう忘れて走りまくっている。そして空茉に叱られやっと理解したかと思えば1日経てば忘れている。宿題もやれと言われたのにやらないし、公共の場だというのに今みたいに大声で話すし。
とにかく学習しないのだ。個人的に奏茉は多動症だと思うが、今の段階でそれを決めるのは早すぎる。見なければならない。
そんな事を思いながら奏茉を見つめていると、その視線に気付いたのか私の目の前で手を振ってみせる。
「めっちゃぼーっとしてるじゃん。どうしたの?」
私の顔を覗きながら歩く奏茉。空茉もそれを見つめている。
少し黄色がかった髪。長いまつ毛。整った鼻と綺麗な顎のライン。そして、吸い込まれるようなまっすぐな青がかった瞳。やっぱりこうしてみると奏茉は顔が整っている。
「かっこいいね、奏茉」
突然出た私の言葉に奏茉が目を見開く。これ以上開いたら目玉が落ちそうなほどに。
「ありがと!相羅」
「ごめん相羅、僕たち今日お母さんに買い物頼まれてたんだ」
奏茉と私の間に割って入る空茉。いつもの空茉らしくないと思い少しびっくりする。奏茉も、空茉を凝視していた。
「そうなんだ?じゃあここら辺で解散かな」
「うん。いうのが遅れてごめんね」
曲がり角に差し掛かった時、ふと空茉の顔を見た。その時の空茉の顔は、見たこともない、優しさとはかけ離れた顔だった。
奏茉side
「空茉、母さんから買い物なんて頼まれてなくない?俺相羅と帰りたかったんだけど」
「奏茉、奏茉はあいらのことが好きだろう」
なんで、そんな当たり前のことを聞くんだろう。
「もちろん好きだよ?でも、それは空茉も同じでしょ?」
「そっか、あいらのこと好きなんだ」
俺の質問には答えず、下を見る空茉。いつもの空茉じゃない。熱でもあるのか。
「どうしたの、空茉」
「僕は、奏茉が相羅を好きでい続ける限り、奏茉と仲良くすることはできない」
衝撃の、一言だった。