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第2話 月の裏側 ――朝。
結翔「全然眠れなかった……。」
ベッドから起き上がり、結翔はぼんやりと天井を見つめる。
結翔「……昨日の事を、チャラに出来なかった……。」
目を閉じる。
すると、昨日の光景が蘇る。
暗い路地。
怯えた男。
そして――蓮。
結翔「……。」
結翔「……アイツは、嘘をついてるようには見えなかった。」
結翔「……アイツ、本当は……。」
その先を考えるのをやめる。
結翔「……クソ」
結翔は急いで制服に着替え、学校へ向かった。
教室。
ガラガラッ。
蓮「おはよー。」
結翔「…………。」
蓮はいつも通りだった。
昨日のことなんて、何もなかったみたいに。
生徒「はよー、蓮!」
生徒「って、お前なんで真冬なのに半袖なんだよ!?」
生徒「寒くなかったの!?」
蓮「え、暑かったけど……。」
蓮「みんな汗かかないの?」
生徒「お前……どんな感覚してんだよ!?」
蓮「あえ?」
周囲から笑いが起こる。
結翔「…………。」
――昨日のこと。
全く感じてないんだな……アイツ。
笑ってやがる。
クソ。
俺だけじゃんか。
蓮「…………。」
蓮は結翔を見つめる。
蓮「結翔くーん?」
結翔「……。」
蓮「…………。」
結翔「……。」
蓮「……お・は・よ・う。」
結翔「……っ!」
顔を上げると、蓮の顔が目の前にあった。
結翔「悪りぃ……って、お前っ、
近……!?」
蓮「だって反応なかったから。」
結翔「だからって急に至近距離になる馬鹿いるか!」
蓮「ここにいるじゃん。」
結翔「お前だよ!!」
蓮「そっか〜。」
結翔「納得すんな!」
蓮は楽しそうに笑った。
結翔「……。」
その笑顔を見るほど、昨日のことが頭をよぎる。
――あの笑顔の裏で、人を殺していた。
それなのに。
目の前の蓮は、いつもと何も変わらない。
結翔「…………。」
蓮「結翔くん?」
結翔「……ああ、悪い。」
少し迷った後、結翔は口を開く。
結翔「あとよ……放課後、空いてるか?」
蓮「空いてると思うけど、どしたの?」
結翔「話がしたい。」
蓮「…………。」
一瞬だけ蓮が黙る。
蓮「……いいよ。」
結翔「言ったからな?」
蓮「うん。」
結翔「絶対だからな。」
蓮「分かったって〜。」
――放課後。
結翔「やっと掃除終わった……。」
結翔は教室へ戻る。
結翔「おーい、蓮……行くぞって……。」
結翔「…………。」
誰もいない。
結翔「アイツ……いねぇーじゃねーか!!」
近くにいた生徒が振り返る。
生徒「蓮くんなら、用事あるから先帰るって言ってたけど。」
結翔「用事?」
結翔「…………。」
嫌な予感がした。
結翔「……また、コロシ屋の仕事か……?」
昨日の光景が脳裏に浮かぶ。
結翔「…………。」
放っておけない。
結翔「……だったら追うしかねぇな。」
鞄を掴み、教室を飛び出した。
――夜。
結翔「……はぁ、はぁ……。」
街中を走り回った。
けれど、蓮は見つからない。
結翔「どこ行ったんだよ……あいつ。」
スマホを取り出す。
蓮に電話をかける。
プルルル……。
しばらくして。
蓮「もしもし?」
結翔「――蓮!?」
蓮「ん? どうしたの?」
結翔「お前、今どこにいる!?」
蓮「んー?」
蓮は空を見上げる。
蓮「マンション。」
結翔「……は?」
蓮「月見てる。」
結翔「…………。」
結翔「…………は?」
蓮「だから、月。」
結翔「お前……。」
結翔は頭を抱える。
結翔「お前が言ってた『用事』って……。」
蓮「月見る用事。」
結翔「…………。」
結翔「紛らわしいんだよ!!」
蓮「え、ごめん。」
結翔「そこは謝るんだな……。」
蓮「来る?」
結翔「……え?」
蓮「今日の月、すっごい綺麗だよ。」
結翔「…………。」
少しだけ迷う。
でも。
結翔「……行く。」
蓮「ほんと?」
結翔「ああ。」
結翔は再び走り出した。
しばらくして。
結翔「……ここか。」
蓮がいるマンション。
結翔は上を見上げる。
高い。
結翔「……まさか、屋上にいるんじゃねぇだろうな。」
その時。
上から声が聞こえた。
蓮「結翔くーん!」
結翔「……!」
見上げる。
蓮「こっちこっち!」
結翔「お前、そこ……!」
蓮「月、綺麗だよ〜。」
結翔「いや、お前そこ高――」
蓮「じゃ、行くね。」
結翔「は?」
次の瞬間。
蓮は屋上から飛び降りた。
結翔「――お前ぇぇぇぇぇ!!?」
ドンッ!!
蓮「よっと。」
結翔「…………。」
結翔「お前それ普通に死ぬ高さだからな!?」
蓮「大丈夫だって〜。」
結翔「お前の『大丈夫』は信用できねぇんだよ!!」
蓮「ほら。」
結翔「何だよ。」
蓮「乗りなよ。」
結翔「……は?」
蓮「今日の月、すっごい綺麗だから。」
結翔「いやいやいや!」
蓮「早く〜。」
結翔「……お前、俺をおんぶして上まで行く気か?」
蓮「うん。」
結翔「マジかよ……。」
蓮「ほら。」
結翔「……分かったよ。」
結翔が背中に乗る。
蓮「じゃ、行くね。」
結翔「待て待て待て!」
蓮「よっと。」
タッ。
タッ。
タッ。
結翔「うわぁぁぁぁぁ!!」
蓮「結翔くん、うるさいよ〜。」
結翔「お前が速すぎんだよ!!」
蓮「そう?」
結翔「そうだよ!!」
蓮は軽々と建物を駆け上がっていく。
結翔「ていうか、お前なんでこんな軽々――」
蓮「着いた。」
ドンッ。
結翔「うわっ!!」
蓮「ほら。」
結翔「……はぁ……はぁ……。」
結翔は息を整えながら、ゆっくり顔を上げる。
――夜空。
無数の星。
そして、大きな月。
結翔「…………。」
しばらく言葉が出なかった。
結翔「……月、綺麗だな。」
蓮「でしょ?」
蓮は嬉しそうに笑う。
蓮「俺、月見るの好きなんだ。」
蓮は紙を取り出す。
そこには月の形や時間などが細かく記録されていた。
結翔「……お前、毎回記録してんの?」
蓮「うん。ずっとやってる。」
結翔「……なんか、意外だな。」
蓮「そう?」
蓮「月ってさ、毎日同じように見えて、ちょっとずつ違うんだよ。」
結翔「…………。」
蓮「だから面白い。」
その横顔は、本当に楽しそうだった。
結翔は少し黙った後、口を開く。
結翔「……昨日のこと。」
蓮「ん?」
結翔「怖くなって逃げた。」
結翔「……悪かった。」
蓮「…………。」
蓮は月を見たまま答える。
蓮「別にいいよ。」
結翔「……え?」
蓮「怖かったんでしょ?」
結翔「……まあ。」
蓮「じゃあ仕方ないじゃん。」
結翔「…………。」
蓮「俺、気にしてないよ。」
結翔「……そっか。」
少しだけ、胸の奥が軽くなった。
しかし。
結翔「……なぁ、蓮。」
蓮「ん?」
結翔「お前は……なんでコロシ屋なんかやってんだ?」
蓮「…………。」
蓮のペンが止まった。
しばらく黙ってから、蓮は答える。
蓮「父さんに言われたから。」
結翔「……親父に?」
蓮「うん。」
蓮「強引に言われて……気づいたら引き受けてた。」
結翔「嫌じゃなかったのか?」
蓮「…………分かんない。」
結翔「……分かんない?」
蓮「俺さ。」
蓮「人を殺しても、嬉しいとか、悲しいとか……あんまり感じたことないんだよね。」
結翔「…………。」
蓮「だから、なんで続けてるのかもよく分かんない。」
結翔「…………お前。」
蓮「ん?」
結翔「これからも……やってくつもりなのか?」
蓮「…………。」
蓮は月を見る。
蓮「確実な答えは出せないかな。」
結翔「…………。」
蓮「俺自身が、どうしたいのか分かんないから。」
静寂。
やがて。
蓮の表情から、笑顔が消えた。
二人は並んで月を見上げる。
同じ月を見ている。
なのに――
二人が見ているものは、まだ違う。
それでも。
この夜を境に。
二人は少しずつ、お互いの知らない「心の裏側」へ踏み込んでいくことになる。
コメント
1件
第2話、読ませていただきました!結翔くんの「怖いけど気になる」っていう揺れ動く気持ちがすごく伝わってきました。特に屋上で月を見上げるシーン、蓮くんが嬉しそうに月の記録を見せるところが印象的で…「人を♡♡♡ても何も感じない」って言う蓮くんの、その裏にある複雑さがじんわり沁みました。同じ月を見ているのに、二人の見ている世界が違うっていうラスト、すごく好きです。続きが気になります!
#オリジナル
リアス
4,633
43
えれめんたる
18
ゆうクロ。
41