テラーノベル
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切断された扉が、地下訓練施設の床へ倒れた。
金属の塊が響かせた轟音が、長い廊下の奥へ何度も反響する。
その向こうから、白い長髪の女性が歩いてきた。
細身の身体に、黒と白を基調にした戦闘服。腰には何も身につけていない。代わりに、両手で巨大な武器を支えている。
それは、折りたたまれた大剣だった。
刃は途中で何本もの関節に分かれており、普段は短い棒のような形をしている。しかし、女性が柄のスイッチを押すと、内部の機構が連続して展開した。
金属音が重なる。
短い武器が、瞬く間に巨大な刃へ変わった。
「またお前かぁぁぁぁぁ!」
K-Tが叫ぶ。
「久しぶりだな」
女性――レイは、感情の薄い声で答えた。
「久しぶりじゃない! 何で毎回、扉を斬って入ってくるんだ!」
「扉があったからだ」
「普通は開けるんだよ!」
メバルが思わず割り込んだ。
レイは初めて、K-T以外の五人へ視線を向ける。
「新しい仲間か」
「そうだ。これから訓練を始める」
K-Tが答える。
「訓練?」
「全員を戦えるようにする」
レイの視線が、メバルの腰の剣、カキの拳銃、ミステーの弓、アオノの端末、マサカゲの構えへ移った。
「時間がないな」
「何の時間?」
カキが尋ねる。
「死ぬまでの時間だ」
「初対面で言うことじゃないよ!」
メバルが叫んだ。
レイは大剣をK-Tへ向けた。
「訓練の前に、確認したい」
「何をだ」
「お前がまだ鈍っていないか」
次の瞬間、レイの姿が消えた。
床を蹴っただけだった。しかし、細身の身体からは想像できないほどの速度だった。
大剣が、K-Tの頭上から振り下ろされる。
K-Tは紫色の鞘から刀を抜いた。
刃と刃が衝突する。
地下施設全体が震えた。
レイの大剣は、刀とは比較にならないほど巨大だった。それでもK-Tは片手だけで受け止め、刃の角度をわずかに変えて力を横へ逃がした。
床のタイルが割れる。
「刀を抜いた!」
メバルが驚く。
K-Tが刀を使うところを、誰も見たことがなかった。
「まだ必要ないんじゃなかったの?」
K-Takasaka
55
#K-Takasaka
K-Takasaka
141
K-Takasaka
132
#K-T
カキが言う。
「必要になった」
K-Tは短く答えた。
レイが大剣を引き戻す。刃が床を削り、火花が散った。
K-Tは片手で刀を構え、レイの懐へ踏み込む。
斬撃。
レイは身体を反らしてかわした。白い髪が刃に触れ、数本の髪が宙を舞う。
レイは大剣の柄を回転させ、横薙ぎに振る。
K-Tは刀で受けず、身を沈めた。大剣は頭上を通過し、背後の壁へ突き刺さる。
K-Tはレイの脇腹へ肘を入れた。
レイは後ろへ飛び、壁を蹴って反転する。
「速い……」
マサカゲが呟いた。
「二人とも、相手の動きを読む前に、次の動きを作っている」
アオノが冷静に分析する。
「つまり?」
「見てからでは遅い」
レイが大剣を折りたたんだ。
巨大な刃が中央から分かれ、関節を畳みながら短くなる。最後には、片手で扱える短剣のような形になった。
「武器の形を変えたか」
K-Tが言う。
「お前に勝つために作られた武器だ」
レイは低い姿勢になった。
「俺が作った」
K-Tが付け加える。
レイの眉がわずかに動いた。
「だから嫌いなんだ」
レイが一気に距離を詰めた。
短剣のようになった大剣が、K-Tの喉を狙う。
K-Tは刀の峰で刃を押し流し、左手のトンファーを取り出した。レイの手首を狙って振り抜く。
レイは腕を引き、大剣を再び展開した。
刀と大剣、トンファーと変形武器。
二人は武器を切り替えながら、訓練施設の中を縦横無尽に移動していく。
メバルたちは壁際へ退いた。
「Kさんとレイちゃん、どっちも強すぎない!?」
「レイちゃんと呼ぶな」
レイが戦いながら言った。
「そこ気にするんだ!」
カキが叫ぶ。
K-Tが拳銃を抜いた。
レイは発砲音を聞く前に身体をひねった。弾丸が肩の横を通り過ぎ、後方の壁へめり込む。
K-Tは撃った反動を利用し、身体を横へ滑らせた。
そのままガラケーを取り出す。
アンテナが伸び、金属製の警棒へ変わった。
警棒がレイの手元を狙う。
レイは大剣の柄で受け止めた。
「銃を撃ちながら近づくとはな」
「当てる必要はない」
「昔から、そういう戦い方だった」
「お前も昔から、避けるだけだ」
K-Tが警棒を引いた瞬間、レイが足を払った。
K-Tの身体が傾く。
レイはその隙を逃さず、膝をK-Tの腹部へ叩き込んだ。
鈍い音が響く。
K-Tは数メートル後ろへ滑った。防弾チョッキが衝撃を受け止める。
「問題ない」
K-Tはすぐに立ち上がった。
「昔から、そればかりだな」
レイが言う。
「問題ないものは、問題ない」
「なら、これはどうだ」
レイは大剣を大きく振りかぶった。
折りたたまれていた刃が、轟音とともに完全に展開する。
刃の長さはレイの身長を超えていた。
レイが踏み込む。
床が陥没するほどの一撃が、K-Tへ振り下ろされた。
K-Tは刀を鞘へ戻した。
「刀をしまった?」
メバルが声を上げる。
K-Tは両手にトンファーを構えた。
大剣が迫る。
K-Tはぎりぎりまで動かなかった。
刃が肩をかすめる。
その瞬間、K-Tは横へ滑り込み、大剣の軌道から外れた。
大剣は床へ突き刺さり、訓練施設の床を大きく割った。
レイの動きが止まる。
K-Tは背後へ回り、片手で刀を抜いた。
紫色の刃が、レイの首元へ添えられる。
「勝負はついた」
レイは大剣を握ったまま、動きを止めた。
白い髪が、ゆっくりと肩から落ちる。
「……また負けたか」
「そうだ」
「相変わらず、腹が立つ」
レイは大剣を下ろした。
K-Tも刀を鞘へ戻す。
メバルたちは、ようやく息を吐いた。
「終わった……?」
カキが尋ねる。
「一応な」
K-Tが答える。
「一応って何!?」
そのとき、レイがK-Tへ歩み寄った。
「昔のことを覚えているか」
「忘れるわけがない」
「私の武器を壊したことも?」
「必要だった」
「杖に偽装したショットガンで、私の大剣を吹き飛ばした」
レイの声が低くなる。
メバルたちはK-Tを見た。
「杖に偽装したショットガン?」
「そんなもの持ってたの?」
カキが目を輝かせる。
「昔の武器だ」
K-Tは答えた。
「お前は、あのとき私を殺さなかった」
「殺す必要がなかった」
「そして、壊した武器の代わりに新しい武器を作った」
レイは、手にした折りたたみ式の大剣を見下ろした。
「この武器も、お前が作った」
「使えるだろう」
「使える。だから余計に嫌いだ」
レイは大剣を折りたたんだ。
かつてレイは殺し屋だった。
依頼を受け、K-Tと敵対し、何度も彼の前に立ちはだかった。しかし最後の一騎打ちで敗れ、武器を失った。
K-Tはレイを殺さなかった。
代わりに、彼女の戦い方に合わせた新しい武器を作った。
それが、今の折りたたみ式大剣だった。
「今度は敵じゃない」
レイが言った。
「最初からそう言ってよ!」
メバルが大声で突っ込む。
「敵なら、扉を切った時点で全員倒れている」
「それを先に言って!」
カキが胸をなで下ろす。
しかし、レイはすぐに五人を見渡した。
「敵ではない。だが、弱い」
五人の表情が固まる。
「メバルは踏み込みが浅い。カキは銃口が浮く。マサカゲは守ることに集中しすぎて、自分の隙を見ていない。ミステーは弓を構える前に呼吸が乱れている。アオノは端末しか見ていない」
アオノが少しだけ顔を上げた。
「最後の指摘は、K-Tにも該当する」
「俺はいい」
「なぜ?」
「経験がある」
レイはK-Tを見た。
「経験があるから、一人で戦おうとする」
K-Tは黙った。
マサカゲがレイへ向き直る。
「あなたは、この訓練に協力してくれるのか」
「K-Tに頼まれた」
「頼んだのは俺だ」
K-Tが言う。
「俺たちを鍛えるために?」
「そうだ」
レイはしばらく五人を見つめた。
やがて、大剣を床へ立てかける。
「いいだろう。ただし、甘やかすつもりはない」
「どのくらい厳しいの?」
メバルが尋ねた。
「失敗すれば痛い」
K-Tが付け足す。
「死なない程度だ」
「その基準が怖いよ!」
メバルの悲鳴が、地下訓練施設に響いた。
レイは訓練施設の中央へ歩いていく。
「まず、全員で私に攻撃しろ」
「いきなり!?」
「実力を確認する」
メバルが剣を抜き、マサカゲが腰を落とす。ミステーは弓を構え、アオノは端末を起動した。カキも拳銃を握ったが、銃口がわずかに震えていた。
K-Tは壁際へ下がる。
「Kさんは参加しないの?」
「見ている」
「ずるくない?」
レイが大剣を展開する。
刃が伸びるたびに、空気が震えた。
「来い」
五人が一斉に動く。
その瞬間、地下施設の最奥で、誰も触れていない古い機械が起動した。
赤いランプが一つ、また一つと点灯する。
壁面の画面に、見慣れない文字列が表示された。
『管理者認証――K-T』
『戦闘記録、照合開始』
K-Tだけが、その表示に気づいていた。
彼は画面を見つめ、わずかに目を細める。
「……まだ残っていたのか」
レイの大剣が、五人の目の前で止まった。
訓練が始まる。
そして、地下施設の奥では、過去に封じられた何かが、静かに目を覚まし始めていた。
コメント
1件
わあ、第2話もすごく熱かったです…!K-Tさんとレイさんの戦闘、一瞬たりとも目が離せませんでした。お互いの動きを読み合いながら、武器を次々に切り替える展開が本当にスリリングで。特に「見てからでは遅い」っていう台詞、痺れました。レイの過去と、K-Tがわざわざ彼女のために武器を作ったってエピソード、そこにどんな因縁があるのか気になりすぎます…!しかも最後に地下施設の機械が動き出すなんて、もう続きが待ちきれないですね…!