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第三次作戦『プロジェクト・アパシー』が始動した翌日から、Snow Manの楽屋には、今まで誰も経験したことのない、奇妙で、そして、少しだけ不穏な空気が流れ始めた。
原因は、明らかだった。
阿部亮平と、佐久間大介。
いつもなら、磁石のように隣に座り、楽しそうに笑い合っているはずの二人の間に、目に見えない、冷たい壁ができていたのだ。
「阿部ちゃーん!見て見て!このアニメの新作グッズ!超可愛くない!?」
佐久間が、いつものように太陽のような笑顔で、スマホの画面を阿部に見せる。
しかし、阿部は、ちらりと一瞥しただけで、すぐに自分の読んでいた本に視線を戻した。
「…へぇ、よかったね」
その声は、平坦で、何の感情もこもっていない。
いつもなら、「わー、本当だ!このキャラクター、佐久間が好きそうだね!」と、一緒になって盛り上がってくれるはずなのに。
「…え?」
佐久間は、一瞬、きょとんとした顔をしたが、阿部がそれ以上反応しないのを見て、少しだけ、寂しそうに口を閉じた。
それは、ほんの始まりに過ぎなかった。
楽屋での席順。いつもなら、自然と佐久間の隣が阿部の定位置だったのに、彼は、わざと一番遠い席に、すっと座る。
目が合っても挨拶もせず
ふい、と逸らしてしまう。
佐久間が話の中心になって盛り上がっていても阿部は、一切その輪に入ろうとせず、イヤホンをして自分の世界に閉じこもってしまう。
その、あまりにもあからさまな『塩対応』。
最初は、「阿部ちゃん、疲れてるのかな?」「なんか、考え事でもあるのかな?」と、心配していた佐久間も、それが数日間続くと、さすがに気づき始めた。
これは、ただの不調じゃない。
意図的に、避けられているのだと。
その事実はじわじわと、しかし確実に。
佐久間の心を蝕んでいった。
いつも楽屋を照らしていた太陽は、だんだんとその輝きを失っていく。
大好きだと言っていたアニメの話をする声も、どこか元気がなく、トレードマークの大きな笑い声も、めっきりと、聞こえなくなった。
その異変には、もちろん、他のメンバーも気づいていた。
「…おい、あいつら、マジで喧嘩でもしたんじゃねぇの?」
渡辺が、心配そうに眉をひそめる。
その隣で深澤が、腕を組んで難しい顔で言った。
「いや…喧嘩だったら、あんな、冷たい目、しねぇよ」
「…阿部の目、あれは、喧嘩じゃねぇ。完全に、“実験”してる目だ…」
そう。
阿部の心は、決して平穏ではなかった。
日に日に元気をなくしていく佐久間の姿を見るたびに、胸は罪悪感で張り裂けそうになる。今すぐ駆け寄って、「ごめん」と抱きしめてしまいたい衝動に、何度も駆られた。
でもだめだ。
これは作戦なのだ。
彼に「完勝」するための、最後の、そして最も重要な布石。
阿部は、冷徹な研究者の仮面を被り続け、ただ、静かにその時が来るのを待っていた。
太陽が完全に光を失い、自分の助けを求めてくる、その瞬間を。
楽屋の淀んだ空気はまるで、嵐の前の静けさのように重く、重く張り詰めていた。