コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
今日の昼頃だ。 そんなにお酒を飲みすぎと近い内に肝硬変になりますよ、と医者に怒られた。
はい、気をつけます、と言い俺は病院の帰りにドラッグストアでウィスキーのボトル2本購入した。
俺は卓也に振られてから毎晩お酒を飲むようになった。
いい大人が失恋したくらいで酒に溺れるなんてどうかしてる、と思うくらい自分でも呆れるくらいだ。
卓也とはLINEのやり取りをたまにするが、台湾旅行以来もう会ってない。
ただ卓也にはもう会わない、と自分でいい聞かせ、俺は淋しさを埋める目的で、毎晩酒に溺れる日々が続いていた。
今夜は久しぶりに航平さんと中目黒に飲みに行く予定なのだ。
「ふぅん、卓也君に振られたんだね…」
「そう、ホント、バカな話しだよね」と俺は笑いながら航平さんと電話で話した。
「まぁ、飲んで忘れちゃえばいいさ」
航平さんは相変わらず男らしいトーンで余裕のある感じに笑いながら言う。
「そうだね、今夜はとことん飲むよ」
「まぁ、ほどほどにな」と航平さんは言う。
「はーい、とりあえずまた後で」と言って電話を切った。
俺はため息を吐き、ソファーにもたれた。
横には卓也がもう座る事もない、一人掛けソファーを見つめながら、俺は卓也との思い出に浸った。
考えれば考える程、無性に淋しさに襲われる…、俺はベランダに出てタバコを吸って気持ちを落ち着かせる事にした。
今日は風が強く吹いていて気持ちいい…黄昏れながらタバコをふかしているけど結局寒くて、部屋に戻ってしまう。
時刻は16時、そろそろ準備して中目黒に向かわなくては…と慌てながら着替えて駅に向かう。
中目黒駅に着くと改札の前で航平さんが待っていた。
「ごめん、お待たせ、けっこう待った?」
「いや、全然だよ」と航平さんは爽やかに笑った。
今日の航平さんはなんだかいつもと雰囲気が違っていて、ジャケットにジーンズとローファーを組み合わせ、胸元にはシルバーのネックレスをつけた小洒落た綺麗めの服装だった。
「今日は何系がいい?」と航平さんが聞いたから「航平さんのオススメにお任せしてもいい?」と俺が言う。
「おう、じゃあ一樹君が普段行かなさそうな場所に連れていってあげるよ」と言い、航平さんはスタスタと歩いていった。
着いた店はヴィンテージマンションの一階のオープンテラスがあるかなりオシャレなイタリア料理店だ。
「ここの焼き釜で焼いたマルゲリータピッツァがオススメなんだよ」と航平さんが言う。
「そうなんだ、それは楽しみだね」と俺は言い、辺りをキョロキョロしながら挙動不審にソワソワした。
「どうしたの?」と航平さんが笑いながら聞いた。
「あまりにもオシャレな所だから場違いの服装で来ちゃって恥ずかしいの」
航平さんは白い歯を見せながら爽やかに笑った。
「大丈夫だよ、ここはそんな敷居の高い店じゃないからさ」と航平さんが言う。
「そうなの?でも俺はこんなオシャレな所あまり行かないから緊張しちゃうよ」
「一樹君ってこういう場所あまり行かないもんね」と航平さん笑いメニューを開きウェイトレスを呼び何品か注文し始めた。
「一樹君はワインなら赤と白どっちが好き?」
「うーん、俺は白派かな?」
「わかったよ、ならオススメなのがあるからそれにしよ」と航平さんはウェイトレスに注文した。
「中々オシャレなお店だね」
「そうでしょ?春には目黒川の桜が咲くと夜桜も楽しめるんだよ」と航平さんはにっこり笑った。
他愛のない話しをしていたら焼き立てのマルゲリータピザとボトルのリースリングワインが運ばれてきた。
ウェイトレスがグラスにワインを注ぎ下がっていくと、「桜の時期になったらまた一緒にここで飲みたいね」と航平さんが唐突に言う。
「そうだね、きっと楽しいと思うよ」と言い、俺はグラスに注がれたワインを一口飲みながら、外の景色を見た。
外は冬だから枯れ木姿の桜しか見えないけど、冬は冬でまた何とも言えない哀愁感漂った雰囲気があって好きだ。
「そういえば台湾旅行はどうだったの?」と航平さんがニヤついた表情で聞いた。
「楽しかったよ」と俺は目線を店内の壁を見つめながら言った。
「そうなんだ、で、卓也君とは?」とまたしても意地悪な質問してきた。
「一件目でこの話しは早いよ」と俺は笑い、グラスのワインを飲み干した。
そう…航平さんは意外と紳士的な雰囲気もあるが、意地悪でお茶目な所もあるのだ。
「わかったよ、食事を終えたら二件目に行こう」と航平さんは微笑みながら綺麗にグラスに口を付け白ワインを喉に流した。
「さてと食事も終えたし、ワインも食事も堪能したから、そろそろお会計でもしようか」と航平さんは言い、カウンターに向かっていった。
「割り勘だからニ千五百円出せばいい?」と俺は航平さんに聞くと「ここは俺が奢らせて」と言い、航平さんはカードで素早くお会計を済ませてしまった。
「悪いよ、せめて二件目だけは奢らせて」と俺が言う。
「ダメ、今日は俺が全部出すよ」と航平さんはにっこり笑い、「今日は俺が一樹君をエスコートする日だからね」と清々しいほど爽やかな甘いマスクのような顔でニコッと微笑んでいる。
「航平さん…どうして自分なんかの為にこんなのに尽くしてくれるの…自分なんて…自分なんて…」と俺は心の中で呟きながら、無性に罪悪感に襲われて、情けない気持ちに襲われた。
「ありがとう航平さん…」と俺は航平の目をしっかり見ながら伝えた。
「なんだよ、一樹らしくないじゃん」と航平さんは笑いながら言うのだ。
今日の航平さんは物少い神々しいほど爽やかで美しく、大人の余裕を帯びたカッコいい男性に見え、ため息が出るほどだった。
「ありがとう、今日はたのしかったよ」と航平さんに伝えた。
「何言ってるんだよ、楽しみはこれからだよ」と航平さんは、ほろ酔い状態の俺の手を引きながら夜の目黒川沿いを歩いた。
酔っていて、周りが少しぼやけていてここが何処なのか、けっこう歩いた気がする。
道路の標識には祐天寺と表記されていた。
「隣りの駅まで歩いたんだね」
「うん、少しは酔い覚ましになったかな?」と航平さんは言う。
「少しだけね…」と俺は気怠そうに言うと、航平さんはクスッと笑った。
「すぐそこ俺の家だけど寄ってく?」と航平さんは低層階マンションを指差して言った。
「うん、じゃあおじゃましちゃおうかな?」と俺は言い、航平さんのマンションに向かった。
航平さんとは二年程友達をやってきたけど、航平さんのお宅におじゃまするのは初めてなのはもちろん、祐天寺に住んでいるのも初めて知った。
航平さんと会うのはだいたいは新宿だから、何処に住んでいるのかもいちいち知る必要もないし、自分からも聞いた事がないのだ。
そんな事を考えている内に航平さん宅の玄関に上がっていた。
玄関上がってすぐにキッチンがあり、その先には十畳ほどの角ばった部屋が広がっていた。
部屋には航平さん好みのアーティストが描いた現代アートや、アフリカのインテリア雑貨、無造作に壁にかけられた洋服に、出窓には綺麗に植え付けた水草水槽が置いてあるのだ。
「凄い…無造作だけど芸術的感性を感じる部屋…」と思わず呟いてしまった。
「俺の好きな物をすべて集めた部屋だから統一感ないでしょ?」と航平さんは言う。
「全然…むしろそれが遊び心があって面白い…」
「ありがとう、とりあえずソファーに掛けなよ、お酒は何がいい?、ビール?ジン?、ラムやカシャーサもあるよ?」と航平さんは言い、キッチンからタンブラーを取りながら言う。
「ならカシャーサをソーダで割った物をちょうだい」と俺は長ソファーに腰を掛けながら言った。
「オッケー、任して」と航平さんは微笑みながらカシャーサを水色の琉球ガラスのタンブラーに注ぎ、ライトグリーン色をした冷蔵庫から炭酸水を取り出し、冷蔵庫をパタンと閉めて、タンブラーに注いで割ってくれた。
「どうぞ」と航平さんはソファーの前のガラス製のローテーブルに置いてくれた。
「ありがとう、乾杯」と言い、二人でソファーに並びお酒を飲んだ。
「ネットフリックスでも見る?」と航平さんが聞く。
「うん」と俺はグラスに口を付けながら頷いた。
航平さんはリモコンを弄り、「クィア・アイ」という番組をつけた。
「この番組は5人のゲイが自分を変えたいという男性を、ファッションやインテリアのプロフェッショナルとして変えていく番組で好きなんだよね…」と航平さんは言う。
「なるほどね…」と俺は呟くように言い、カシャーサのソーダ割りを飲みながら、その番組を見た。
確かに、意識高さそうなオネェ5人が忙しなく動いており、パッとしないノンケ男をイメチェンしていて面白いとは思った…。
「つまみいる?」と航平さんが急に唐突に言う。
「できれば、欲しいかな?」と俺はヘラヘラ笑いながら言った。
航平さんはキッチンに向かい、戸棚を開け、お皿にミックスナッツを入れてくれた。
「ありがとう」と言い、俺はナッツをつまんだ。
「ミックスナッツのクルミが好きで、いつもクルミだけ食べちゃうんだよね」と俺は呟くように言った。
「え?どうしてなの?」と航平さんは興味深そうに笑いながら聞いた。
「アーモンドやカシューナッツと違ってクルミだけ歪な形をしていて面白いから」と俺は言った。
航平さんは大きく笑い、「まるで一樹君みたいだね」と言った。
「ちょっと!どういう意味なの?」と俺も笑いながら言った。
「その言葉通りだよ」と航平さんは笑いながら言う。
「いじわる」と俺は呟き、航平さんを睨んだ。
「ごめん!、悪気はないけど一樹君が変な事を言うから面白くてつい!」と航平さんは笑いながら言った。
「まったく…悪趣味な人」と俺は航平さんに言った。
「ムッとした顔も可愛いんだから」と航平さんは俺の頬を触りながら言う。
「まったく…」と俺は呟きながら航平さんに言った。
「でも卓也君と付き合わなくて正解だったかもよ?」と航平さんが唐突に言った。
「えっ?どういう意味?」
「君みたいな変わったおかしな人は、あんな人とは合わないよ」と航平さんは真面目な表情で言った。
「はぁ?」と俺は頭が真っ白になりがら言った。
「君みたいな変わり者、卓也君にはもったいないよ」と航平さんが言う。
「それ?貶してるのか、褒めてるのか分からない」と俺は航平さんに言った。
「もちろん褒めてるよ、誤解しないで」と航平さんが笑いながら言う。
「もしだけど、一樹くんが良かったら俺たち付き合わない?」と航平さんが軽い感じに言った。
「え…?」と俺は固まってしまった。
「急に言われても…航平さんの事、ただの友達としか思ってなかったし…」
「嫌なら無理しなくてもいいよ、でも前向きに考えてみてほしい」と航平さんは俺の肩に手を置きながら、真面目な眼差しで見つめながら言う。
「わかった…」と俺は呟いた。
確かに航平さんはユーモアがあり、面白くて、容姿もいい…それに一度だけ身体の関係もある…けど恋人になど考えた事なかった、でも…。
「一樹…?」と航平さんが言う。
「付き合ってみるのもいいかもしれないね」と俺は言った。
「yesって事?」と航平さんが聞いた。
「うん」と俺は言った。
航平さんは「ありがとう」と言い、俺を抱きしめた。
俺も航平さんの肩に手を回し、抱きしめたのだった。
今日から航平さんと俺は友達から恋人関係になった。
卓也に振られた悲しみ、絶望から、こうして航平さんに愛情を注がれるなんとも不思議な感覚を味わった。
窓には青白い三日月が浮かんでおり、月に見守られるなか、航平さんとベッドの上で激しくキスをされながら抱かれ、熱い夜を過ごすのだった…。