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御子柴さんの手が、私の顔に近づく。
まつ毛が触れそうなほどの距離。
彼の集中しきった瞳が、私だけを捉えている。
誰の影でもない、白河結衣という一人の人間を、彼は今、見ている。
「……目を閉じて」
その掠れた囁きに、私は抗えずに瞼を閉じた。
瞼の上に、羽のように軽い筆が触れる。
頬に当たる、彼の温かな吐息。
(私なわけ、ないのに……。どうせみんな、妹にしか興味ないはずなのに)
呪文のように繰り返してきた言葉が、彼の丁寧な筆先によって、一つ、また一つと消されていく。
やがて、「いいですよ」という声がして、私はゆっくりと目を開けた。
鏡の中にいたのは。
今まで見たこともない、強く、しなやかで、そして自分でも驚くほど――輝いている、私の姿だった。
「……これが、私……?」
「ええ。世界で一番、あなたに似合う色です」
鏡越しに、御子柴さんが優しく微笑んだ。
私の心に張り付いていた分厚い氷が、今、初めて大きな音を立てて溶け始めた。