テラーノベル
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鏡の中にいるのは、見慣れたはずの私ではなかった。
今までの私は、自分を守るためにメイクをしていた。
濃いアイラインで威嚇して、隙のない肌で他人を拒絶して。
それはまるで、戦場へ向かうための「戦化粧」だった。
けれど、御子柴さんが施してくれたのは、それとは正反対。
目元には、体温を感じさせるような絶妙なテラコッタ。
頬には、内側から滲み出るような柔らかなツヤ。
「……私の、顔じゃないみたいです」
思わず独り言が漏れる。
クールだと言われてきた私の顔立ちを活かしつつ、そこには確かに「熱」が宿っていた。
「いいえ。それが、あなたが本来持っている魅力なんですよ」
御子柴さんは、私の背後に立ち、鏡越しに私を見つめた。
その瞳は、工芸品を愛でる職人のように穏やかで。
それでいて、一人の女性を慈しむような、深い優しさに満ちていた。
「今まで、どれほど分厚い鎧を着ていたんですか?」
不意に彼から投げかけられた言葉に、胸の奥がキュッと痛む。
彼は、私のメイクだけじゃなく、心まで見抜いている。
「……鎧を着ていないと、壊れてしまうから」
自分でも驚くほど、素直な言葉が出てしまった。
妹の影に隠れて、誰からも選ばれない自分。
いつか裏切られるくらいなら、最初から誰も信じない方がいい。
そうやって必死に守ってきた、私の小さなプライド。
「白河さん。……あなたは、壊れやすくなんてない」
御子柴さんが、私の肩にそっと手を置いた。
大きな、温かい手。
その重みが、強張っていた私の体を解きほぐしていく。
「あなたが積み重ねてきた仕事、その真面目さ。それこそが、何よりも強いあなたの輝きです。……自信を持ってください」
彼は、私が一番欲しかった言葉を、さらりと言ってのけた。
妹と比べて「可愛い」と言われるよりも、私の生き方そのものを肯定されることが、こんなにも救いになるなんて。
視界が、少しだけ熱くなる。
私は慌てて瞬きをして、溢れそうなものを押し込めた。
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