….事件だ。
新田先輩とお昼ご飯を食べられる最高のチャンスなのに、先輩が先に居るところを見て足がすくんでしまう。ド緊張だ。
….でもさすがにもう待たせたくない。気張れ。
「…っ新田先輩!!すいません遅れて!」
「おぉ!西垣くん!!!!お疲れ!」
かなり早く来てくれていたのはわかっているのに、自分も今来たところだと笑ってくれる先輩の優しさに、胸が締め付けられる。
「お疲れ様です….!先輩今日パンなんですか?」
「持ってくんの忘れちまった!!!」
と呑気に笑う。本当に笑顔が耐えない人だ。
……..俺がここまで緊張しているのにも、ちゃんと理由がある。
先輩に弁当を、作ってきたのだ。
料理なんて不慣れなものに挑戦したせいで随分と寝不足だが、姉の協力もあってなんとか形にはなったと思う。
「….せ、先輩!!!きもかったり腹いっぱいだったりしたら全然食ってもらわなくて大丈夫なんすけど!!!よ、よかったらコレ、!」
弁当を差し出した手が震える。
「え、これ…まさか俺に?」
き、きもいよなぁやっぱり…..
断り入れときゃ良かった……
「す、すいません、、。先輩にお昼誘われて俺嬉しくて。この前のお礼も兼ねてなんか返せねぇかなって….」
「え、まじで嬉しい!!!美味そう!ありがとうな!!」
先輩は目を輝かせながらそう言ってくれた。
「ま、まじで俺普段料理とかしないし不味いかもしれないです….」
「え、西垣クンが作ってくれたのか?」
「は、はい…だからほんと、まずいかm」
「いただきます!」
先輩はそう食い気味に答えて、何気に1番苦労した卵焼きを口に運んだ。
(いやまじで…..なんか自分が作ったモン人様に食べてもらうのってこんな緊張すんだ…お母さんいつもありがとう……)
「…..」
俺は先輩がもぐもぐと無言で咀嚼しているのを見つめた。
(めっちゃ噛んでるかわいー…….)
「これ…..」
「は、はい!口に合わなかったっすか…?」
「まっっじで美味い!!俺卵焼き甘めが好きなんだけどさ、超好み!!!!光料理上手いなぁ!」
美味しいと言って貰えた嬉しさと、いきなり名前呼びされた衝撃と照れでなんと言ったらいいか分からなかった。
「…ま、まじですか….よかったぁ、、、!!」
「他のもめちゃくちゃ美味いよ、ほんとにありがとうな!!!!」
あぁ…..
「好きだなぁ….」
「お?」
………
え、待って俺今口に出してた?え?
や、やややばい流石に気づかれてはないよな?
早く誤魔化さないと!!!!!
「た、卵焼き!俺も甘めが好きです!」
「おぉそうなのか!!!じゃあほい!」
先輩が卵焼きを箸で掴んで、俺に食べさせようとしてくれた。
「え、え、」
困惑しながらも、思い切って差し出された卵焼きを食べた。
「美味いだろ!作ったの俺じゃないけど!光だけど!!」
二カーっと嬉しそうに笑う先輩が素敵で、
今俺がされたのは俗に言う『あーん』だったことに気づくのに時間がかかった。
(やべぇ…..あーんされたよ先輩に….つか間接キス….うわぁああぁあ!!)
先輩の距離の近さに、これでもかと言うほど振り回されてしまう。それでも幸せだと思っている自分に驚く。
「先輩、またお昼ご飯一緒に食べてくれますか?」
「んー?当たり前だろ」
「よっしゃ!!!」
正直、先輩は俺に気を使って1度話す機会をくれただけだと思っていたので、当然のように承諾されたことに喜びを隠せなかった。
「てか、週1くらいで食べないか誘おうと思ってたんだけど….」
「へっ?」
「今度は俺もなんか作ってやりたいし!光といんのなんか楽しいからなぁ」
「ほ、ほんとにいいんですか?夢じゃない..?」
「そんなか?!夢じゃねぇよ、かわいいなぁお前!」
週1は確定で先輩に会えるってことか…最高….
「も、もういつでも空いてるんで先輩が誰かと約束してない日誘ってください俺も一緒に食べたいです!!」
「じゃあ毎週月曜、光の昼休み俺が貰ってもいいか?」
い、言い方….この人ほんとずるいな
「もちろん喜んで差し上げます……!」
「へへっやりぃ」
そう言って鼻先をかく先輩は、なんだか少し幼く見えた。
「…あ、そろそろ予鈴なっちゃいそうですね..」
(まだ一緒にいたかったけど..一緒に食べれただけで大進歩すぎるな…..!!)
「そうだなぁ、頑張ろうな」
そう言って先輩は笑顔で俺の頭を撫でる。
(ちょ、まじでキャパオーバー!!!!子供扱いなのかなぁこれ?!)
顔が熱い。先輩にまで熱が届いてしまいそうだ。
「来週話せんの楽しみに頑張ります!!」
「おう!!俺も!」
そう話して俺たちは自分のフロアに戻った。
先輩に撫でられた感覚がまだ抜けない。
(はー…..夢かよまじで…好き…….)
先輩への想いを膨らませながら、軽い足取りで教室へ戻った。
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