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冬の凍てつく寒さが体に沁みる。
少しでも暖まりたいと思い、私は暖炉に薪をくべ、火をつけた。
時刻はもう0時を過ぎる頃。
外は闇に覆われ、街灯も消えかかっている時間帯だった。
「力が…欲しいか…?」
ねっとりとした声で、隣のコウモリが囁いた。
「…そういうのいいから。」
私はきっぱりとそう答える。
しばらく経たないうちに、コウモリ…いや、キラは姿を現した。
「何だよケチくせぇ…。あ、さ~て~は~?」
「黙れ。」
「…はーい…。」
キラは私の言葉で分かりやすく勢いをなくし、隣にそっと座った。
…まあ、キラが言いかけていた「なにかがあった」のは事実だ。
現に、私がそうであるように、キラがそうであるように、*あの人*がそうであるように。
ここの世界、カイルムに来ていたのだ。
…ただ、厄介な点が一つある。
カイルムは、特定の者しか記憶を引き継いでいられない。
ここに来る時の衝撃は遥かに強いのだ。
そして、自分の現世での記憶を忘れ、各々割り振られた立場で生きていく。
私が巫女であるように。
*あの人*が、―――であるように。
不意に、後ろのドアが鳴る。
小さいノック音、三回。
「神樂、あんたでしょ?」
私がそういうと、彼女は不服そうに「ぴんぽーん。」と言いながら入ってきた。…いや、不服そうなのはいつもの事か。
神樂はキラにお構いもしないで、キラの上に座った。
キラはそこから動くことができず、ただ固まっている。
「…ねえ、轟雷。」
神樂は私の名を呼んで、こちらを冷徹な目で見た。
「なに?神樂。」
私は笑って受け応える。
…しかし、次に神樂の口から出てきたのは、蔑みでもなく、罵りでもなく、純粋な疑問だった。
「…あなた、前世の記憶でも持ってるの?」
私の時が一気に止まる。
薪は少し形を崩し、パチッという音と共に燃え始めた。
「…ま、まさかね。」
苦し紛れに出た言葉はそれだった。
勿論、私は前世の記憶を持っている。
死因なんて、はっきりと。
死んだときの様子なんか、明確に憶えている。
…あれは、全部、全部。
*あの人*のせいだ。
*あの人*のせいで此処まで苦しんだ。
*あの人*に私の初恋相手を盗られたから。
*あの人*が…
委員長を…盗ったから…。
でも…肝心の…*あの人*が思い出せない…。
考えを巡らせているうちに見えたのは、二色の布であしらわれたキャスケットを深く被った、誰かの姿だった。