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――エルドアーク宮殿――
「ルヅキ様御帰還!」
次元断層内の異空間にその籍を置き、現世からはその存在を伺う事は出来ぬ狂座の本部、エルドアーク宮殿。
宮殿外から飛来する紅く光り輝く球体を、目視確認した中世風の鎧兜を身に纏う兵の一人が声を挙げ、それに続き出迎える様に数十名の兵達が、一斉に垣根の道を造る様に直線に整列する。
紅い球体は兵達の垣根の中心に降り立ち、その光が薄れ消えていくと共に、そこから一人の恐ろしいまでに美しき女性が姿を現した。
光界玉川奪取の為、地上へ出向いてたルヅキの本部への帰還である。
「……御苦労」
ルヅキは出迎えた兵達に声を掛け、入り口へ続く兵達による垣根の道をゆっくりと歩んでいく。
『相変わらずお美しい……』
歩み流れるルヅキのその姿に、兵達の誰もが魅入られていた。
ルヅキの美しさには、誰もがその目を奪われる。
だがその実は、狂座の最高幹部“当主直属部隊”その筆頭である。
“推定臨界突破レベル『200%』前後”
冥王不在に代わり、実質的にも実力的にも狂座の頂点に位置する彼女に、誰もが畏怖と尊敬の念で崇めていた。
兵達の垣根の奥に続く、その宮殿の入り口から人影が姿を現す。
「ル~ヅキ☆」
帰りを待ってましたと言わんばかりに、ユーリが天真爛漫な笑顔でルヅキの下へ駆け寄った。
「おかえりなさ~い☆」
周りの目を気にする事も無く、ユーリはルヅキの胸に飛び込む。それに対し、ルヅキは怪訝そうな表情を浮かべる。
「皆の見てる前だぞユーリ……」
ルヅキはそう咎めるが、仔猫の様にすりついてくるユーリの姿に、すぐにその冷徹そうな表情は崩れ、穏やかで美しいまでの笑顔となった。
『ルヅキ様が笑顔を!?』
『さすがはユーリ様……』
兵達はその光景に感嘆する。ルヅキのその表情を見た事のみならず、ユーリの恐れを知らないその行動に。
「だって心配したんだよ……ルヅキにもしもの事があったらって。でも成功して無事に帰ってきて良かった~☆」
そんな笑顔を見せるユーリの頭にルヅキは手を乗せ、その栗色の滑らかな髪を撫で下ろす。
「ああ済まない……。だが光界玉は我らの手に有る。我々の勝利だ」
ルヅキのその言葉に、周りの兵達が一斉に歓声を挙げた。
「オオォォォ!!」
「我々の勝利が!」
「ルヅキ様万歳!」
「狂座に永遠の栄光を!」
エルドアーク宮殿に歓喜の雄叫びが響き渡る。それはまるで、勝利の宴であるかの様に。
***
――――長老家広間内――――
誰もが憔悴しきっていた。余りにも犠牲が多過ぎた。
この一連の出来事での犠牲者は、惨殺された長老含む四十三名にも登った。その殆どが原形を留めていないので、集落全体を挙げての収容確認作業は困難を極めた。
漸くそれが終わる頃には、既に夜が明けようとしていた。誰もが一睡もしていない。それもその筈。村全体の十分の一以上の人命を失った上、最も危惧されていた光界玉までもが、狂座の手に渡ってしまったのだから。
「もう……終わりだ」
焦心に漂う広間内。誰がともなく呟く。
“冥王の復活”
三年前の恐怖が、近い内に再び繰り返される。
これからの事を考えると、絶望に苛まれるのも当然の事。
そんな中、ユキは広間の片隅で、アミの手による傷の手当てを受けていた。
塗られる傷薬。身体中の至る所に巻かれる包帯。アザミ戦程の致命傷を受けていなかったのは不幸中の幸いだが、傷だらけのその姿はとても痛々しく見える。
その二人の傍で、疲れきったのか床に平伏す様に眠るミオ。
「まだ……終わっていませんよ」
その憔悴漂う空気を打ち消すが如く、ユキがその痛々しそうな口を開く。
「ユキ……?」
アミはその手を止め、彼の横顔をそっと覗き見る。
痛々しい迄に傷付いたその姿。だがその深い銀色の瞳に、絶望の色は無かった。
「何を馬鹿な! 長老も殺され、光界玉も奪われた。これが終わりじゃなくて何だってんだ!!」
一人の男が声を荒げる。精神的にも錯乱状態にある様だ。
正に一発触発。広間内に不穏な空気が流れる。
「大きな声を出さないでください。大の大人が見苦しい」
「何だと!?」
男がユキの口調が癇に障ったのか、掴み掛からん勢いで叫んだ。
「ちょっと止めて!」
その雰囲気にアミが狼狽える様に声を出すが、ユキはそれを諌め、あくまで冷静に立ち上がり、広間内を見回す。
広間内には一族の戦士十数名が鎮座しており、怪訝そうな表情でユキに注目する。勿論、その中にはミイの父、リュウカも居た。
「まだ時間はあります。光界玉はキリトの特異能で創られた、云わば魂の結晶なんです。その力の結晶体は、そう簡単には破れません」
同じ力を持つユキのその言葉には、常識を越えた説得力があった。特にその力を施されたリュウカには。
“まだ終わりじゃない”
その言葉の意味に、僅かながら光明が差したかの様に周りの空気が、そして皆の表情が変わっていく。
しかし、すぐにそれは遮られる。
「とはいえ、そうのんびりしてる時間はありません。奴等も馬鹿じゃ無い。その力を中和する方法は有るのですから。奴等もそれに気付く筈……」