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――エルドアーク宮殿――
※第三研究室・桔狂の間
「解析の結果、光界玉は強力な光の力が凝縮された結晶体で有る事が判明しました」
周りが高科学機材、様々な液晶器具等が建ち並ぶ研究室内。白い化学者コートを身に纏う、直属の中でも異質な頭脳派のハル。台座に乗せた光界玉を横目に、その解析結果を冷静に述べる。
奪った迄はいい。だが、どうすれば封印が解けるか迄は解らなかった。だからこそルヅキはハルに、光界玉の解析を頼んでいた。
「面倒な事になっちゃったね……。いっその事壊しちゃえば?」
ハルに研究室へと呼ばれたユーリとルヅキ。
ユーリが強行手段とも取れる発言をするが、ハルはそれを却下する様に遮る。
「それが出来たら苦労しませんよ……。解析によると無理な衝撃を加える事により、もろごと消滅する危険の可能性が有る事を頭脳コンピューターは示していました」
“打つ手無しか……”
光界玉の解析結果により、ルヅキは頭を抱え込む様に表情をしかめる。
“甘く見ている訳では無いが、特異点はどれ程までに底知れぬ力を持つというのだ……”
「打つ手が無い訳ではありません」
ルヅキの思考を遮る様に、ハルが続けて口を開く。
その表情に焦りの色は無い。
「特異点キリトの光の力によって形成された、この光界玉。その力は確かに強力です」
ハルの眼鏡の奥に宿る、その灰色の瞳が妖しく光る。
「なら、その相反する力で中和すればいい」
そう。まるで全てが解決しているかの様に、自信有りげに呟いていた。
「でも、どうやって中和するの?」
ハルの案に、ユーリが不思議そうな表情で問い掛ける。
「頭脳コンピューターによると、現世に於いて最も妖力が集約しているとされる、東北の恐山。その頂きで中和作業が行えると導き出されています」
“恐山”
現在の青森県むつ市。北緯41度19分37.39秒。東経141度5分24.97秒に位置する、日本三大霊山の一つ。
「成る程、恐山か……。地理的に奴等の居る場所に近いな」
恐山という、その導き出された答にルヅキが怪訝そうに口を開いた。
「恐らく特異点も、この事に気付いてるでしょう。キリトと同じ特異能を持つとされるなら尚の事。鉢合わせる可能性は高いと思われます」
特異点との遭遇。ハルはその危険性を熟知しながらも口を開く。
他に道が無い以上、次にやるべき事は決まっていた。
「私が行こう。要は奴より早く、中和作業を終わらせれば良いだけの事。事は一刻を争いかねない」
ルヅキはそう言い、踵を返す。
「ボクも行く~☆」
ユーリが背を向けたルヅキの後を追う様にくっつくが。
「ユーリは此処に居て。何も闘いに行く訳じゃ無い」
「ええ~? でもぉ……」
ユーリは、またもや彼女と一緒に行動出来ない事に不満を述べる。
以前の様な闘いたいという気持ちでは無く、ただ純粋にルヅキの傍に居たい、心配しているといった表情で。
「とはいえ、中和作業中は無防備になりかねません。一人は些か危険なのでは?」
ハルもユーリと同じ考えで有るかの様に口を挟む。
「いや、その心配には及ばぬ。何も一人で行く訳では無い」
ただそれは、直属が揃って向かうと言う事を意味してはいない。
恐山に向かうのは、直属ではあくまでルヅキ一人。彼女は、その戦略思考をそっと口にする。
「私の片腕でも在る、第一、第二軍団長の両名を同行する」
ルヅキのその言葉の意味に、二人共驚愕に目を見開いた。
“第一、第二軍団長”
狂座の誇る主要部隊。その長たる軍団長の中でも最上位となる、一と二の番号を与えられた者。
「本気なの!? あの怪物達を……」
ユーリが考え込む様な仕草に対し、ハルはルヅキの考えに同調する。
「成る程。あの二人は軍団長の中でも特別な存在。護衛という意味なら、これ以上の存在はありませんね」
ハルの同意に、ルヅキは自虐的に微笑んだ。
「フッ……闘わずに済むなら、それに越した事は無いがな……」
あくまで目的は、冥王の復活が最優先。特異点の始末は、その後の事。
ルヅキは俯くユーリの傍らへ。そして、そっと抱き締めた。
“大丈夫だから”
その耳元にそっと呟き、再び踵を返す。
「終わったら迎えに行くからね~☆」
研究室をそっと後にするルヅキの背に、ユーリの声が反響する様に響いていた。
***
――――長老家広間内――――
「恐山!?」
ユキの言葉に、一同声を挙げた。
それもその筈。恐山はこの集落からはそう遠くない場所に在る山脈だが、彼処は妖の力が強過ぎる霊峰。東北に住む者なら、誰も近付いてはならないとされていたからだ。
「光の力を中和するなら、其処しかありません。狂座の者もその事に気付くはず。急がねば……」
ユキは身体を押さえながらも、刀を手に立ち上がる。
「ユキ!? まさか……」
今にも倒れそうな程、消耗しきっているユキにアミは信じられないと云った表情で声を挙げた。
「奴等より先回りして、其処で迎え撃ちます」
そのまさかである。彼はシグレとの死闘の傷も癒えぬ内に、もう闘いに赴こうとしていた。
「駄目っ! その身体で闘うなんて無茶よ!」
「分かってくださいアミ。急がないと大変な事になりかねないんです」
行こうとするユキを、アミは必死の想いで引き止める。
「それは分かってる……。でもせめて、せめて一日だけでも身体を休めて! お願い……」
それは懇願だった。一睡もしてない今の状態で、もし直属クラスと闘えば、結果は火を見るより明らかなのだから。
闘いが避けられないのならば、焼け石に水であったとしても、せめて少しでも体力の回復をと。
「アミ……」
懇願するアミの願い。その瞳に溢れる涙混じりの表情を見て、ユキは彼女の想いに応える事となった。
一刻を争うのは確かであり、休んでいる暇は無いのかも知れない。
しかし、実を担う“理詰め”だけが正しいとは限らない。
人を超えた力を持つとはいえ、特異点もまた傷付きか弱い。人としてのそれは変わる事は無い。
アミがユキを引き止めた、その想い。その願いは人として間違っていない。
そしてその想いは、人として失ってはならないのだから。